ダーリンって優しい
「さぁ! それじゃ話の本題に入りましょうか! リザリィが囮になって敵をおびき出して、黒幕が誰かって問い詰めたら、なんと、魔界の君主が裏で糸を引っ張っていたのよ!」
「うん、知ってる。その話、今、弓塚君から聞いた」
「えっ……?」
どういう事なの? という眼差しで俺の方を見るリザリィに、あらかたの事を説明したと言うと、彼女は途端に疲れた表情で、ソファの空いている所にへたり込んでしまった。
「煙管は作らされるし、戻って話題の中心人物になって、皆からリザリィすごいって言われるつもりだったのに、先にダーリンに話をされてたみたいだし。いったいリザリィの苦労は何だったのよ」
「そもそも事の発端は、リザリィが来島さんを巻き込んだ事だから……」
「でも、いいアイデアだったでしょ? だってこの二人、無理矢理に被害者にしないと、協力してくれないじゃない」
「いいアイデアじゃ……ないと思うな……」
「私としては、良かったと思ってるわよ。おかげで前人未踏の領域を見る事が出来そうだし、身の安全は保証してちょうだいね。それはリザリィの役目だから」
「かしこ、なんだか嫌な感じねぇ……その顔でその口ぶりは、あんまり人には好かれないわよ」
そう言いながらリザリィは、わざと縫香さんの方を見ていた。
「私は町田君が居ればそれでいいから。他の人に好かれたいとは思わないし」
来島さんが町田を横から抱きしめたが、町田はそれでも表情を崩さず、部屋の中を見回しながら、何かを考え続けていた。
「んー、かしこがそういう風になっちゃったのは意外だったけど、本命はまだ静かなままねぇ……まだ何か足りないのかしら?」
「動くにはまだ情報が足りない。俺達が新たに知った事実は、裏で手を引いている者が魔界の君主だという事だけだ。言わば殺人現場で凶器とやり方だけ分かっているだけで、犯人の目星はついてなく、証拠も証言もない。この一件は始まったばかりで、このままでは迷宮入りだ」
「じゃあ、次は何をすればいいの?」
「当面の目標は変わってない。レヴィストという悪魔男爵からテラヴィスの角を取り戻す事。それまでテラヴィスを何者かから守る事」
「真犯人が自分の手を汚さない様にしているのは、気になるわね。テラヴィスには、その完全崩壊とかいう強い魔法は通じないの?」
「通じない。私は角を失って魔力を用いた『能力』を失った。でもまだ魔法は使う事が出来る。今の私はアイスクロウの魔力を持った魔女、テラヴィス。デストラクションを避ける手段は知っている」
「犯人は、今のテラヴィスには手がだせないんだ。だから怪物をさしむけている。その目的が捕獲か抹殺かまでは分からないが」
「目的は捕獲だと思うわよ。あのオオサンショウウオの怪物は、相手を飲み込んで逃げる事が出来るのよね。あの時に襲ってきた他の怪物達は、オオサンショウウオに捕らえさせる為の囮じゃないかしら。皆殺しにしちゃったけど」
「リザリィは殺しを愉しんでいた。相手を生け捕りにするつもりなどなかった」
「だってリザリィに刃向かってくる相手なんて、殆ど居ないのよ? せいぜい天敵の天使ぐらい? おかげでコイルは地獄界に送還されちゃうし。今日のあれは日々貯まっていたストレスの発散よ」
つくづく、この子で敵でなくて良かった思うも、どんどん恋愛の対処からは外れていくのを実感する俺だった。
リザリィはあれだけの力を持っていながらも、俺達にはその片鱗すら見せなかった。
今でもそれは変わらないし、敵を殺しているのは襟亜さん、里詩亜さん、硯ちゃん、ラビエルさんもそうなのだが、みんなは殺しを愉しんでいる訳じゃない。
特に真結は現実での殺しは嫌いだと言っているし、あの残虐な光景の時も、哀しげな目で怪物達の死を見守っていた。
リザリィは縫香さんに対して、怒らせないでくれる? と脅した事があった。
ここにいる皆とは仲良くしたいから我慢しているとも言っていた。
そのストレスの発散が、あの虐殺なのだろう。もっと別のストレスの発散の方法は無いのだろうか。
「リザリィ、もっと別のストレスの発散の仕方は無いの?」
「あら、ダーリンが朝までお相手してくれるなら、ストレスなんていつだってゼロよ」
「そ、それ以外でお願いします」
「じゃあ真結ちゃんでもいいわよ、女同士、朝まで愉しんじゃったりする?」
「……あんな虐殺をするぐらいなら、真結を好きにしてもいいよ」
「あら、本当に?」
「ま、真結はダメだよ! 真結に何かしたら、俺はリザリィの事、許さないよ?」
「分かってるわよぅ、真に受けるつもりはないわ。でも、やり方を変えるつもりもないわよ。ただしリザリィを殺そうとした相手だけにしておくわ。今日みたいに、テラヴィスを捕まえようとやってきた相手には、手加減して相手してあげる」
「もし、次にやったら、これでぺんぺんするから」
真結はラビエルから貰いうけた榊の枝を取り出して、リザリィの方に向けた。
「うっ、それ天界の祝福を受けた枝ね。悪魔払いとかがよく持ってるわ。どうしてそんな物騒な物を持ってるのよ?」
「真結には、天使として来島さんと町田君を守って貰う必要があるからじゃ。話はどんどん泥沼になってきておる。この先は人間とて、安全かどうか分からぬ」
ラビエルさんがそう言うと、リザリィはふぅぅ、と長いため息をついていた。その目が少し寂しげに見えたのが気になって、歪んでいたリボンを直してあげた。
するとリザリィはちょっと顔を赤らめて自分でもリボンの位置を調整していた。
「ダーリンって、優しいわよね」
リザリィが真結にそう言うと、真結はにっこり笑って頷いた。
「うん、ひろくんは優しいよ」
ようやく、こちらの話が一段落したのを見てから、縫香さんが俺達に声をかけた。




