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くれぐれも耳は忘れない様に



「こっ、この子が!?」


 頭の上から足の先まで真っ白な、まるで雪の精霊の様な無色の存在。その目は俺達の方を見下ろしていたが、興味はなさそうだった。


「皆、下がって!」


 里詩亜さんが素早く俺達の前に立ち、腰から短刀を抜いて構えた。


「テラヴィス! 人間界で人間に危害を加える事は禁忌。襲うなら私を襲え」


 刀を構えた里詩亜さんを見ても、テラヴィスは表情を変える事なく、冷たい視線だけを動かして、里詩亜さんを見下ろしていた。


「どど、どうする? これがメインイベント?」


 狼狽した俺がリザリィに問いかけたが返事はなく、彼女はテラヴィスを指さしたまま、怒り出していた。


「あんた、どーしてこんな所にいるのよー!? パワースポットはこんな所には無いわよ!?」


 そうリザリィが言った時、テラヴィスの姿は一瞬にして消え、そして道路標識の看板の部分が消し飛んでいた。


「な、何だ!?」


「!?」


 怯えた俺を、里詩亜さんが一歩下がって庇うように立ち、辺りの様子を伺うが、誰の姿もなく、それ以上、何も起きる事は無かった。

 看板は、何者かがテラヴィスを狙って攻撃したから、吹き飛んだのだろうし、それを避ける為にあの白い女の子、テラヴィスは姿を消したのだろう。

 だが、何者がどこから攻撃したのか、全く見当がつかなかった。

 しかし、数秒の後、前方の左の方から、バギン! と何かが壊れる音が聞こえ、続いて数度破壊音がしたが、その音はどんどん遠くへと離れていく様だった。


「んあー! 逃げてる途中に出くわしたみたいねぇ。さ、メインイベントが始まりそうだけど、かしこはどうするの?」


「俺とかしこはここまでだ。弓塚はどうする?」


「どうするって……追わないと行けないんだよね?」


 俺が真結の顔を見てそう言うと、真結はぽん、と片手でもう片方の手を叩く。


「あっ、そうだよね! 私が追わないといけないんだった。でもまずウサ子先輩に連絡するね」


 真結が懐から曲玉を取り出すと、リザリィはあからさまな嫌悪感を顔に浮かべながら、それを見ていた。


「やーねぇ。それ、天使の連絡道具よね。ほんっとセンス無いのよねぇ。もうちょっと可愛くとか出来ないのかしら?」


「もしもし真結です。ウサ子先輩ですか? 今、テラヴィスちゃんを発見しました! はい……すぐに追いかけますので、ウサ子先輩も耳を忘れないで来て下さいね」


 ラビエルさんと連絡はついたらしく、真結は淡く光る曲玉を耳元から遠ざけると、リザリィの方に差し出した。


「リザリィちゃんも話す?」


「要らない! ていうか、天使の道具とか近づけないでよ! 闇の悪魔には放射能レベルで有害なの、オエッてなるの!」


「あ、そうなの? ごめんね」


 リザリィに怒られて、慌てて真結は曲玉を懐にしまう。やはり、天使と悪魔は相対する存在の様だった。もし、真結がほんのり天使ではなく、本気で天使だったら、リザリィは真結の事を諦めるのだろうか?


「じゃあ、真結は行きます!」


「頬白殿、私もお伴する!」


「あ、はい。里詩亜ちゃんもはやく来て!」


「ちゃん!? えっと……はい」


 いきなりちゃんづけで呼ばれ、里詩亜さんは動揺していたが、真結が駆けだしたので、すぐに気持ちを切り替えて追いかけていた。


「じゃあ町田、行ってくるよ」


「ああ、気をつけてな」


「リザリィちゃん、こっちでいいの?」


「まっすぐ行けば、そのうち嫌でも追いつくわよ」


「リザリィ、これが、メインイベント?」


「……の始まりって所ね。ダーリンは危ない時はリザリィの後ろに隠れてね。里詩亜も居るし、大丈夫だとは思うけどー」


 先頭を真結が走るが、真結は正直、運動神経はあまりない。両手を横に振りながら、ほてほてと走っていたが、後続の俺達は早歩きでも追いつける程度だった。


「はぁ、はぁ……歩いても良いですか?」


「うん、早歩きでいいと思うよ」


 と言ってみたら、走るのも早歩きも速度としては殆ど変わらず、それなら走らなくても十分だった。


「私が抱えて走ろうか?」


 と里詩亜さんが言った時、わりと近く、左手で家の一部が吹き飛び、破片が宙に舞った。そして、それをした人物を見て、俺は目を丸くした。


「襟亜さん!?」


 襟亜さんが刀を抜きながら、壁の上を走っていた。エプロン姿にスリットの入ったスカートを履いたサンダルの女性が、刀を構えて壁の上を走る光景というのは、あまりにも異様だった。

 壁の上から、屋根へと飛び移った時、その着地点が音もなく爆発し、同時に襟亜さんの姿も消えていた。今の爆発を受けて吹き飛んだのではなく、姿そのものが消えていた。まるで縫香さんのように。


「おや、こんな所に援軍が」


 背後から縫香さんの声が聞こえたので振り向くと、縫香さんと襟亜さんがいつの間にか俺達の後ろに立っていた。


「お姉ちゃん! テラヴィスちゃん発見だよ! ウサ子先輩もすぐに来ると思う」


「そっか。それならまずこちらに負けはないね。でもどうしてお前達がここに?」


「リザリィちゃんがメインイベントを見せてくれると言ったので、ついてきたら、テラヴィスちゃんに出会ったの」


 真結のその台詞を聞いて、縫香さんはおや? と宙を眺めつつ何かを考えた後、その視線をリザリィの方へとゆっくり降ろしていく。


「へぇ……リザリィ……今夜は、地獄のお酒が飲めるんだよね?」


「な、なんの話かしらぁ?」


「お前が連れて来たんだろ、ア・レ」



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