第11話 常識とかけ離れすぎた水滴と平和的解決
前半途中までロイゼン視点で、◇ ◇ ◇ の後から浴衣視点に戻ります。
「うおおおおおおぁぁぁぁ!」
連撃、連撃、更に連撃。
師範直伝の身体の動かし方で、ロイゼンは最も剣速の出る振り方をして、巨大水滴に衝撃を与えた。
直後、水滴はバラバラになった……かのように見えた。
だが、実際バラバラになっていたのは水滴の下部のみ。
しかもそのバラバラになった部分さえ、驚異的な表面張力により僅かに繋がっており、水滴はたちまち元の形状へと戻ってしまった。
「まだまだぁ!」
ロイゼンはそれでも、もう一度水滴をバラバラにしようと、更に剣を振る。
――ちょっとでも時間を与えると水滴が元に戻ってしまうのなら、一瞬たりとも剣を振る腕を止めなければいい。
あまりにも単純な考え方だが、剣しか取り柄のないロイゼンにとっては、その一心で剣を振るよりほか無かった。
しかし。
「……しまった!」
ロイゼンが水滴を斬り進み、水滴の中腹あたりまで来た時。
水滴の下部が、再びくっつき始めたのだ。
このままだと、ロイゼンは水滴に全身を囲まれてしまう。
そうなると、斬撃の威力が完全に水滴に吸収されてしまうため、水滴を斬る意味がなくなってしまう。
ロイゼンの斬撃は、余波まで含めても水滴の半径には遠く及ばない。
そのことから彼は、「あまりにも馬鹿げた表面張力を持つこの水滴は、斬っても斬ってもキリがない」という結論を出さざるを得なかった。
「……ならば!」
ロイゼンは一旦急下降し、水滴に呑み込まれるのを防ぐ。
そして今度は、神剣から炎を出した。
火炎放射vs水だと分が悪いと思い、それまでロイゼンはこの技を使わなかった。
だが、斬撃が全くの無意味なら、少しでも蒸発させた方がいい。
そう、判断したのだ。
猛然とした、しかし対面する水滴と比べたら心もとない業火が、水滴にぶつかる。
すると――どう考えても不自然な、あり得ない現象が起こった。
「凍っ……た……? な……ぜ……」
なんと、水滴は蒸発するどころか、炎が当たった部分を起点として凍り始めたのだ。
そして数秒後、水滴だったものは完全なる氷の塊と化していた。
「……訳が分からん。だが、それならばかき氷にしてやるまでだ!」
意図した結果ではなかったが、とりあえず地獄の表面張力から解放されたのは確か。
そう思ったロイゼンは、再び水滴に斬撃を浴びせようとしたのだ。
だが、百回ほど水滴を斬ったとき。
「……!」
水滴から何かが飛んできた気がして、ロイゼンは咄嗟にそれを避けた。
その直後、自身が持つ神剣を見てロイゼンは愕然とした。
神剣が折れていたのだ。
水滴が飛ばしてきたと思われた何かは、実は折れた剣の先だったのだ。
「終わっ……た……」
ロイゼンは、絶望から気が遠のいていくのを感じた。
自責の念が沸き起こるより先に、暗転する視界。
「……続きは俺にやらせてくれ」
そんな中、ロイゼンはそんな言葉を聞いた気がした。
◇
連鎖を組みながら、俺はロイゼンの様子をずっと見ていた。
いやマジ何だよあの水滴。なんで、炎を浴びたら凍るんだ。
まあ、ロイゼンが神剣から炎を出した時、近くの冒険者が「やめろ! そんなことをしたら凍ってしまう!」とか叫んでたので、単にあれがそういう性質を持つ不思議な水ってだけなんだろうけど。
厳密に言えば、魔法と神剣から出る炎は別物なんじゃないかとも思うが……水滴からすれば同じなんだろうな。まあいいか。
何にせよ、ロイゼンが水滴を凍らせてくれたのは、俺にとってはありがたい話だ。
巨大な炎の球で焼き尽くす気でいたからな。連鎖が無駄になるところだった。
こうなったら……テレキネシスで水滴(いまや氷滴?)を第一宇宙速度まで加速させて、周回軌道上に打ち上げてしまうか。
適当に放り上げて別の街に落っこちてしまうと、被害を別の場所に押しやっただけという結果になるからな。
海に落とすにしても、あの規模の水滴を落としたとなると海岸沿いの街に波の被害が出かねない。
被害をゼロにしようと思ったら、「落とさない」以外に方法は無いのだ。
あとそれから、魔法の副作用で水滴がどうなろうと関係ない方法じゃないといけないしな。
連鎖を開始して……いや待て。黄色のスライムを開始点にするつもりだったが、それだと途中で暴発して10連鎖になってしまう。
仕方ない。別のところで1連鎖だけして、そこにできた隙間で緑のスライムを繋げて、そっちから連鎖開始するか。
そう考え、とりあえず1連鎖する。
その間、落下してきたのを抱きかかえていたロイゼンを、地面に降ろした。
1連鎖分の魔力は、この惑星の自転方向を探知するのに使用した。
これにより、より少ない力で周回軌道上に載せられるような水滴の打ち上げ方向がはっきりする。
その後、本命の連鎖を開始した。
13連鎖。連鎖数はリヴァイアサンを倒した時と同じだが、当時と今ではレベルが文字通り桁違いなので、より高い威力になるはずだ。
連鎖中にも、水滴は自由落下によりとんでもないスピードで街に近づいてくる。
頼む、間に合ってくれ。
そうして、水滴が上空五十メートルといったところまで近づいてきたとき。
とうとう、連鎖が終了した。
ついに、魔法を放てる。
「はああああぁぁぁっ!」
無心になりながら、テレキネシスを発動。
それに伴って水滴は徐々に減速、次いで上に向かって加速しだし、空の彼方へと遠ざかっていった。
そしてとうとう、水滴は視認できないほど小さくなった。
黒雲も、霧散してなくなっている。
脅威は完全に去ったということなのだろう。





