生き延びるので必死です
「あらっ?」
結界が張られ、罠が壊し放題になった途端。襟亜さんが刀を振っても、爆発が起こらなくなった。
「罠が消えたようじゃな」
「嫌がらせにならなくなったから、やめたのよ」
「それならそれで、楽でいいんですけど」
刀を鞘に戻した襟亜さんは、やれやれといった風に片手で肩を押さえて、首筋を伸ばしていた。
「どうじゃ縫香。これならどのぐらいで着く?」
「5分ぐらいじゃない? そこから先は大変だけど」
「そうじゃな。魔力の濃い所を探して、その中心を見つけなければならんな」
「それぐらいは頑張ろうか。邪魔がなければな」
ようやく静かになった登り道を歩いて行くと、縫香さんは唐突に立ち止まり、左の草むらの中へと入っていく。
襟亜さんは再び刀を抜いて、後続が歩きやすいように道を切り開くが、今度は草だけでなく、一部の木も切り倒していた。
「何じゃ? どうして木を斬っている?」
「魔力が濃くなってきましたわ。もし、龍穴を見つけましたら、周囲の木々は全て切り払わせて頂きます」
「相変わらず、乱暴な娘じゃ……残しておけば、里詩亜の足場にもなろう」
「私には邪魔ですの」
魔力が濃くなってきて、縫香さんが動き出したという事は、以前、怪物に追われた地域まで来たという事だった。襟亜さんは襲撃に備えて、どうしても邪魔な――もしかしたら単に視野的に気に入らないだけかもしれないが――大木を根本から切り倒していく。
「!? まっ、町田!? 来島さん!?」
俺のすぐ後ろを、皆に守られながらついてきていた二人が、ごそごそしだしたので何をしてるのかと振り返ると、二人とも巨大な被りものを頭に被っていた。
どちらもピエロの様な頭部で、頬は赤く寝られ、目と口は笑っているが、どうにも気持ち悪い。
「これ、かぶり面、知らない?」
と、もごもごとした来島さんの声が面の中から聞こえてきた。
「それは何かの意味があるんですか?」
「素顔を隠す」
「他に素顔を隠す手段はなかったの!?」
「なんだか不気味だよね。可愛くは無い」
真結がそう言いながら、面をつんつんとつついていた。
「マスク程度では頭部の形は分かってしまう。これなら分からない」
「これで私達が人間だって事をアピールしてるわけ。襲ってこないでねって事。弓塚君の分もあれば良かったんだが、これって、大きいから二人分で精一杯だったんだ」
「いや、いいですよ……視界、悪そうだし……」
「前しか見えないな。避けるとか逃げるのは無理だ」
「それって必要なのかなぁ……」
「人間界に居るうちは、この方が安全でしょ」
「私達は人間ですよっていう目印に?」
「そういうこと。魔女はこんな馬鹿な事しないでしょ?」
「リザリィちゃん! 今、それを被ったら負けだよ!」
真結に言われてリザリィの方を見ると、どこから持って来たのか、リザリィはウサギのキャラクターの頭部を被ろうとしていた。
「うっ……これを被れば、ラビエルのフリが出来ると思ったのに」
「…………???」
リザリィの言葉に、ラビエルさんは言葉を失いつつ、ウサギのかぶり物と自分が似ているかどうか、指を差して周りに問うていた。
「似てる、見分けがつかないな」
「そんなに!?」
縫香さんの冗談にラビエルさんがかなりのショックををうけていた。
「ラビエルさん、冗談ですから、全く違いますから」
「に、人間の目には違って見えても、魔女には同じに見えるのかもしれんぞ」
「どことなく、特徴はにてるよね」
「真結、それ、耳だけだよね」
「うん、ウサミミってだけでもう9割方ウサ子先輩だと思う」
「そんなに!?」
「ラビエルさん、真に受けないで下さいよ……硯ちゃんから見てどう?」
「あ、うん。当たり前だけど全然似てないよ」
「そうか、似てないか、良かった」
「リザリィには、同じに見えるわよ」
「悪魔の言葉など信じぬ」
「差別されてるわねぇ」
「そこは差別されると思うよ……天使と悪魔だし」
「仕方無い。これは真結ちゃんが被って」
リザリィはそう言うと、真結にウサギのかぶり物を被せた。
「あ、この狭い感じ、なんだかとっても安心する」
「これで真結もラビエルも見分けが付かないな」
本気で悪魔には同じに見えているのだろうか? 勿論俺には全く別物に見えるのだが。
「ウサ子先輩とお揃いです! 影武者として頑張ります」
「真結、影武者なんかやめてくれ、身代わりって事じゃないか」
「……もし、これで、相手が、本当に、真結を私だと思って狙ってきたら……やはり悪魔には同じ姿に見えるという事なのじゃな……」
「お前達……生き延びるのに必死だな……」
振り向いた縫香さんが、哀れみのこもった声でそう言った。
「縫香よ、魔力はかなり濃くなってきているのだが、敵の気配はせぬぞ」
「そうね。龍穴はすぐ近くの筈。ようこそご一行様って所だな」
縫香さんの進む先を襟亜さんが切り拓いていた時、その先に不自然に立っている一枚の鏡があった。
即座に襟亜さんは周囲の木々を全て切り倒し、敵が隠れる場所を少なくしていた。
「見つかったのか?」
木の上から偵察していた里詩亜さんが、襟亜さんに木を切り倒された事で行き場を失い、地上へと降りて来る。
俺達の周り半径8メートルほどの木々は全て切り倒され、そして正面には高さ3メートルほどの巨大な鏡が、涸れた井戸の前に木々だけを映して立っていた。
確かにそれは鏡で、見る角度によって木々は映してみえるのだが、人間や魔女の姿は一切映さなかった。
「やはり、この井戸の付近に人が近付かなくなったのは、ここに地獄への入り口が出来たせいか」
「獣道もなかったし、こんな山の中じゃ人は来ないだろうね。もしかしたらこの付近にあった筈の村から人を追い出したのも悪魔達かも」
「これが入り口なのは間違いなだろうけど、敵は居ないね」
「十分引き込んでから倒すつもりなんだろう。或いは圧倒的に有利な立場で交渉を持ちかけてくるか」
来島さんかぶり物を脱ぐと、背中の荷物を降ろしながらそう言った。その隣で町田も持って来たテントを地面の上に降ろしている。
「ここでキャンプ?」
「ええ、入るのは簡単でしょうけど、戻ってこれるかどうかはわからないんでしょ?」




