アクション映画の主役とヒロインは作中で恋仲になるけど、すぐ別れるらしい
縫香さんが自宅から水割りセットをもってきて、酒と煙管で魔力を蓄えられた事で、俺達は歩かずとも、縫香さんに運ばれて頬白家へと戻ってくる事が出来た。
縫香さんは来島さんと町田もそれぞれの家へと運んでくれて、それでも魔力が余っているぞ、と意気揚々としていた。
時刻は夕方時で、襟亜さんはあわてて着替えて買い物に行き、縫香さんとリザリィはリビングで酒を飲むと行って家の中に入っていった。
俺と真結、里詩亜さんの三人は頬白家の家の前で、赤く染まった空を見上げながら、もう屋根の上や物陰に化け物の姿がないのを確認していた。
「ひろくん、ごめんね……私、何も出来なかったよ」
「そんな事ないよ。最後に真結が助けてくれなかったら、俺はレヴィスト男爵に殺されて指輪を取られていたかもしれない。そうなったらまた大変な事になってたよ」
「……そう言ってくれると、ありがたいけど……」
「何も出来てないのは俺の方だよ。俺がした事って、来島さんの指にはまった指輪を触っただけだよ。そもそも戦いとか、俺には全然出来ないし」
「そうではないかもしれぬぞ弓塚殿。あの時、弓塚殿はレヴィストがテレポートしてきたのを止めたそうではないか。普通はそんな事は出来ぬ。予知能力でも授かったか?」
「あの時の事は……自分でもやろうとしてした事じゃないんです。ただ、咄嗟に、殺される、と思ったから、レヴィスト男爵のテレポートを無効化させただけで」
「十分じゃ。真結の与えた幸運が、弓塚殿に何らかの魔力ではない、人間としての力を与えたのかもしれんぞ。真結よ、お前は良い相手を見初めたのう」
「よ、よくわからないけど、ひろくんの事は、大切にしたいです」
「それならば真結は私と共に天界に来い。もう少し立派な天使として力を与えよう。今回のテラヴィスの保護がうまくいった事で、シャンダウ・ロー様もお喜びじゃ。真結は祝福を受けるに値する働きじゃった」
「ウサ子先輩がそう言うなら、天界にいきます」
「弓塚殿、人間は神を殺す力があると言われている。それはお主自身だけでは引き出せぬ力かもしれぬが、真結が引き出してくれるかもしれん。うぬぼれは良くないが、自信を持つ事じゃ」
「わかりました。ありがとうございます」
「では、私と真結とテラヴィスは天界に行ってくる。縫香達にそう伝えておいてくれ」
「はい、分かりました」
そう言うと、ラビエルさんは真結とテラヴィスを連れて、その場から姿を消した。俺はその事を伝える為に、頬白家に入ろうとしたのだが、その俺の手をいきなり里詩亜さんが掴んできた。
「あ、あの、弓塚殿……」
「あ、里詩亜さん、指は大丈夫ですか?」
「いや、指輪は全然取れないんだが、そういう事じゃなくて……此度は何度も助けて貰って、感謝の言葉も無い」
「里詩亜さんも、最後に俺を助けてくれたじゃないですか」
「まぁ、あれは、なんとかうまく行ったが、ラビエル殿の言う通り、弓塚殿がレヴィストを止めなければ、ナイフは心臓に届いていただろう。数センチの事だが、その数センチは弓塚殿が自分で身を守ったのだ」
「とにかく、気負いしないで下さい。里詩亜さんがいなければ、俺はとうに何回も死んでいますよ。ありがとうございます」
「で、あの、それで、これからの話、なんだが……」
「はい?」
里詩亜さんは何故か頬を赤らめながら、掴んだ俺の手を離そうともせず、言葉を詰まらせていた。
「これで、私は、グラーツ卿からの任務を終えた事になるのだが」
「はぁ……」
「でも、この指輪がある限り、私と弓塚殿の命は一つな訳で、私はこれからも弓塚殿を守らねばならぬと思うのだ」
「……つまり、帰らずに、ここに残るって事ですね?」
「そ、そうだ……よ、良いかな?」
と俺に聞かれても困る質問だった。
「俺は構いませんけど、里詩亜さんこそ大丈夫なんですか?」
「勿論、一生を共に添い遂げるつもりで、側に居ようと思う……っていうか、そういう事を言いたい訳じゃなくて、だな? いや、迷惑なら、家を出て行こうかと」
「一生ってのは、大げさですよ……せっかく硯ちゃんが居候で魔法をかけてくれたんですから、指輪を外す方法が見つかるまで、今のままで良くないですか? 俺は迷惑だなんて思ってませんし」
「そ、そうか。それなら良かった。うん、それがちょっと心配で……」
と、しどろもどろに言う里詩亜さんは、なんだかちょっと変な風に雰囲気が変わっていた。
以前のような、凜とした冷徹さがなく、なんだか目の前でフワフワと浮いている様な感じになってしまっていた。それは一件終わって、平穏が戻ってきたからかもしれないが。
「あの、それで、この手は……」
「あっ、す、すまない」
俺が指摘してようやく、里詩亜さんは手を離してくれた。そして、頬を赤らめたまま、それじゃ、また後で。と言って、俺の家の中へと帰って行った。
「なんだろう……なんか、変だなぁ……」
俺は首を傾げつつ、真結とテラヴィスの事について縫香さんに伝えておこうと、頬白家のリビングにお邪魔した。
「はぁ、なんとか一段落だな。良かった良かった」
「そうでもないわよ。まだシャロンは何かしてくるかもしれないわよ」
「それは私の知った事じゃないさ。魔界の奴らが自分達で対処すればいいんじゃない?」
「一応、魔界から恩給は貰ってるんじゃないの?」
「それだけの仕事はしてるよ。今回の件も、テラヴィスを保護出来たから、ナインスから何か言ってくるだろうよ」
「あ、縫香さん。テラヴィスと真結はラビエルさんに連れられて、天界に行きました」
「あら、そ。じゃあいよいよ私は関係無いな。天界と魔界で話をすれば良いさ。よしよし、全て丸く収まったって感じだな」
「縫香、そのジンは全て飲まないで、そこまでにして」
「なんでよ。これって私達が得たお宝なんでしょ?」
「そのジンは100年前に失われたものなの。作り方は地獄界でも分からなくなっているんだけど、それがあれば、またそのお酒を造れるのよ。増やしたいと思わない?」
「ああ、そんなに貴重な酒なのか……うん、勿論、増えた方がいい」
「じゃ、そこまでにして。リザリィが兄上のお城の酒職人に頼んで作って貰うから。きっと兄上も喜ぶわ」
「リザリィって、やっぱお兄さんの事、好きなんだ?」
「好きって言よりも、逆らえないって言うか、怖いって言うか、上司って言うか、ダーリンや真結ちゃんに対する愛情みたいな気持ちは無いわね。下手に捕まると数日はHの相手させられるし」
「おさかんだねぇ。精力強いんだな」
「そうそう。適当に地獄のサキュバスでも相手にしてればいいんだけど、相手の身体が保たないのよね。こっちもいい迷惑だわ。だから、そういうのを避ける為にも、ご機嫌はとっておいた方が良いの」
「地獄の事はよくわからないな。でもまぁその酒がまた飲めるなら、リザリィに任せるよ」
「じゃ、そういう事で、今夜はここまでね。ダーリン、今日はかまってあげられなくてごめんね、リザリィも忙しいの、それじゃ」
「ああ、うん、色々ありがとう、リザリィ。それじゃ、俺も帰りますね」
「はい、お疲れさん」




