地下牢(ダンジョン)
里詩亜さんがそう言って立ち上がり、そして俺と真結も立ち上がって自分達がどこにいるのかを確認した。
三方はのっぺりとしたしっくいの様な物で塗り固められた壁に囲まれ、残った一方には鉄格子がはまっていた。典型的な牢獄の一つだった。
「ええ……?」
狼狽えて声を漏らした俺。まだよく意味が分かってない真結。三方の壁の様子を調べた後に、注意深く鉄格子の側へと近づく里詩亜さん。
(現世と牢獄なんて普通は繋がないよな……鏡牢の魔法で分断された時に、俺達はハズレをひいてしまったんだ……)
俺と真結が鉄格子の方へ近づくと、里詩亜さんはそれを制して、自分の側へ来るように促す。俺と真結は里詩亜さんの側へ行き、壁に身体をつけて、そこから外の様子を伺った。
「天井、随分高いですね……何層ぐらいあるんだろう?」
「4層はあるな、多分、地下の牢獄だ」
「えっ、真結達、捕まっちゃったの?」
「自分から牢屋に飛び込んじゃったね」
「そんなー」
気のない言葉を吐いた真結が、ため息をつきながら辺りを見回す。
「大丈夫だ。この程度の鍵は簡単に外せる。問題は外に出た後にどうなるかだ。まずは看守がどんな奴かと見回りの時間を探ろう」
「ありがとう里詩亜さん。里詩亜さんが来てくれなかったら、いきなり詰んでました」
「そうだね。真結とひろくんでは脱獄なんて無理だよね」
「礼は、無事に外に出てからで……」
俺達はその後数時間、牢屋の中で時間を過ごし、見回りが不定期な事と、看守は鎧を着た牛男だというのを確認した。
「あれって、ミノタウロスですよね。ミノタウロスって鎧とか着るんですか?」
「普通に着用する。というべきか、鎧を着たミノタウロスは相当強い。そして奴らは悪魔じゃなく、魔界の尖兵だ」
「魔界の兵士?」
「鎧にトライデントの紋章がある。あれは魔界のシザーリンド家の紋章だ。これで黒幕が誰かはっきりした」
シザーリンド家はシャロンという強力な魔法使いを当主とした名家でありながら、地獄界、狂気界、夢幻界と繋がりを持ち、ロードオブアイズの異名を持つ、と里詩亜さんが説明をしてくれた。
この強大な魔法使いは視覚を支配する事が出来、また、死んだ生物から眼球だけを生き残らせて配下にし、エビルアイとして監視につかせている。俺達が倒した目玉の監視者は、元は何かの生物の目だったという事だそうだ。
また、このシャロンという君主は、かつて地獄界、狂気界、夢幻界の力を借りて魔界を征服しようとした事があり、魔界の魔法使い達は全力でこれを撃退し、シャロンを幽閉した。
以後シザーリンド家は魔界の長老達の監視下で、罪の償いとして護衛と尖兵の兵役につかされ、矢面に立たされる事になっている。
「そのシザーリンド家の兵隊が、看守にいるって事は……レヴィスト男爵とシャロン卿は繋がっていたって事ですか?」
「すまない。私はあまり頭が良くないから、正確にはなんとも言えない。あの看守を倒して吐かせるのが一番だが……」
「出来そうですか?」
「……囚われている奴らを解放して、暴動を起こすしかないな。私一人では正直な所、勝てるかどうか分からない」
「牛さんって強いんだ……」
「強い。特にあれは百戦錬磨の猛者だ。名はなんと言ったか……チーフテン・カルジャだったか」
ドシン、ドシン、と重い蹄の音を立てて、ミノタウロスが目の前まで歩いてくる。この牢屋は最下層最奥にある為、一番逃げ場の無い場所だった。
ミノタウロスは片方の角が折れ、顔には大きな傷があり、片目が潰れていた。鉄板の塊の様な鎧を身につけ、兜もまるでSFロボットの頭部の様な重装甲で、生きている方の目がその兜の下で赤光を放っていた。両手には両刃の斧を持ち、その斧はあきらかに無数の血を吸って変色していた。
「魔界からレヴィスト卿を倒しに来たのなら、味方ですよね?」
「そうなんだが、敵か味方か全く見当がつかない。シャロンは地獄界とも繋がっていたからな」
ここに町田が居れば、精度の高い推測も出来ただろうが、残念ながらここに居るのは平凡な男子生徒とほんのり天使と、魔界のアサシンだった。そのアサシンがわからないというのだから、他の二人が分かるわけもない。
「まぁ、鍵外しは得意だから外に出るのは簡単だし、他の牢屋の罪人を外に出すのも簡単だ。一人二人出した所であのミノタウロスに殺されるだけだが、これだけの大きさの監獄なら、なんとかなる」
里詩亜さんはそう言うと、早速、扉の所へ行き、そして姿を消すと、少しだけ牢屋の扉を開けて外に出ていった。
俺と真結はどうする事も出来ず、ただそこで時が来るのを待つしかなかった。




