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初心者はバニラから


 どうやらリザリィは他に小塚丘学園への行き方を知らなかったらしい。

 元々リザリィが住んでいた屋敷から小塚駅までは5分ほどだから、朝の登校は楽だっただろう。

 小塚駅は小塚丘学園のもよりの駅になっているが、学園の正門へ辿り着くには小塚丘のなだらかな斜面に作られた、学園バス様の道路を歩かなければならず、かなり遠い。

 逆に御鑑駅から行けば、小塚丘学園の裏口の改段を登る事になるが、時間も距離も短いので、下校時に限ってそちらを使う生徒の方が多い。

 御鑑駅は駅前銀座こそ廃れているが、国道に面した道沿いには流行の店もスーパーもあり、駅前銀座だけが廃れている様な状態になっている。


「昔は駅前を通る国道が整備されてなかった。だから駅前銀座を通る道が一番大きな道で、その頃は店も繁盛していたんだろう。だが、今となっては、狭い道に小さな店が建ち並ぶだけの通りになってしまっている。そのうち整地されて今風の建物が建ち並ぶ事になると思うよ」


 町田の言うとおりになると、いよいよ小塚駅は用無しになってしまう。

 今でも学園バスが止まると言うだけで、他には何も無い静かな所だった。その静かさは小塚駅の隣の九智駅になると極まっていて、駅前に小さな元酒屋のコンビニが一件あるだけのベッドタウンになり、線路を挟んで田畑が広がっている典型的な田舎の駅だった。

 その更に隣が目的地の山岡駅だが、ここも隣の九智駅と大差のない田舎の駅で、広大な土地があったからこそ、巨大なホームセンター・グンドーが作られたのは明らかだった。

 駅から降りると、すぐ左手に、まるで工場の様な鉄骨の建物があり、大きな文字でグンドーと書かれている。


「城のような建物だな。それに威圧感もある」


「リザリィもここに来た事無いんだけど、ここって何が売ってるの?」


「大工や工事に使う道具、本格的な園芸をする為の道具、が基本ね。普段の生活ではあまり必要が無いけど、キャンプ用のテントだったり、登山道具だったり、色々と便利な物が売ってるわ」


 入り口から中に入ると、平日の夕方という事もあって、客足はまばらだった。

 当初からここに来る予定だった来島さんと町田は、自分達の買い物をすると言って、そこで別れた。

 残された者にとって、この巨大な空間を無目的に彷徨うのは、暇つぶしにはなるが、時間の浪費でもあった。


「ひろくん、どうする?」


「里詩亜さんは、何を探しに来たんですか?」


「いや、何、と言われても……何だろうな? 剣とかクナイの予備とか?」


「リザリィもさっぱりわかんない。ダーリンについていくわ」


「ええと、それじゃ……とりあえず、刃物とかありそうな所に……」


 まずは園芸の所に行き、草刈り様の鎌とか、のこぎりとかが置かれている所に行く。すると里詩亜さんは、早速飛びついて、物色を始めた。


「研ぎ石もあるし、刃物もあるな。しかし、どれも随分と研ぎ澄まされた物ばかりだな」


「刃物なら、包丁もあるけど、あんまり買いすぎはよくないよ。何に使うのかって聞かれると思う」


「えーと……狩り、とか?」


「理由は俺達で考えますよ。ただ、刃物系は控える感じで」


「まぁ研ぎ石と毒があれば、それで……」


「毒は無いですよ……化学薬品ならありますけど……それは町田に聞いた方が早そうだ」


 里詩亜さんが特に気に入ったのは、工具を入れる為のポケットが沢山ついたベルトだった。勿論そのポケットの中に工具は入れないのだろうが。他に、刺身用の包丁5本組を見て、素晴らしいと絶賛し、買い物篭に入れていた。本人は3セットほど欲しかった様だが、お願いだから一式だけにしてくれと頼んで、数の揃った5本セット一つにしてもらった。


「あとは化学薬品……消毒剤とかかなぁ……一応、見に行ってみますか」


「リザリィは疲れたから休憩するー。真結ちゃん、お店の出入り口にアイス売ってたから食べにいくわよ」


「わかった。じゃ、私はリザリィちゃんと一緒に行くね。何かあったら携帯で連絡する」


「うん、それじゃ、後で」


 リザリィが真結を連れて入り口の方へと戻るのを見ていた里詩亜さんが、頬を少し赤らめながら俺に聞いた。


「……私もアイスを食べてもいいか?」


「惹かれてたんですね!? いいですよ、皆で行きましょう」


「買い物の本題とはずれてるから、我慢した方がいいかと思って……」


 里詩亜さんは公私混同を好まず、自分個人の事は我慢する方だった。この点においてはリザリィと真結とは対象的で、真結は空気を読んで問題が無さそうなら自分のしたい事を言うが、リザリィは他人などおかまいなしに、自分のやりたい事だけをやって生きていくタイプだった。悪魔だから、そんなものだろう。


 俺と里詩亜さんが真結達に追いつくと、リザリィがきょとんとしてこちらを見た。


「どうしたの? 買い物は?」


「ちょっと、俺達も休憩しようと思って」


「そうよね、結構歩いたからダーリンも疲れたわよね。一休みしましょ」


 リザリィはそれで納得したが、真結は当然、それが本当の理由じゃない事を見抜いていた。

 俺が真結の側に近寄ると、こしょこしょと耳元で本当にそうなのかと尋ねてきた。


「里詩亜さんもアイス食べたいんだってさ」


「あは、そうなんだ。里詩亜さんってそういうの好きじゃないと思ってた」


 小声でそう答えると、真結は納得していつもの笑顔に戻った。

 そしてリザリィと里詩亜さんと共に、アイスを注文しに行き、俺は空いている席を陣取りして、とりあえず今までに篭に入れた物をテーブルの下に置いた。


「初心者はまずバニラから行きなさいよ! いきなりミックスとかありえないわ!」


「そ、そういうしきたりがあるのか?」


「無いよ。好きな物頼んでいいよ」


「それじゃこのレモンとバニラで……トッピング? ああ、何か、ふりかけるのか……チョコチップ? それで」


「バニラ! トッピングなし!」


「チョコとバニラで、トッピングなしで」


(甘いなぁ……聞いてるだけで口の中が甘くなってきた……)


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