俺はこれからヒーローになりにいく
土曜日の朝が来た。今日、俺と真結、町田、来島さんと硯ちゃん、そして里詩亜さんはラビエルさんの居る鹿島神社に向かう。
縫香さん、襟亜さん、リザリィはテラヴィスを守りつつ、かのしまスパーランドで一泊する。主戦力は向こう、こちらは後衛組になる。
深く眠る事が出来ず、浅い眠りを何度か繰り返した為、完全に寝不足の状態だった。ベッドの脇に腰掛けると、真結が泊まっていた時の事が頭に浮かんできた。
「男の子の部屋って、やっぱり女の子の部屋とは違うね」
真結はそう言いながら珍しそうに部屋の中を見回した。
「うん、違うね。何が違うんだろうね」
「男の子部屋は基地みたい。自分の為の部屋なの。道具と本が一杯あって、それが置かれている感じ」
「基地、かぁ……女の子の部屋は見た事無いから、よく分からないけど」
「女の子の部屋は、休憩する所。リラックスできる場所。もしかしたら小さな国。だから好きな物を好きな感じに飾って、そこで気を休めたい。お友達を呼んで、素敵な部屋、いい部屋って言われたいの」
「そうなんだ。基地って言えば、町田の部屋は本だらけで図書館みたいだよ」
「ひろくんは運動とかするの? ボールとかバットとかあるけど」
「最近はしてないね。小学生の頃は友達とよく遊んだよ。中学になった途端に、なんだか変わっちゃったね」
「中学になると変わるよねぇ。真結もそのぐらいから、部屋を飾り始めた気がする……。ひろくんって、ゲームとかするんだね」
「うん、ゲームはよく遊んでたよ。真結達が来てからは、あんまり遊んでないけど」
「あはは……色々とすいません。ひろくんと仲良くなってから問題続きだもんね」
「いいよ。それまでは彼女も居なくて一人だったし、暇をもてあましてたからゲームで時間を潰してたんだ。真結や来島さんと仲良くなってからの方が、毎日が楽しいよ」
「そう? それだと、いいんだけど。あれって、アルバム? 見てもいい?」
真結が指さしたのは小学生の頃のアルバムだった。一体どんな写真が張ってあるんだろう、と自分でも疑問に思いながら、真結と共に過去を振り返った。
「……そっか……アルバムには、真結の写真は無いよね」
「そこまでは、硯ちゃんの方でも、調整してないんだね」
写真の大半は、町田と俺と、小学校時代に仲良くしていた猪山君の想い出だった。
「この男の子は?」
「引っ越したんだ、中学の時に……親の都合だったと思う。今、どうしてるかな」
「仲、良かったんだね」
「猪山君はヒーローが大好きで、いつもヒーローごっこしてて、いつか自分はヒーローになるって言ってた」
「あは、そうなんだ。町田君も影響されたのかな?」
「ありえるかも……」
「ひろくんも影響された?」
「俺は……そうだね、影響されてるかもしれない」
朝の日差しの中、そのアルバムを取り、旧友とヒーローごっこをしてポーズをとる自分の姿を見た。そして、今頃になって、この猪山君の心の強さを、その写真に写った真剣な眼差しから読み取った。
(きっとこの時、猪山君は、本気でヒーローになっていたんだろうな……)
アルバムを閉じ、旧友の写真から貰い受けた僅かな勇気を心の中に刻み込んだ。そして誰にも言えない、気恥ずかしい決意をした。
(俺は、これから、ヒーローになりにいく)
真っ直ぐ前を見る事。後ろを振り返らない事。自分を信じる事。みんなを信じる事。道は前に続いていて、その先にしか未来はない。
準備済の旅行用ボストンバッグのベルトを肩にかけて持ち上げ、俺は部屋を出た。
頬白家の前で皆と合流し、町田と来島さん、リザリィとは駅で合流した。その後、温泉組はすぐ隣の香戸駅で降り、神社組はそのまま鹿島駅まで乗った。
二手に分かれるのは早い方が良い、という町田の意見からだった。レヴィストも、そして魔界の誰かも監視している事だろう。二手に分かれれば、相手もこちらの意図を読んでくるだろうし、それに対応してくるだろう。
レヴィストが賢いというなら、放っておいても来る奴らを襲う事は無い。向こうからテラヴィスという獲物を連れてきてくれるのだから、襲うのなら自分のホームグラウンドで全力で取り返すのが最善の策だ。
問題は魔界の誰かで、レヴィストの邪魔をしたいなら、テラヴィスを襲ってくるかもしれないが、一目で隙のない集団だという事は分かるはず。
でなければ君主など勤まらないだろう。
隙は当然ながら人間チームの方に多いが、そちらを襲ったところで意味が無い。そこで戦力を殺ぐという事はレヴィストが有利になるだけだ。
という判断から、今日は何事も無く目的地まで行けるだろうと町田は言った。
方向性の無い自信を心に秘めた俺は、自分なりに気を張りながらこの小旅行に挑んだが、町田の言葉通り、何事もなく鹿島神社に着くと、大きく安堵のため息をついた。
「ひろくん、今日は真剣な顔してた」
真結がにこにこと笑いながらそう言った。
「気を張っていたのはいい事だ。もし、監視者が見ていたとすれば、今日の弓塚を見て、手を出さない方が良いと思ったかもしれない」
「無駄に疲れただけだった様な気もする……」
「この旅に無駄なんてないさ。あるとすれば宴会ぐらいだ」
来島さんが俺の肩を叩いて笑いながらそう言った。町田は背中にテント一式を背負い、来島さんもジーンズにスニーカーと山登りをする出で立ちで、大きなリュックを背負っていた。
真結はピクニック気分で小さなナップザックを背負い、里詩亜さんは俺より一回り大きいボストンバッグを抱えていた。
「よくきたな、お前達の部屋はあっちじゃ」
ラビエルさんが出迎えてくれたが、驚いたのは、その周りに神主さんが二人と巫女さんが6人ほど付き添いに居た事で、まるでお姫様状態になっていた。




