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白い少女


 放課後、授業が終わって帰り支度をした後、俺は里詩亜さんの事について謝ろうと真結に声をかけた。


「あの、真結……」


「なぁに? 今日はどこかに行くの? どこでも一緒に行くよ?」


 声をかけた途端に真結が笑顔でそう切り返してきたので、俺は謝るタイミングを逸してしまった。

 彼女は次に俺が何を言うのかを待ちながら、笑顔で俺の顔を見ていたけれど、その笑顔はどことなく、襟亜さんの地獄の笑みに通じる物を感じた。

 俺が里詩亜さんの事について話をする前に、真結自身が今日の予定をどうするかを切り出してきたのは、『その事については触れるな!』と言っている気もした。


「かしこがユゴラスの事を調べてくれてると思うけど、どうする?」


 帰り支度を調えた町田が本を読みながら、真結にそう尋ねた。おそらく、真結がその言葉を望んでいた事を、町田は見抜いていたからだろう。


「うん、来島さんの話を聞きたい」


「リザリィちゃんも来るのかな?」


「多分ね。かしこが随分困ってるみたいだ」


「リザリィちゃんと来島さん、どんな話をしてるのかなぁ?」


「さぁ……ま、かしこの事だからうまくやってるんじゃないかな」


 これで俺の里詩亜さんに関する話は横に置かれたわけで、俺より頭の良い町田がそう仕向けたのだから、里詩亜さんの件については触れない方が良いという事なのだろう。


(町田、いつもごめん。俺にはどうしていいかわからないよ)


 そう心の中で感謝と謝罪の念を感じつつ、町田が友達で本当に良かったと思った。


 学校の正門を出ると、里詩亜さんは姿を現して、俺達の後ろを無言でついてきていた。

 俺達の会話に交じる事も無く、自分から話す事も無く、また、こちらから話しかけるには、少し距離をおいていた。


 常に気配を消しているのか、町田や真結と話をしていると、ふと、里詩亜さんがいるのかどうかが気になって、後ろを向いた。

 彼女は無言でついてきていたが、縫香さんと同じく、どうやら他人には関心をもたれない様な魔法を使っている様で、俺が下手に意識すると、その魔法を無効化してしまいそうだった。


「あっ、来た来た。ダーリーン! わたしはここよー!!」


(うわぁやめてくれ、すっごい恥ずかしい……)


 気配を消している里詩亜さんとは裏腹に、リザリィは小塚丘学園の制服を着たまま、大声で手を降って俺を呼ぶ。

 今時ダーリンなんて呼び方をする女の子も珍しいし、リザリィの血の様に赤い色の髪も珍しければ、つけている大きな黒いリボンも珍しい。

 隣に立っている来島さんが耳まで真っ赤にしているが、呼ばれた俺も耳まで真っ赤になっていた。


(次からは、もっと人気の無い所で待ち合わせをしよう……)


 そう思いつつ、来島さんとリザリィの方へ近づくと、当然リザリィが駆け寄ってくる。


「もう、女の子を待たせるなんて、罪作りなんだからぁ。3分と391秒ほど待ったわよ」


(ど、どうしてそんな変な数え方なんだ……)


「さ、早くしないと今日のメインイベントに遅れちゃうわよ」


 リザリィが俺と真結の間に割って入り、両方の腕で俺達と腕を組む。町田が来島さんの所へ歩み寄ると、来島さんは俺達の方を見ながら何かを町田に伝えていた。


「リザリィちゃん、メインイベントってなーに?」


 真結はリザリィに対しては全く壁を作っていないみたいで、腕を組まれていてもいつもの朗らかな笑顔を崩す事はなかった。


「それはひみつよ。まだ30分ぐらいは余裕があるから、それまでお茶でもしましょ」


 妙にひっかかる言い方をするリザリィに腕を引っ張られ、来島さん達と合流する。


「はぁ……何か色々あるらしいし、色々と調べ物もさせられたし、色々とこき使われたりしたんだけど……先に結論から言うわね」


 来島さんは疲れた顔で腕を組みながら、俺達に言った。


「色々とろくな事にならないわよ」


「悪魔の本領発揮という所か」


 町田が淡々とそう言うと、リザリィは眉を上げて笑顔を作り、何の事かしら? と良い子ぶっていた。


「ええ、テラヴィスが次に現れるのは、隣の駅から少し離れた所にある公園よ。15分もあれば着くわ。行くか行かないかは好きにして」


 来島さんはつまり、自分は行かないというのだろう。

 町田の言った通り、情報屋としての仕事までしか付き合わない。その情報を聞いて、俺達がどうするかは自分で決めろという事だった。


「そこへ向かう途中に、休める所はありそうか?」


「さぁ? 覚えてないわね」


「とりあえず、途中までは歩こうか」


 町田がそう言い、先に歩き出した。

 普段なら、俺と真結にどうするか、こちらの意向を尋ねてきそうな場面なのに、独断で歩き出したのが気になった。


「まさか、クビをつっこむ気なのぉ? それならそれで面白い事になりそうだけどー」


「まさか。俺達は情報を集めているだけです。かしこ、例のユゴラスについては何か分かった?」


「えっと、キツネ人の姿をした作品では、彼らはアルカナ族と呼ばれているて、根本的には悪だけど、自分の立場によっては交渉も出来るみたい」


「彼らが最も欲する物は何? 金? 地位? 力?」


「知識と力よ。彼らは時間を支配しようとずっと研究を続けていて、あらゆる魔法を研究し、強大な魔力を得たがっている」


「彼らは次元の旅人と敵対していて、テラヴィスという存在を奪い合う可能性は高いんじゃないかしら。テラヴィスについては、取り扱った作品が無いから、何の情報も無いんだけど、次元の旅人達は、ユゴラスやテラヴィスの様に次元間を行き来する存在を敵対視するらしいわ」


 今までの情報では、テラヴィスは竜の心臓を食べたとても強い魔女で、周り中から敵視されていると共に、その力を得る為に捕らえられようとしている、という事だった。

 しかし、来島さんの言う通りなら、縫香さんは次元の旅人の一人として、テラヴィスを敵視しているのかもしれない。


「ユゴラスってレヴィスト男爵とは関係があるの?」


「無いわよ。ユゴラスはいつでもどこでも何かにつけて出しゃばってくるだけ。そういう意味ではプレーンウォーカーも似た所はあるわねぇ」


「そうなの? 俺にはそんな風には見えないけど……」


「それは縫香しか見てないからよ。あれは特別」


「ねぇ、メインイベントってどこでやってるの?」


「まだまだ遠いわよ。あと10分は歩かないと……」


 とリザリィはそこで言葉を切り、その場で立ち止まると、口と目を大きく開けて、前方を指さした。

 その指先は速度制限の道路標識の看板の上を指していて、そこには白い髪をした、硯ちゃんと同年代ぐらいの少女が重力を無視して立っていた。


 真っ白な肌、真っ白な短髪、真っ白なドレス。

 空気に溶け込みそうな透明感をもち、その瞳は生まれつき色素の少ない人達と同じ、薄い赤色をしていた。


「テラヴィスぅぅ!!」



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