飲み会で幹事が戻って来ないとグダる
「死なないとは思うけど……回復するまでには1日ぐらい休んだ方が良いかも」
顔面蒼白になっている縫香さんを見た里詩亜さんが心配して、落ち着かない様子だった。里詩亜さんは無愛想だけど、口に出さないだけで本当は心配性らしい。
「んー……天使の癒しって、魔力は回復するのかなぁ?」
里詩亜さんの心配が皆に伝染し、縫香さんを取り囲んで覗き込む。さりげなく里詩亜さんが下半身にシーツをかけてくれて、目の毒になる所を隠してくれた。
「酒……酒はまだか……」
「お酒はまだだけど、これで我慢してね、お姉ちゃん」
真結がそう言って癒しの手を当てると、それも少し効果があった様だった。
「ああ、ありがとう……疲れが取れたよ……ふう……肩こりは治ったけど頭痛は続いてるって感じだ……」
「あらみんなでどうしたの? 殺したって死なない人の心配をしても仕方無いわよ?」
「襟亜さん、いくらなんでも言い過ぎじゃ……」
「死ぬほどこきつかったけど、死ぬには至ってないわよ? はい、これで今は我慢してね」
襟亜さんはコンビニで売ってそうなカップサイズのお酒を襟亜さんに投げてよこし、受け取った襟亜さんは、蓋を開けて、一口くいっ、と呑み、酒臭いため息をついていた。
「みんなすまない。休めば済む事だから……里詩亜は心配しすぎだ」
「そうか? 幾分、顔色はよくなったみたいだが……」
「里詩亜は昔からそうなの。心配しすぎる所があるけど、それって悪い事じゃ無いから、いいんじゃない?」
襟亜さんは、手早く作ったサラダとおつまみをテーブルの上に並べると、また台所へと戻っていく。
「無事なら良いんだ。無事なら……」
過去に何かあったのだろう。皆もそれを察したが、何があったのかを聞けるほど不躾な人はここには居なかった。
縫香さんがソファに身体を起こし、カップ酒をちびちびと飲み始めたので、皆はもう大丈夫だろうと思ってそれぞれのやっていた事に戻る。
硯ちゃんとテラヴィスは魔法の本を読み、真結はテレビをつけてニュースを見ていた。
来島さんと町田は、座る所がない為に壁際で壁を背にして座っていた。その二人に襟亜さんが詫びを言って、小皿を目の前に置く。
里詩亜さんは気を使って、邪魔にならない様に壁際で立ち、手伝いたそうに台所の方をチラチラと見ていた。
一時間ほどしてラビエルさんが窓の外に降り立ち、窓をすり抜けて部屋の中に入ってくる。硯ちゃんとテラヴィスの邪魔をしない様に避けて通ると、縫香さんに和紙に包まれた一升瓶を渡す。
「ああ、やっと来たか、これでなんとか……」
「随分疲れておるようだな? 何かあったのか?」
「いや、買い物を手伝っただけ」
「魔力が尽きるまでシフト能力を使ったのか。ご苦労な事だな」
「なんだか客人が増えちまってね。今日は11人だよ。もうこの部屋じゃ狭いね」
「11人……なるほど、あとは悪魔娘が来てないのか……そちらの壁際の人間二人は、新たに話に加わるのか?」
「ええ、リザリィに巻き込まれたの。でも、進むかどうかは自分で決めたわ」
「そうか。人間が話に加わるとなると、危害が及ばぬよう心づもりが必要になるな……真結。これを持て」
そう言ってラビエルさんが、細い緑の木の枝を真結に差し出した。受け取った真結は不思議そうに上下左右から監察していた。
「ウサ子先輩。これはなんですか?」
「サカキの枝だ。清めた水や酒に浸し、その水滴を飛ばして清めるものだ。魔女には効かぬだろうが、地獄界から来た生き物には、癒えない傷を負わせるだろう」
「ありがとうございます。少しはお役にたてるかな?」
「よほどの強者でない限りは近づこうとはしないし、強者が現れた時は私が対処する。その力は魔法ではないから、弓塚君も守る事が出来るぞ」
「本当ですか? ひろくん、かしこさん、町田君、私、頑張るね」
「俺達も、なるべく邪魔にならない様にするよ」
「んー……この様子からして、リザリィが帰って来ないと話が始まらぬのか? あの娘はどこに行った?」
「ちょっとレベルの高いおねだりをしたんだが、やり過ぎたかな?」
「また何か持ってこいと言ったのか」
「地獄のマナパイプを一本。地獄で作られたマナパイプはかなり強くてね。魔界では滅多に手に入らないんだ。本場の地獄なら手に入ると思ったんだが……」
「ただの煙管なら天界にも沢山あるが、宝具の類となると、まず手に入らぬな」
「そこまですごい物を言ったつもりじゃないんだけどな……厄介事に巻き込まれたかな?」
「今以上に厄介な出来事ってあるのか?」
壁際にもたれていた来島さんが縫香さんに尋ねると、縫香さんはコップに酒を注いで飲みながら答えた。
「リザリィが戻って来ないとなると、かなり厄介だねぇ」
「私達は今、なぜ、ここに集まっているのかも分からない」
「そしてそれを説明できる奴も居ない」
やはりこの縫香さんと来島さんの性格は正反対で、対立してしまう様だった。何事もはっきりさせたい来島さんと、どこまで知っていて、何を知らないのかさえ気取らせない縫香さん。
来島さんの問いに対し、縫香さんは明確な答えを出す事は多分無いだろう。とすると、来島さんが退くしかない。
「あの、俺なら、少しは説明できるかも」
「聞きたいね。今日は何があって、皆がここに集う事になったのか」




