地獄男爵の接待
合流ポイントに到着出来たのが午前10時過ぎ。そこから俺達は北へと向かい、20分ほど歩いた所でラビエルさんが蜘蛛の糸を撒き、監視の目玉が居るかどうかを探した。
「手応えはないのぅ。手を引いたと考えるのが常套と考えるが、うちの参謀はどう思う?」
ラビエルさんがそう言いながら、町田の方を見ると、町田は来島さんの方を向いた。
「参謀は俺よりも、かしこの方が才がある。俺は状況と手がかりから、今、何が起こっていて、これから何が起こるのかを予想は出来るが、作戦立案は得意じゃない」
「町田君は自分を信じていない。常に本当にこれで正しいのかを自問自答している。だから策を立てた所で、それが正しいかの判断が自分では自信が無いんだよな」
「そういう事」
「では、来島はどう考える」
「魔界の君主が魔法によって監視していたのは、私達がいつ龍穴に着くかを予測する為だろう。今日になるか明日になるか、どのルートから来るか、どの程度の時間がかかりそうか。それが分かったから監視する必要はなくなった」
「来島さんの言うとおりなら、拡散している魔力を感じた所までは直進できるだろう。このまま森に入って、道なりにかのしま峠を目指そう」
草原に人の通った形跡は全く無く、先頭をゆく襟亜さんが剣を一凪ぎして通り道を作っていた。そうする事で足下の安全と視界を確保する為だった。
この為、俺達が通った跡には綺麗な土の道が出来、帰りに道に迷う事も無さそうだった。
「不気味なほどに気配が無いな」
里詩亜さんがそう言い、辺りを見回す。
「そうじゃな、動物の気配がせぬ。虫は元気なようじゃが」
「フンはある。今は逃げている。何かに怯えて」
テラヴィスがそう言いながら茂みの中を見回していた。
「狩人とか居ないのぉ? あれってレーダーとしては万能じゃない」
「そう言えば狩人に友人は居ないなぁ。襟亜はどう?」
「居ますけど、もっと山岳の地方か北の大地で頑張ってるわ。でもトラッキングしてもらう為だけに声をかけるのも、ちょっと気が引けるわ」
合流地点から森の端まで30分。草原を無事に渡り終えた俺達は森の入り口で再び監視の目が無いかを探り、里詩亜さんは木の上に登って上から辺りの様子を伺っていた。
ここから右には人が一人歩ける砂利道が森に沿って続いており、遠回りして鹿島神社へと続いている。世間的にはハイキングコースになっていて、古い木の看板に『かのしま峠』とかかれた標識が立っていた。
「監視は無い。じゃが、ちと厄介じゃな」
「何かあった?」
「罠が無数に置かれている、嫌がらせだ」
里詩亜さんがそう言うので、襟亜さんが刀を一閃すると、数メートル先で地面が爆発し、木の幹に弓矢が突き刺さり、土の中から槍が突き出していた。
「こんな古めかしい罠を……どういうつもりだ?」
「レヴィらしいわね。意味なんて無いわよ、ただ嫌な気持ちにさせたいだけ」
そう言いながらリザリィも闇の槍を適当な所へと飛ばすと、森の中で大木が倒れていた。
「火が魔法の火で助かる。山火事になっては困るのでな」
ラビエルさんは蜘蛛の糸を、木々を使って空中に散開させていた。それは罠を見つける事は出来ても破壊する力はないみたいだった。
「そろそろ、結界張った方が良い?」
「まだいいわよ。そんな風に不安にさせたいのよ。一端、不安に心が転じれば、その不安の上にまた不安が募る。そしてどんどん疑心暗鬼にさせていくのよ」
それはレヴィスト男爵に関してだけなのか、悪魔は皆がそうするものなのか、尋ねたいところだった。
「普段は人も通る所だろう。今日だけ特別に接待してくれてるのか」
縫香さんはそう言いながら先頭を歩いて行く。あらゆる物理的な罠は縫香さんの身体をすり抜けていき、炎も身を焦がす様子は無かった。
「縫香姉さん。私が罠を作動させるまで進むのは待って下さらない?」
「……分かった」
縫香さんは煙管で紫煙くゆらせながら、こちらを振り返り先頭と後尾の距離を見計らって戻ってきた。
「人間が居る。それに対する嫌がらせか」
「そうね。私達には無力でも、ダーリンやかしこは即死しかねないわ」
罠は魔法によって設置されているらしく、発動してしまうと消えてしまっていた。だが、爆発によって折れた木やえぐられた地面はそのままで、のどかなハイキングコースとは言えない状態になっていた。
(これ、ニュースになっちゃいそうだな……)
何者かに荒らされた林道、とか書かれるのだろうか、にしても、これは荒らされたという状態を越えているのだが。
「あまり派手に破壊が続くと、警察が出てきそうだのう」
俺の心を読んだのか、ラビエルさんがそう呟いた。
「とは言っても、罠を外せる人もいませんし、居たとしてもこの数では半日はかかりそうですわよ」
「……縫香よ、魔力を感じた場所まで、あとどのぐらいある?」
「この調子で進むなら、あと2時間ぐらいはかかる」
難しい顔をしたラビエルさんの横顔を見て、来島さんが硯ちゃんに尋ねた。
「硯ちゃん、周りに音や光が漏れないような結界って作れる?」
「それなら簡単。ついでに幻影の森も重ねて置いて、入り口は普通の人が入れなくしておくね」
「優秀ね、さすがだわ」
来島さんに褒められて嬉しかったらしく、硯ちゃんは笑顔で頷くと、テラヴィスと何かを話して、二人で呪文を唱え始めた。
「お前達は友達になったのか?」
「そうだね、アイスクロウのおじいさんの方は殆ど話をした事はないけど、テラヴィスちゃんとはよく話すし、お友達だね」
「……アイスクロウは、角を取り戻すまでは大人しくしている。角を取り戻した時には暴れるかもしれない」
「そりゃ仕方無いね。色々貯まってるんだろ」
「うん……どうやってレヴィスト男爵を殺すか、毎日考えてる」
「良い趣味じゃないわね。はやくその趣味はやめさせた方が良いわ」
硯ちゃんとテラヴィスが結界を張った事によって、ラビエルさんや俺がが危惧していた事態にはならずに済みそうだった。ただ、それは今だけの事であって、後でこの惨状が見つかった時には、当然、こんな事をした犯人は誰だ? というニュースになるのだろうが。




