第12話 勝利はSランクの手に
「お……おお? 助かった、のか?」
「何がどうなってんだ?」
「水滴、いや氷の塊が……空に帰ってった?」
水滴が視界から消えていくのを見て、冒険者たちが口々に困惑の声をあげだした。
その中の一人が、こう聞いてくる。
「なあ、今のって……ユカタがやったんだよな。いくらユカタと言えどあんなことができるとは信じ難いが、かと言って他の誰かがやったって方が考えられねえし。一体、何をどうやったんだ?」
「ああ、あれは……超能力で宇宙の彼方に飛ばしただけっすよ」
正確に言えば、周回軌道上は宇宙の彼方とは言えないだろう。
だが、「地上に落ちてこない」って意味では、似たようなものと言っていいはず。
というわけで、そう答えた。
「あの質量を、宇宙の彼方に? わ、訳がわからん。なあ、お前は本当に人間……いや、本当に生物なのか?」
……なんか、変な疑い方をされてしまったぞ。
これどう返せばいいんだ。
そんな風に迷っていると、別の冒険者はこんなことを聞いてきた。
「なあ、ユカタって確か、自分の力で神剣を手に入れたんだったよな。その時も、今のその『超能力』とかいう化け物みたいな力を使ったのか?」
「ま、まあそうっすね」
正確に言えば「幻影色合わせゲーム」は超能力ではないのだが……それを説明しだすと余計話がごっちゃになりそうだからな。
これくらいの語弊ならそう大きく外れてはいないし、まあいいだろう。
「もしかしてユカタって、神剣使うより『超能力』を使った方が強い……なんてことはないよな?」
「いや、本気を出す場合は超能力の方が威力は出るっすよ。というか、神剣は戦闘補助程度に使うもんっすね」
「「「そんなSランクがいてたまるかぁ!」」」
うおおい、びっくりした。
会話を小耳に挟んでた冒険者まで声をかぶせるなよな……。
そんなこんなしつつも、やがて皆脅威が去ったことを実感しだしたのか、次第にあちこちから歓声が上がりだした。
「「「ユカタ、ばんざーい!!」」」
……いや、その掛け声はちょっと恥ずかしいんだが。
◇
「終わってから冷静になって考えてみれば、俺、ただ強がっていただけでしたね。ユカタさんがとんでもない力を使って解決してなかったら、本当に無駄死にしてただけでした……」
しばらくしてロイゼンが目を覚ましたので、俺は様子を見に行ったのだが、ロイゼンは開口一番、そんなことを口にした。
相当浮かばれない様子だな。
変におだてると逆効果だろうが、実際役に立っていた部分もあるので、そのことは過不足なく伝えてやろう。
「いや、そんなことはない。そもそも俺だって、最初はあの水滴を燃やし尽くしてしまうつもりだった。アレが炎で凍るのを発見してくれてなかったら、俺も危なかったと思う」
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいですが……でも、どうしてもやっぱり、愚かな行動に出てしまったんじゃないかって思っちゃって」
「まあ、見方によってはそうかもな。でも、こうも考えられないか? 合理性だけを考えて、解決不可能な問題からは簡単に手を引く奴はたくさんいる。そんな中だからこそ、一人くらい、たとえ愚かな判断に思えることでもやってみて、奇跡に賭ける人がいていいんじゃないかって」
「……なるほど! その考えは──大切にします!」
そう言うロイゼンは、少し元気を取り戻したかのように見えた。
良かった。
そんな時。
「あー、あのひとまたこっちにくるよー」
プヨンがそんなことを言うので、後ろを振り返ってみると……一人の男がこちらにやってきていた。
「さっきは失礼なことを言って、すまなかった!」
そう言って、男はロイゼンに向かって、深々と頭を下げた。
ああ。あの嫌味を言ってきた奴か。
「いや、その件についてはもう大丈夫だ。お互い、相手に気を遣える状況じゃなかったしな。もう水に流そう」
ロイゼンもそう言って、怒りは収まっているようだった。
水に流す、水滴だけに……いや、茶化しちゃだめだな、これ。
「俺、マジでSランク見直した。これからの活躍も、期待してるぜ!」
そう言って、男は笑顔で去っていく。
「……な? ロイゼンの勇気は、ちゃんとみんなの心に響いてる。だろ?」
「そうですね!」
俺たちは、再び賑やかになったギルドの雰囲気を、少し堪能していくことにした。
◇
「ユカタさん、今までお世話になりました」
天災の滴の日からちょうど一か月。
とうとう、ロイゼンがアチャアの街に帰る日がやってきた。
今までロイゼンがバヨエインにいたのは、ロイゼンの神剣が壊れていたからだ。
神剣が壊れていると神剣飛行が行えないとのことで、バヨエインの街に滞在していたのだ。
神剣は折れてしまった場合、一か月間使用不能になるが、一か月が経つと自動で修復され、再び使えるようになる。
そして今日こそが、その「神剣が再び使用可能になる日」に他ならないってことだ。
「おう。また会おうな」
「げんきでねー!」
「次会う時までに、もっと強くなっておきます!」
「ああ。頑張れ!」
そんな言葉を交わした後、ロイゼンが神剣の力で浮き始める。
これで一旦、お別れだな。そう、思ったのだが──
「ちょっと待って!」
叫び声に驚いて、そちらの方を向くと──血相を変えて、猛スピードで走ってくる人がいた。





