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魔女と魔人とヒーローと


 御鑑小学校近くの廃工場から頬白家まで、微妙に緊張感のある道のりが続いていた。何しろどこにいても見られているというのだから、タチが悪い。

 しかもあのリザリィさえも、良い子ちゃんにしていて、あれだけの凶悪な惨殺劇をくりひろげておきながら、そんな事など無かったように、俺と真結にベタベタしていた。


「真結ちゃんはいつ見ても可愛いわぁ、癒しの天使そのものよねぇ」


「うん、最近は天使としての自覚も出てきて、人々に幸せを分け与えるのが仕事だと思う様になってきました」


「ちなみに今日、ラビエルは居ないの?」


「今日は大事な儀式の日なので、ウサ子先輩は鹿島神社でお仕事しています」


「ちっ、肝心な時に居ないしぃ……」


 硯ちゃんはランドセルから分厚い本を出して読んでいたが、それはこの世の書物ではなく、魔方陣のかかれた魔法使いの本だった。


「硯ちゃんは、魔法の勉強?」


「家に帰ったらね、特別な結界を張らないといけないと思うの。ただの防御だけじゃなくて、空間を歪める魔法も必要かもしれない」


「魔女って、みんな硯ちゃんみたいに魔法の勉強をしてるんだと思ってたけど、意外と違うんだね」


「魔女ってね、魔界の女性って意味なんだよね。魔法使いは魔法使いなの。でも魔界の男性は魔男じゃなく魔人って言うんだよね」


「魔男って、そんな言葉も無いだろうしね……そっか。魔女ってそういう意味なのか」


「そう。でも、魔法使いの女性も魔女って言うんだよ。意味わかんないよね」


 魔女本人が意味が分からないと言っているのに、俺が分かるわけもなく、言える事は硯ちゃんは魔法使いらしい魔法使いであって、魔女らしい魔女であるというぐらいだった。

 だけど、その姉達は魔女ではあるけれども、魔法使いではないのだろう。


「ここから先は誰も見た事の無い領域。何が起こるかなんて誰にも分からない。町田君にも全力を出して貰わないと、我々が生き残る確率はゼロに近い」


「そうだね。頑張るよ」


「期待してるよ、相棒。相手はこちらの辿るルートを把握している。致命的な罠や待ち伏せも用意しているだろう。だが所詮はありきたりの物。適当に善処すればそれで済む」


「リザリィの話では、私達の目下の目的はレヴィスト男爵に奪われたテラヴィスの角の奪回。まずはそこまで行きましょうか。知恵比べなら負けないわよ」


 その言葉使いを聞いて、彼女の出生を思い出した。彼女は、町田が縫香さんに憧れを抱き、その淡い希望を具現化した存在だった。要するに縫香さんのコピー。

 縫香さんが、今の来島さんの様にやる気のある所を見た事なんて無いが、おそらく、こんな感じになるのだろう。今、ある意味で町田は、本物の縫香さんを恋人に出来たのかもしれない。


「やれるだけの事はやるよ。ただ、まだ、どうも本気にはなれないけどね」


「町田君の事はよく分かってるつもりだ。まだ本気を出す時じゃない。今はまだ、謎は謎のままでいい。だが、この謎を解く事が出来るのは、町田君しか居ない」


「謎……謎か……謎はいいね……でもまだ今じゃない」


「そう、まだ今じゃない」


(これはこれで……いいのかなぁ……)


 来島さんは、今の俺にとっては厄介な存在になりかけていた。というのは悪い意味ではなく、俺の想像を超えてしまっていて、何を考えているのかさっぱり分からない具合が、リザリィと縫香さんに匹敵していた。


(しかし、まさかなぁ……来島さんにも、脳内ヒーローが居たとは……)


 誰でも理想のヒーロー像は持っている物だと思う。俺だって、なりたいヒーロー像はあるが、それはあまりにも子供じみた超人的なヒーローであって、町田達の様な、手が届くか届かないかの様なリアルなヒーローでは無い。

 クラスメートの中には、坂本龍馬に憧れる男子もいたりするが、坂本龍馬なら、近づく事も可能だろう。シャーロック・ホームズも、エルキュール・ポワロにも近づく事は不可能じゃない。なりきってしまえば勝ちという面もある。


(来島さんのなりたいヒーローは、何なんだろうな?)


 自分がオリジナルだ、と言い、未知の世界を見たいという気持ちはクリエイティブな存在なのだろう。そして知恵比べでは負けないというのだから、余計に何なのか分からない。


(この状態の来島さんを見たら、縫香さんはどう思うんだろうな?)


 顔も同じで口調も同じ、だが性格は正反対。喧嘩にならなければいいのだが。などと他人の事を心配をしつつ、俺達は無事に、魔界の何者かの監視の元に、頬白家に帰る事が出来た。

 今日はここからが本番かもしれない。


「早速準備しなきゃ。リザリィちゃん、手伝って欲しいの」


「なぁに? 珍しいわね、硯ちゃんからお願いだなんて」


「闇で結界を作れる?」


「もっちろん、できるわよぉ。プライベートな空間はお手の物よ」


「私、探知系の結界を張るから、テラヴィスちゃんは防御系の結界を張って」


「防御系……分かった」


「真結お姉ちゃんは、ラビエルさんを呼んでね。大切な儀式が終わってからでいいから」


「了解でーす。ウサ子先輩。早く来て、でも焦らずに、仕事が終わったらその後最速で」


(そんな事言われても、どうすればいいのか……)


 自分がそう言われたらと思うと、真結の言葉はとても微妙すぎて困ると思った。言いたい事は分かるのだけど、それを真に受ければ、早くはなりそうになかった。




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