酒と女とマナパイプ
「リザリィが来島さんと町田をこの話に巻き込むつもりなのは、知ってましたよね」
「ああ。リザリィがそう言った以上、逃げられないだろうね」
「リザリィは来島さんとテラヴィスを拘束して、魔物達の囮にしたんです。場所は硯ちゃんの学校の近くの廃工場。その時に硯ちゃんも巻き込んだみたいです」
「多分、私が行かなくても、リザリィちゃんだけであの怪物達を倒す事は出来たと思う。リザリィちゃんの目的は、その怪物達をレヴィスト男爵がさしむけたって事実を掴みたかったみたい」
「でも、怪物達はレヴィスト男爵が差し向けたんじゃなく、魔界の君主が差し向けたんです。怪物達の首領格の大きな怪物がそう言いました」
「魔界の君主……ねぇ……」
「怪物は、存在ごと消し飛んだの。人間界から追放されたんじゃなく、魂を壊されたのでもなく、この世から居なくなったの」
「パーフェクト・デストラクション(完全崩壊)か。そいつはまずいね」
「リザリィちゃんはすぐに、私にテレパスの魔法を使う様に頼んできたの。皆で手を繋いで精神を直結して話したんだけど、リザリィちゃんが言うには、監視がいるから、無事に怪物達を撃退したって感じで家まで戻ってって言ったの」
「あの時、怪物の親玉の話を聞いたのは、俺とリザリィだけでした。でも、テラヴィスも聞こえてたのかな?」
「うん。魔法の耳で聞いた。でも黙ってた」
「そりゃデストラクションされたら防ぎようがないからね。人間だろうが存在を消されたら、現行犯でないと罪を咎めるのも難しい。生命的な記録が何も残らないからね」
「それで私達は頬白さんの家まで来て、結界の中でしか話せなくなったのか」
「魔界の君主というのは、問題だと思うぞ、縫香さん」
里詩亜さんの言葉に縫香さんが気怠そうに応える。
「……何かねぇ、そんな感じだったんだよ。レヴィストが動いてるってのも厄介だけど、それ以上に事態が大きく動いてたんだよ。いくらテラヴィスが魔界の重犯罪人だとしても、十二世界全部が注目するような事じゃないと思ってた」
「地獄の君主より、魔界の君主の方が厄介なのか?」
来島さんが縫香さんにそう尋ねたが、代わりに硯ちゃんが答えていた。
「地獄の君主がテラヴィスを狙うのは『当たり前』、でも魔界の君主が狙うのは『過剰行為』しかも地獄の怪物を差し向けたのなら地位剥奪になるかも。それは君主様がして良い事じゃないよ」
「魔界の大物が相手となると、本腰を入れる必要があるな。真結、私が動けない時は、お前の力が頼りだ」
「はい、私、頑張ります!」
「この際だからはっきり言うが、魔法に関しては弓塚君に守って貰え。そうして守って貰いながら、地獄の敵は真結が追い払うのじゃ」
「了解です!」
「気が早いよラビエル。魔界の君主って言っても数十人は居る。真犯人が誰かなんて、見当もつかないし、向こうも尻尾は出さないさ。それでレヴィストは私に警告したんじゃないかな。手を出すなってね。もしかしたら助けて、とか言い出してるかもな」
「真犯人が動いたから、レヴィストは私を殺す事にしたのかもしれない……アイスクロウの力を手に入れる為に」
テラヴィスがそう呟いた時、すまぬな、テラヴィス。という老人の声がテラヴィスの口から漏れた。そしてすぐにテラヴィスがいいの、アイスクロウのせいじゃない。と呟いていた。
「話の大筋は見えてきたけど、黒幕が誰かは謎のまま。もっと情報を集めないと」
「……まだ……足りない。今はまだ、何も見えない」
来島さんの側で町田がそう呟いていた。その様子ではスイッチは入っていない様で、冷静ないつもの町田のままだった。
「ご飯、そろそろ出来るから、テーブルの上をあけて頂戴。出来たものから運ぶから」
「……早いな」
「だから、私一人で十分って言ってるでしょ。でも、もう主だった料理は出来て厨房は空いてるから、里詩亜も厨房を使っても良いわよ」
「そうか。では料理を運ぶぐらいは手伝おうか」
「助かるわ、お願いね」
部屋の中に料理が運ばれてくると、雰囲気はいっきに和んで、先ほどまで深刻な顔をしてた皆が、笑顔で食べ物を口にし始めた。
「ちょっとー! どうして今夜の主役の私が戻ってきてないのに、食事なんか始めちゃってるのよー!」
一同が襟亜さんの作った夕食に舌鼓を撃ち始めた頃、リザリィが階段を降りてリビングに入ってきた。
また襟亜さんの部屋に出入り口を作ったのか、真結の部屋に出入り口を作ったのかは定かではない。相当慌てていたのか、髪の毛はぼさぼさでリボンも歪んだままのリザリィを見て、縫香さんが同情に似た笑みを浮かべて言った。
「あ、生きてたんだ? 厄介な何者かに捕まってもう戻って来ないかと思ってた」
「誰のせい!? あなたのせいよ! 地獄産のマナパイプなんて、一部の有力者しか持って無いじゃない! 仕方が無いから作らせたのよ! いくらしたと思ってるのよ!」
「金で済む話なら良かったじゃないか」
「まぁ、そう言われればそうなのよね。誰かに頼んでしがらみを作るよりは、金で済んで良かったってのは確かね。ほら、これでいい?」
リザリィは片手に掴んでいた細長い金属棒を縫香に向けて投げ、縫香さんはそれを手元に召喚する形で受け取り、その形を見て眉を潜めた。
「なにこれ煙管じゃない。パイプってこんなのなの? こーんなS字型のじゃないの?」
「リザリィは煙草吸わないから、よくわかんない。一番早く作れるのはそれだったの」
「ふーん……とりあえず、使ってみるか……」
リザリィから黒い煙管を受け取った縫香さんは、その煙管の先端にいきなりマナ葉を突き刺して火をつけた。
「おー、これ、いいじゃない! いっきに身体の中に魔力がみなぎってきたわよ!」
先ほどまでのションボリ具合を明らかに脱した縫香さんが、酒を飲みつつスパスパと煙管をふかし始めた。マナ葉が匂いも煙も少なくて本当に良かったと思った。
程なく魔力も身体の中にみなぎってきたらしく、いつもの縫香さんに戻り、酒と煙草と料理を愉しむ見慣れた姿に、皆も安心したのか、笑顔が戻ってきた。




