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強いられた分散

「ああ、なるほど……そういう事か」


 俺も町田の所に行って、テントを張るのを手伝うと、町田はテントだけでなく、いくつかのカメラを切株の上に設置していた。


「まさか、周りの木を斬られるとは思ってなかったな」


「そうね。木の幹の裏側に隠しておくつもりだったけど、仕方無いわね」


「このカメラ……監視用?」


「バッテリーは半日程度しか持たないわ。私達が入った後、何が写るのか……あるいはすぐに壊されるのか、楽しみね」


「異世界の存在はね、人間界のカメラに自分の姿を映されるのが嫌なの。人間界で作られたカメラは映した相手の魂をフィルムに記録するから、存在を知られたくない者ほど、カメラを嫌うのよ」


「写真を撮られると魂を吸われるとか、かなり昔の迷信にあったけど、あながち嘘でも無かったのか」


「魔女や悪魔は映されたくなくて、そう言って逃げていたかもしれないわね」


「ここにいる皆さんはいいんですか?」


 と尋ねると、テラヴィスは首を振って硯ちゃんの後ろに隠れていた。


「カメラ怖い。私を映すのは良くない」


「ああ、魂が二つあると、どうなるのかしら? とりあえず、スイッチはまだ入れてないから大丈夫。テラヴィスが入った後に電源を入れるわ」


「リザリィはいいの?」


「あらダーリン、また私の事を心配してくれるのね!? 写っても構わないけど、写った私の姿は見ない方がいいと思うわよ、いろんな意味で」


「そうじゃな弓塚君。もし、ライザリの真の姿を見たら、おそらく弓塚君は魂を囚われてライザリの下僕になる。気をつけよ」


「わ、わかりました……」


 ラビエルさんにそう言われると、説得力がありすぎて心底怖かった。リザリィの本当の姿はどんな姿なのだろうか。やはり恐ろしい怪物の姿なのだろうか。それを見てしまうと俺の魂は囚われてしまうと言われては、見る覚悟なんて俺にはなかった。


「……リザリィも映さないようにするのね」


「見てもいいのよ!?」


「遠慮しておくわ」


 来島さんはそう言い、リザリィとテラヴィスが地獄界へ通じる門の中に入った後で監視カメラを作動させる事にした。

 テントの中には皆の荷物を置き、そこに小さな結界を張って、怪物達がこのテントに近づけない様にした。その他に、ラビリスさんはテントの中心に一本の矢を突き立て、大抵の事はこれで凌げるはずじゃと言っていた。


 そして俺達はレヴィストの城へと繋がっている鏡の前に立ち、いよいよ敵の本拠地に入って行こうとした。

 まずは縫香さんが鏡の中に歩いて入り、その中に姿を消す。ついで襟亜さんも同じく姿を消した時だった。


「何だ?」


 その二人が中に行った途端。目の前の鏡を中心にして、その左右に二枚、さらにその左右に二枚、と前後左右、計八枚の鏡が地面から付き出し、俺達の周りを囲んで合わせ鏡状態にした。


「鏡の牢獄か! 皆、目の前の鏡の中に入れ!」


 ラビエルさんがそう指示したのだが、次に硯ちゃんとテラヴィスが手を繋いで入ろうとすると、鏡の表面にぶつかって、硯ちゃんが頭を抱えていた。


「いったぁーい!!! これ、ただの鏡だよ!?」


 見ると確かに正面の鏡には、硯ちゃんとテラヴィスの姿が映っていた。


「この鏡には映ってない」


 テラヴィス右方向の鏡を指さすと、そこには二人の姿は映っておらず、すぐに硯ちゃん達はその鏡の中に飛び込んだ。


「分散させるつもりか……仕方無い、各々、自分の姿の映っていない鏡に飛び込め! 術が完成すると、この鏡の中から抜け出せなくなるぞ」


 俺と真結、ラビエルさんと町田、リザリィと来島さんが素早く姿の映っていない所へと飛び込んだが、何故か里詩亜さんだけがその場に留まっていた。


「どうした里詩亜、入れる扉がないのか?」


「ああ……どうやら、私は牢獄行きのようだ、後は頼む……」


「レヴィの奴、厄介な戦力から隔離するつもりね」


 カジンというレヴィスト男爵の使いが言っていたが、里詩亜さんの持っている武器は悪魔には致命的な強さがあると言っていた。また、里詩亜さんを指して悪魔狩りと呼んでいた様に覚えている。


「ひろくん?」


「里詩亜さん、俺の手を!」


 俺は一端入った鏡の中から半身を戻すと、里詩亜さんに手を伸ばした。里詩亜さんがすぐに俺の手を掴んでくれて、引き込もうとしたが、やはり繋いだ手がひっかかって里詩亜さんはこちらにはこれない。


「弓塚殿、もういい。先に行ってくれ」


「……術って、魔法じゃないんですか? それなら俺が身代わりになればいいんじゃ」


 そう言って、再び半身を外に出した時、周りの鏡が一斉に割れた。


「ひろくん、危ない!」


「弓塚殿!」


 無数の鏡の破片が俺と里詩亜さんの身体に突き刺さった時、俺の空いているもう片方の手を掴んだ真結が、思い切り鏡の中へと俺達を引っ張った。俺も地面を蹴って鏡の中に飛び込むと、今度は里詩亜さんも一緒に鏡を潜る事が出来た。


「ひろくん、里詩亜さん、大丈夫!?」


「ありがとう真結、助かったよ……」


「弓塚殿、私の為に無茶をしてくれるな。私はもう返せないほど借りがある」


「借りなんて、返さなくて良いですよ……」


 尻餅をつきながら、自分の身体に鏡の破片が刺さっていないか確認してみたが、どうやら無傷で済んだ様だった。


「弓塚殿が鏡牢の魔法を弾いてくれたおかげで、地獄界に通じる鏡が一つだけになり、抜ける事が出来た。そして頬白殿が引っ張ってくれたおかげで、潜る事が出来た」


「私は二人の護衛を任されながら、助けられてばかりだ」


「里詩亜さん、ここから先はどうしていいかわからないのでお願いします」


 真結がそう頭を下げ、俺も、里詩亜さんが居ないと途方に暮れるしかないと言って、頭を下げると、里詩亜さんは苦い顔をしながら立ち上がった。


「そうだな。恩を返せるかどうかはともかく、今は、今が大切だ」


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