048_最後のデート 2
前回はいちゃいちゃしてたけど。
重めの話ぶっこんじゃいました。
字がギッシリ。見た目から重そう。
「可愛い~」
俺は一冊目・二冊目の、まだ母さんに愛されていた頃の俺の写真を見せた。
母が撮影者になるしかないから、本当に俺しか写っていない。
今考えると、果たしてこの家はどこなのだろう。もちろん俺が今住んでいる家でもないし、母方の祖父母の家でもない。
年齢にして女子高生くらいの人が一人(俺も含めりゃ二人)暮らししているとは考えにくいのだが。
まあそれは考えても仕方のないことだ。
「次のはある?」
三冊目は、二歳~幼稚園のあたり。
一気に写真が減る。
一般的な家庭でも、一歳と二歳では一歳の頃の方が圧倒的に写真が多い家庭もたくさんあると思う。
でも俺の家の場合事情が違う。
この頃から何人かの男が日替わりで出入りするようになったからな。
俺への興味は段々薄れていっていたのだろう。
そんな事情も未羽は知らないはずだ。どう誤魔化すか俺は考えていた。
四冊目。水瀬家に引き取られた後だ。
ここからは櫻も写真に写っている。
「櫻ちゃんだ。可愛いっ」
「……翔、嫌ならいいの。嫌じゃないところまででいいから、事情とか、知りたいの。翔のこと出来るだけ知りたいからっ」
この辺の事情――なんで水瀬家に引き取られたか――は、確か初めて未羽を俺の家に招いたときにはぐらかした。
でも最後なんだし、別れるにしても未羽のことはずっと大切な人として俺の中で残り続けるはずだから、ちゃんと全部伝えるべきだと考えた。
「聞いて、」
あまり、愚痴になり過ぎないように。推測をいれないように、事実だけを淡々と。
俺の母さんは、若くして俺を生んだ。父さんのことは顔すら知らない。
母さんは俺が物心ついた頃から男を家に連れ込むような人だった。小学校に上がるころには金だけくれて、飯すら作ってくれないような人だった。
そんな俺を伯母さん、伯父さんが引き取ってくれた。なお、俺が水瀬家に引き取られた後の母さんが何をしているのかは知らない。
ちなみに伯母さんは篠宮家の長女で、母さんの年の離れた姉。
……結局、小学生くらいの頃は普通の家庭っていうのを味わえたけれど、伯父さんも伯母さんも仕事が忙しい人だった。
俺が高校に入った年から伯父さんは単身赴任。
伯母さんも、朝早くに出て夜遅くに帰ってくるからほとんど会わないし、週末は毎週伯父さんに会いに行っている。だから実質、暮らしているのは櫻と二人みたいなものなのだ。
「翔、お母さんのこと、どう思ってる?」
「人間のカス」
即答。未羽を少し怖がらせてしまっただろうか。
「もし、翔のお母さんが急に現れたら?」
正直、母さんのことを考えるだけでも吐き気がするのだ。
こんな話やめたいけれど、未羽に全てを話すと決めたから。
「顔も見たくない」
「じゃあ、私が翔のお母さんに会ってきたって言ったら?」
一瞬、思考が停止した。
「なん、で、」
俺の世界一嫌いな人と俺の暫定ではあるが世界一大切な人が会って話をしているなんて考えたくもない。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「ごめんなさい。会ってきた。任務の内容で、今まで翔に言うことすらできなかったの」
俺が重い話をしたはずなのに、未羽はもっと重い話で返してきた。
喉が渇きそうなほど長い話だった。
「あたしが未来人であることを、最低限よりも多くの人に知らせちゃいけないの。だからあたしのすることなすこと全て監視されている。言っていいこといけないことはすごく細かく決められていて、その規則を破ったら即、未来に強制送還される。その後も良くて牢屋、最悪なら人体実験」
「だから、未来人であることもついこの前まで言えなかったし、他の私の任務の内容だって翔に伝える必要がないと上に判断されたものは翔に言えない」
仕方ないと一言で納得できる理由ではない。
それでも俺は納得することしか出来なかった。
「……もちろん、あたしは翔が嫌なことを出来るならしたくない。でもこれを言うのも任務なんだ。ごめんね」
「香さんは、未来人……それもあたしのお兄ちゃんと恋に落ちた。でもお兄ちゃんも、私と同じ枠で過去に行っているの。だからお兄ちゃんも多分、クリスマス前後で香さんと別れた」
「要するに、私のお兄ちゃんが翔のお父さん」
はぁ??
「篠宮 翼。私の三歳上」
「……これ以上はいえないんだ。というか、過去に行くにあたって記憶を制御されているから、私自身でも必要最低限しか思い出せない」
「まだ、私のいた時間では、過去に行くことは研究段階なの。私が生まれるちょっと前に開発されたから」
「翔みたいな――本来いる時間軸が違う人同士の子供が生まれるっていうのは想定外だった。だから、未来側から特別措置として、香さんと翔が暮らせる家、香さんが浪人とか留年とかしなければ大学を卒業できる年までの翔や香さんが十分生活できるお金を与えた」
「香さんは確かに男を連れ込んだり夜の街に繰り出すようになった。……それも、元々は翔を育てるお金を貯めるためだった。結局香さんは高校中退しちゃったから、高収入で働ける道がそれしかなかった。もちろん、寂しさとかもあったんだと思うし、翔をきちんと育てることは出来なかったけれど」
もう脳の処理が追いつかない。本来なら知ることもなかった事情がぼろぼろ出てくる。
「これは未来側の見解とか香さんの話とかだから、全てが真実とは限らない。あたしはこれを伝えることしか出来ない」
「香さんの伝言。原文まま。」
「翔には謝っても謝りきれないほど申し訳ないことをした。何日でも何ヶ月でも謝りつづけても足りないくらいに。本当に自分勝手だけど、本当は会いたい。私は翔にほいほいと会いに行って良いような身分ではない。だから、もしも私に少しでも会ってやる気があるのなら連絡下さい。罵り倒しても構わない」
中身についてよりも先に、どうやってこんなに長い文章を覚えているのだろう、という素朴な疑問が浮かんでしまった。
未羽は鞄の中から紙切れを俺に差し出した。
メールアドレス、電話番号、住所。
「あたしが伝えるべきことは伝え終わった。……ごめんね、折角の最後の夜をこんな重くしちゃって」
「じゃあ今からは楽しい話で良いか?」
「もちろん」
まさか未羽と、あの女についての話をするとは思ってもいなかった。
この件についてはまた今度考えることにした。
とりあえず今は、あと数時間しかいられない未羽とイチャイチャしよう。決定。
お読みいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
次回予告!!ついに未羽とお別れします!!




