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「武器は無いのかい、シドニー? それでよく私の前に立つつもりになったな」
十二の異世界の間を飛び回りつつ、お互いに同じ世界に降り立った時を狙って、イェンのメイジブラスターが魔力弾を放つ。しかし縫香は着弾するよりも早く別世界へとシフトし、イェンが攻撃した後に移動する世界を見越して、襟亜をその世界に連れていく。
「私がお前に勝てるなんて、思っちゃいないよ」
ついた時には既にイェンの姿はその世界には無いが、彼女が逃げた別の異世界にて、待ち受けていた里詩亜がイェンにクナイを投げつける。
「フィアルの暗殺屋が、小賢しいんだよ!」
投げられたクナイは三本、その一本は左手のメイジブラスターの銃本体で受け流すが、他の二本は、軍服の緩衝材に突き刺さっていた。
やられた仕返しにと、里詩亜に右手のメイジブラスターを向けるが、その銃身を縫香につれて来られた襟亜が一閃し、イェンの腕ごと、斬り落とそうとする。
「くそ……鬱陶しい」
仕方無く里詩亜への攻撃をやめ、別の次元へとシフトしたおかげで、襟亜の一閃は空を斬る事になった。
「素早さでは、里詩亜には敵わないみたいですわね」
構え、踏み込み、抜刀を一連の動きとする襟亜の剣技では、逃げる相手を捕らえるのは難しかった。その一撃が致命的であったとしても、当たらなければ意味が無い。
再び次に対峙するまで、お互いに様子を伺いながら、異世界をシフトし続ける。
「遅いねぇ、イェン。その服が邪魔なんだよ。お前が二つの次元を移動している間に、私は五つの次元を渡り歩く事が出来るよ?」
「裸同然で移動出来ても、敵を倒せないんじゃ、意味が無い」
「だから、私は戦いは苦手なの。戦いの強さは全て妹に吸い取られてるから」
それぞれの次元の繋がり方には、一定の法則があり、道のように連なっている。
好きな次元から好きな次元へと一気に飛ぶ事は出来ず、隣接した異次元を渡り歩いていく事になる。その際に最も有用なのが、全ての世界に隣接している人間界だった。
人間界を通じて、最も遠い世界へ移動する事も出来れば、あらゆる世界で逃げられるのは、隣接する二つの異世界と、全てに繋がる人間界の三つ。
常にイェンの行き先は三択であり、故に縫香は今回の勝負に負けはないと言った。
その一箇所に襟亜が待ち構え、もう一箇所に里詩亜が待ち伏せしているとなると、 逃げ場は一つしか無い。
丁度人間界に襟亜と里詩亜がおらず、手薄と判断してシフトした時、軍人女の目前に鞘から剣を抜いた巫女装束のウサミミ女の姿が見えた。
「天使か!」
「無駄な殺生をするつもりはない、降伏するが良い。シャンダウ・ロー様は心の広い神じゃ、此度の事は見逃してくれようぞ」
イェンの着地点にラビエルが黄金の剣で斬りかかり、慌てたイェンは即座に異界へと逃げ込む。
「おっと、ばっちりな感じ」
イェンが人間界からどこへ逃げるかは当人しか分からない。
だから縫香は里詩亜を連れて適当にシフトするしか無かったのだが、ラビエルから逃げて来たイェンが目の前に現れたのを見て、白い歯を見せた。
「まず一つ!」
里詩亜がそう言うと、抜いた短刀で、イェンの持っている右手のメイジブラスターの銃身を斬り落とした。イェンは自分の腕を切られまいとする為に、銃で受けねばならず、咄嗟に銃から手を離すと、その銃が二つに切り分けられていた。
「武器を一つ失っただけだ。さて、どいつが最初に死にたい?」
両手で残りのメイジブラスターを構えたイェンが、行く先々で待ち受ける、襟亜、里詩亜、ラビエルの攻撃を避け続ける。
それでも憶する様子が無いのは、襟亜と里詩亜はシフトが出来ないと分かっているからだった。
唯一、ラビエルはシフト能力こそないが、天界へは自由に行き来する事が出来る。神の使途でもある事を考えると、殺す相手としては、やや荷が重い。
では、里詩亜か襟亜か? 里詩亜は柔術と体術に秀でていて、間合いに入られたらイェンに勝ち目は無い。とすれば、互いにある程度の距離から攻撃を行う襟亜が最も与しやすい。
「やってるわねぇ。それじゃあリザリィはテラヴィスちゃんを捕まえちゃおうかなぁ」
公園まで来ると、ひっきりなしに爆発と斬撃が空中で起こっていて、かなり危ない場所になっていた。公園の形はリザリィの言っていた通り、くの字型に折れていて、それは中央に黒い巨大な石碑が建てられている為だった。
その石碑の前に、石とは対照的に真っ白な色の少女が立ち尽くしている。
そこにある龍穴を通って、別の所へと逃げようとしたが、飛び込もうとして、行き止まりである事に気付いたからだった。
「テラヴィスちゃん、こっちおいでおいでー。怖くないよー」
真結はテラヴィスからある程度の距離の所で立ち止まり、小動物を呼び寄せる様に、テラヴィスを手招いた。その仕草にさすがのテラヴィスも先ほどの様な無表情から、困惑した表情へと変わっていた。
「とって食おうとか、殺そうとか、そういうつもりじゃないからぁ、ただちょっとお話をしたいだけなのよ、分かってくれるぅ?」
この場合、リザリィの方が遙かに説得としては筋が通っていた。さっき、リザリィの本心としては、捕まえてお兄さんに差し出すとか言っていた。だが、それをすればラビエルさんも縫香さんも黙っていないだろう。まずは話をして、相手に近づくという古典的な説得を試みていた。
「何も話す事は無い」
「どうして人間界に来たのかぐらい、教えてくれてもいいじゃない」
「他に行く所が無い。そして留まる事も出来ない」
「それは追っ手が来てるから?」
「そう。この私の力を求めて、皆が私を捕らえようとする」
「返り討ちにしちゃえば?」
「却下じゃな、そんな事をしたら、このテラヴィスという娘は更に罪を負う事になってしまうのでな」
目の前にいる少女の声が突然変わり、老人の声でそう答えた。
(何だ? この声……?)
「君は、テラヴィスじゃないの?」
俺がそう尋ねると、白い少女は目を閉じて囁くように答えた。
「ワシは、テラヴィスであり、アイスクロウじゃ」




