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自分では自分の事はよくわからない


「不良とはなんだ?」


「勉強や運動より喧嘩の方が得意な人かな」


 町田の分かりやすい解説を聞いて、里詩亜さんは気まずそうな顔をしながら視線を反らしていた。


「うっ……ま、まぁ、そういう感じだが……武術の修行は怠った事はないぞ」


「なら不良ではないですね。単なる武闘家です。人間の世界では武術の腕だけで生きていく事は不可能なので、相撲取りや空手家の様に門下生の一人になって大会に参加するのが一般的です」


「人間界で生きていくのは、私には厳しそうだな。この世界でどうやって恩給を貰えばいいのか見当がつかない。頬白家はどうしているのだ?」


「硯ちゃんが株や投資で資金運用をして稼いでいます」


「株? 投資?」


「持っているお金を誰かに貸して、その人に稼いでもらって、儲かった分のうちいくらかを分けて貰うという事です」


「そんな事をしているのか……ん? す、硯ちゃんとは、末っ子のあの子がしているのか?」


「そうだよ。縫香お姉さんが龍脈の地図を作る仕事で、魔界の偉い人から恩給を貰っているけど、家計の大半は硯ちゃんのおかげって言ってた」


「あの子はすごいんだな」


「うん、硯ちゃんはすごい」


「恩給を貰えるほど、武術の腕を高く評価されるというのもすごいと思いますよ」


 口べたな俺や真結に成り代わって、町田がうまくフォローしていた。


「若いうちだけだ。女性の武闘家は殆どが歳を取る前に良い人を見つけて結婚し、家を守る。それが出来なければ、かなり辛辣な思いをする事になる」


「里詩亜さんなら、引く手あまたじゃないんですか? 襟亜さんもそうだと聞きましたけど」


「いや、それが……うーん……こちらとしては、誰でもいいという訳では無いし……」


(やっぱり引く手あまたで選ぶ方なのか……)


「弓塚殿だって、リザリィの誘いを受けないのは、真結殿がいるからだろう?」


「それって、里詩亜さんにも心に決めた人が居るんですか?」


「いや、全然。全く。該当作無し」


(該当作って……)


「私はまだ19だから、その年齢の若さだけで求婚されても困る。そういうのはお断りなのだ」


「男はみんな若い女が好きだって、襟亜お姉ちゃんが言ってた」


「うむ。襟亜も相当袖にふっているが、その気持ちはよく分かる」


「じゃあ里詩亜さんの理想的なタイプってどんな人なんですか?」


「理想……というのも無い。真面目で、嘘をつかず、私の事を大切にしてくれればそれでいい。だが、そんな男はなかなか居ないぞ?」


「大丈夫ですよ、そのうち逢えますよ」


 先ほど、吹きだした事を悪く思っているらしく、町田はいつになく親切に里詩亜さんをフォローしていた。


「そうだと、いいのだが……」


 里詩亜さんが自信なさげに視線を床上に落としている時、真結がしっかりと俺の手を握っていた。何だろうかと思って真結の方を見ると、彼女はいつもの笑顔より心持ち固い表情で里詩亜さんの方を見ていた。


「真結、どうしたの?」


「え? あ? ううん? 何?」


 俺が話しかけると、途端に真結の表情は見慣れた、のほほんとしたそれに戻っていた。


「不良か……私は不良なのかもしれないな……」


 フェンスの外を眺めながらそう言う里詩亜さんは、昔の事を思いだしている様だった。その髪を後ろで纏める為に四本ほどのかんざしが交差状に挿されていて、そのうち一つの飾りが陽光に煌めいていた。

 自分と一つ二つしか違わない筈なのに、里詩亜さんはとても年上の女性に見えるのが不思議だった。


 昼休みが終わった後、珍しく、授業中に町田の方から俺に話しかけてきた。


「里詩亜さんと何かあったのか? 頬白が嫉妬していたぞ」


「真結が、嫉妬?」


「ああ。お前、気付かなかったのか? 里詩亜さんはお前を見ながら、真面目で嘘をつかない男が良い、と言っていたんだぞ」


「そうだっけ?」


「鈍いな……何があったにせよ、里詩亜さんはお前に好感を持っていて、それを頬白は面白く思ってない」


「好感って、リザリィも俺に言い寄るけど、それはいいのか?」


「正直な所、里詩亜さんの事、好きだろ?」


「す、好きって訳じゃないけど、嫌いじゃない」


「でも、リザリィよりは好きだろ」


「そうだね」


「弓塚が頬白を裏切る様な人間じゃないのは、俺もよく知ってる。それでも、今の頬白にとって、里詩亜さんは、新たな恋敵なんだよ」


「そ、そんな風には思ってないけど……」


「何も無いってのは分かってるよ。でも、気付いてなさそうだから言っただけだ」


 そこまで言うと、町田は俺との話をやめて、授業に集中した。先生がそれとなく、俺と町田の間に歩いてきて、少しの間、そこで立ち止まって授業をしていた。おそらくそれは、俺達への警告でもあったのだろうが、その後町田が俺の方を向く事が無かったので、先生は教卓の方へと戻っていった。


(真結が……嫉妬……)


 少し、自分自信に罪悪感を感じた。俺は真結を悲しませたり、悩ませたりしようとは思ってない。でも、実際はそうではなく、真結に嫌な思いをさせてしまっていた。心当たりはある。あのキツネ人との時の一件だ。そして町田が指摘した事がそれに重なっている。

 謝った方が良いだろうか?


(でも謝るって何を?)



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