魔女達の各個撃破
「出来ればこうなる前に助けて欲しかったんだけど、僕からのメッセージは通じなかったみたいだね」
「メッセージって何? 私は何も聞いてないわよ」
「シドニーに燃える犬をぶつけたんだけどね、意味が分からなかったみたいだ」
「ばっかじゃないの? そんな事してどうするつもりなのよ」
「テラヴィスには手を出すなって警告はしたよ。それなのにあいつらテラヴィスを捕まえて仲間にして、しかも白竜の角を取り返す為に、ここに来る始末だよ。カジンまで行かせたのに、全て手遅れさ」
「レヴィ、あんたの考える事なんて、他の人には誰にも分からないの。未だに何を考えてるんだかさっぱりだわ。いっそこの階段を登って、もう終わりにしてもいい?」
「やめてくれよ。今、君の仲間達が頑張ってる所じゃないか」
レヴィストはそう言うと、姿勢を崩さずに指を鳴らして、空中に映像を映し出す。一つは地下牢獄にいる弘則と真結。一つは城の最下層の通路を歩くラビエルと町田。一つは地下深くで途方に暮れているテラヴィスと硯、残り一つは死者の群れと戦う縫香と襟亜の姿だった。
「やっぱり、あんたの考える事って、リザリィにはさっぱり分からないわ。どうしてみんなバラバラにしたの? 何をさせてるの?」
「シザーリンド家の尖兵達を倒して貰ってるんだよ。シャンダウ・ローの天使は首尾良くゴーレムを倒してくれたし、シドニーとクロービスもアンデッド達を始末してくれるだろう」
「あとは頬白真結とリシアが占拠部隊の隊長を殺してくれるとありがたいね。テラヴィスと頬白硯は、地下のゴミ処理部屋でのんびりしてればいい」
難しい顔をしながら映像を見ていたリザリィは、地下牢獄の映像を見て、あ? と疑問の声を漏らした。
「隊長って、チーフテン・カルジャ!? 元は地獄界でブイブイいわせてたわよね? どこに行ったのかと思ったら、シザーリンド家になびいてたんだぁ……」
「おかげで衛兵は皆殺し、使用人達は皆幽閉中さ」
「それで無人な訳ね……で、シザーリンド家はなんでここに攻めて来て、そしてなんであんたをまだ生かしてるの?」
「アイスクロウの角が欲しいんだよ。テラヴィスは自分で捕まえるつもりらしい。でも、そのどっちもまだ、僕の手の中さ。だから殺せない」
男爵が姿勢に疲れて足を組み替えると、紫色の槍が床から飛びだし、その肉を貫こうとする。しかし槍はレヴィストの太股にささる前に折れて砕け散っていた。
「ちょっと動く度にこれさ。カルジャは手下に角を探させてるみたいだけど、見つかる事は無いだろうね。ただ、君達が来た事で、大きく話は変わりそうだ……」
レヴィスト男爵は不機嫌な顔をしながら、映像の一つを見た。リザリィが見上げると、そこにはラビエルと町田の姿が映っていた。
「何故だ? どうしてあの二人は下に降りたんだ? 普通は登って城の中心部に来ようとするものだろう? どうして最下層に行こうとしてるんだ?」
その映像に写っているかぶり面の町田を、ここに来て一言も口を開かないかしこが見守っていた。その奇妙な面のおかげで、かしこの口元が笑っている事にレヴィストは気付かない。
「リザリィをここに来させたのは、その罠を外して欲しいから? それならお断りよ。兄上の敵に味方するつもりなんてないわよ」
「もちろん違うよ。君には本気で暴れられたら、とんでもない事になるからさ」
「わかってるじゃない。言っとくけど、真結ちゃんとダーリンに傷一つでも負わせたら、あんたも、あのミノタウロスも粉々にすり潰すわよ」
「ダーリン? 誰の事だい?」
「頬白真結と、その隣の彼よ」
「ははぁ、最近、君が人間の男の子にご執心なのは聞いていたけど、彼なんだね。そう言えばカジンが何か言ってたな。厄介な人間が居るって……彼の事?」
「知らないわよ。私はただ、あの二人はぜっっったいに誰にも傷つけさせないだけ。ちょっと行って助けてくるわ」
リザリィはぷい、とレヴィストに背を向けると、かしこを連れて謁見の間の出口へと向かう。その背中にレヴィストが問いかけた。
「……その、奇妙な面をつけているのは、君の使い魔かい?」
かしこの事を聞かれて、リザリィは振り返り、ちら、とかぶり面を見た後、そうよ、と答えていた。
そして謁見の間を出た後に、レヴィストには聞こえぬ様、魔法でかしこに囁いた。
「町田は何してるの?」
「地下の硯ちゃんとテラヴィスを助けに行ってるわ」
「町田と話が出来るの? もしかして携帯とかつかえる?」
リザリィはポケットから携帯を出したが、当然アンテナは無く、圏外だった。
「曲玉を預かってる。それでラビエルを通じて町田君と色々情報交換をしてたわけ。リザリィが私をここに連れてきたのは大正解よ。おかげで全て上手くいくと思うわ」
「それじゃ、テラヴィスの事はラビエルに任せて、リザリィはダーリンを助けに行くわ」
「あの牛男って強いのか?」
「別に? リザリィの闇は防げないから串刺しになるだけよ。でも、里詩亜にはちょっと強い相手かもしれないわね」
謁見の間を出たリザリィは、迷うことなく左へと曲がり、廊下を奥へと歩いて行く。その廊下の突き当たりの扉を開けると、地下への階段があり、二人はその扉の中へ入っていった。
「ははは。よりによって死者が相手とは、魔界と変わらないな」
「そうですわね、敵としての手応えもありませんし。ただ、この数だけは面倒ですけど」
襟亜は奇妙な日本刀を使い、立ちはだかるゾンビ達を肉塊へと変えていた。
ここは城の地下墓地で、レヴィストの先祖代々が眠りについていたが、敵として現れたのは悪魔ではなく、人型の不死者達だった。
常套なら、悪魔の城の地下墓地を守るのは大抵は精霊達の仕事だった。
城の主との相性もあるが、火の精霊と火の悪魔だったり、土の聖霊と酸の悪魔だったりと、精霊と悪魔がタッグを組んで墓守をする事が多い。
にも関わらず、縫香達の目の前に立ちはだかったのは、魔界の死霊術師達が使役する不死者達だった。
「どうやら、レヴィストはロード・シャロンにやられたみたいだな」
半分異世界に溶け込んでいる縫香は、さながら幽霊の様な状態で、ただのゾンビ達には手も足も出せない状態だった。
だが、この不死者達を支配している死霊術師は紛れもない魔法使いの一人であり、魔界の出身であり、ロードオブアイズ、シャロン=シザーリンドの部下だった。
死霊術師が放つ魔法は、さすがの縫香も避けねばならず、戦いは苦手と豪語するだけあって、縫香の反撃はせいぜいが死霊術師の尻を蹴り上げたり、煙管で頭を叩いたりする程度だった。
「あのさ、こっちは戦う気は無いの。帰るか道を空けてくれない?」
「こちらもシドニー=オライエン様とクロービス=カニス様と知った上でお相手しております。主の命である以上、退く事も、お通しする事も出来ません」




