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旅先に着いたら、まず大富豪だ


「こちらへどうぞ」


 巫女さんのうち二人が道案内をしてくれて、男部屋と女部屋に連れて行ってくれた。説明では、本来、男性と女性の修行者は別々の建物で無ければいけないのだが、今回は月読様の御意志により、お隣の部屋とさせていただいた、という事だった。


「月読様って、ウサ子先輩の事ですか?」


「はい。白兎様は月読尊の御神体でございます。本来は大明神様とお呼びせねばならないのですが、月読様はラビエルと呼べと言われるのです」


「海と時空を越えた微妙な食い違いが、消化されていないわね」


 と来島さんが苦笑していた。ラビエルさんと月読尊はおそらく同じ天使様なのだろうが、当人が外来の名前を名告っている以上、そちらで呼ぶのが正しい気がする。


「ラビエルさんでいいと思いますよ……」


「神主様の意志でもありますので、そのように。では、ご夕食の準備が出来ましたら、お呼びいたします」


 と言って襖を閉めていったが、男は毎度ながら俺と町田の二人しか居ない。隣は来島さんと真結と里詩亜さんと硯ちゃんで賑やかそうだ。


「お兄ちゃん達もこっちおいでよ。来島さんが話をするって」


 俺と町田は気の置けない仲なので、二人きりでも全く困る事は無かったのだが、硯ちゃんの呼びかけに応じて、隣の部屋にお邪魔した。


「トッ、トランプしてる!?」


「はいはい、これでいい感じの人数だよね。とりあえず大富豪?」


「じゃあ大富豪ー」


(うわぁ、全然緊張感がない)


 俺の内なるプレッシャーは一体何なのか。真結と硯ちゃん、里詩亜さんはともかく、来島さんが率先して遊んでいるのは、肝が据わっているからか。


(来島さん、ずっとヒーローモードというか縫香さんコピーのままだけど、このままずっと元に戻らなかったら、町田としてはどうなんだろうな?)


 以前は、その方が町田は嬉しいんじゃないかとも思ったのだが……。


「かしこ、アレ、持って来た?」


「持って来たわよ、お父さんの赤外線着きのカメラ」


「そうか、ありがとう。どこにある?」


「えーと、こっち」


「ちょっと来島お姉ちゃん、大富豪は?」


「あ、先にやってて」


「なんだか本当に縫香お姉ちゃんみたい」


 硯ちゃんがそう言うのだから間違いない。縫香さんも来島さんもかなりアバウトな人柄だった。

 部屋の隅で話し合う来島さんと町田は恋人を通り越えて所帯じみた感じになっていたが、あの二人はあれでいいんだろうな、と実感した。


「あの……大富豪って、なんだ? トランプは知ってるんだが……」


 既にカードが配られた後の状態で、いきなり里詩亜さんが告白した。


「一番強いのが2で、一番弱いのが3で、同じ数字は二枚、三枚一度に出す事ができるの。それで手持ちの札を早く無くしたら勝ち」


「ああ……えっと……んんん???」


 簡潔な硯ちゃんの説明に対し、手持ちの札を見て里詩亜さんが難しい顔をする。


「ちょっとお兄ちゃん、里詩亜さんの見てあげて、最初だけ」


「分かった。ええと、とりあえずは、3から順序よく並べ替えてみますか」


「こ、こうか?」


 さすがに手先は器用で、1、2秒でカードの順序を綺麗に並び替えると、見やすくなった。


「はい、それで、2は一番右で。左から出していきましょう。硯ちゃん、里詩亜さんからでもいい?」


「いいよー」


「まずは、この3を出しましょう」


「硯は4」


「じゃあ真結は5」


「俺は7、ですから、里詩亜さんは8以上ですね、これにしましょうか」


「わかった、J」


「パスー」


「パスするー」


「俺もパスしますから、今回は、里詩亜さんの勝ちです」


 勝ち、と言われた里詩亜さんは、自分の手札と場に出された札、そして真結と硯ちゃんの顔を困惑した表情でみまわす。


「……今、どうして皆はパスしたんだ?」


「11って微妙なんだよね。勝つにはQかKかAか2でしょ。Qを持ってたら出してもいいかなって思うんだけど、硯は持ってないからパスしたの」


 硯ちゃんの考えを聞いて、里詩亜さんが小さくほぅ、と言う。


「真結はQは持ってるけどペアで、まだ使いたくないからパス」


「俺はAしかないからパスです」


「なるほど……少し読めてきた。何回もこういう数字の戦いをしていくから、一度勝ったからと言って、残りの手札が弱い物ばかりだと、負けてしまうんだな」


 理解力の速さも相当な物だった。里詩亜さんは多分、どうして2が一番強いカードなのに、誰も出さず、自分が勝ったのかという事に疑問を持ったのだろう。それで硯ちゃんと真結の言葉を聞き、大体の戦い方を理解していた。


「そうです。では、次は勝った里詩亜さんからです」


「よし、では、6のペアで」


「10のペアー」


「真結はQのペア」


「俺はパス」


「私もパスだ」


「硯もパス。今回は真結姉ちゃんだね」


「うん、じゃ、出すねー」


 里詩亜さんの飲み込みは早い、というか、カードの一つ一つを兵士に例えて考えている様で、二人一組でないとダメか、とか三人だと相当強いのか、とかブツブツ言っていた。その結果、ビギナーズラックというべきか、里詩亜さんはいきなり三連勝していた。


「わぁ強い」


 三度目には、里詩亜さんが一人でどんどんカードを出して、皆に殆ど何もさせずに終わったので、真結が驚いていた。


「時の運だ。今回は何もしていない」


「なになに、どうなってるの? 里詩亜さんが一番なの?」


 赤外線カメラについて話をしていた町田と来島さんが戻ってきてメンバーに加わると、なんだか本格的な戦いになってきてしまった。上位は里詩亜さんと来島さんと町田の取り合いで、俺と真結と硯ちゃんは下位、つまり貧民をいったりきたりしてるだけだった。


「うーん、三人が相手だと強すぎるよ」


 真結が思わず弱音を吐くが、所詮は時の運なので、多少は勝って大富豪になる事も出来ていた。しかし俺が大富豪になる事は一度も無かった。

 これだけの人数でトランプをしていると時間が過ぎるのも早く、巫女さんが食事の準備が出来たので、食堂に来て下さいと伝えに来たことで、もうそんな時間になったのかと皆で顔を見合わせた。



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