ピンクの滑り台
「おかえりなさいダーリーン! そしてテラヴィスに逃げられたマヌケちゃん達~!」
俺達が帰ってきたのを見て、三階の窓を開けてリザリィが出迎えてくれた。
「二階と三階って繋がってるんですか?」
「繋がってる訳がない。あれは上に乗ってるだけだ」
「リザリィらしい無着具合だなぁ……」
しかし、次の時、リザリィは三階の窓際から姿を消し、そして二階の左側の部屋の窓を開けるとそこから俺達に手を降ってきた。二階には二つの部屋があり、向かって右側、俺の部屋の隣が真結の部屋だと言うのは知っていた。
「あれっ? 降りてきてるみたいですけど?」
「!!???」
どうやら左側は襟亜さんの部屋だったらしく、襟亜さんは脱兎の如く走り出すと、玄関を開けて二階へと駆け上っていた。襟亜さんなら飛んで屋根に登る事も出来そうだったが、それをしないのは人間界で暮らしている手前を考えての事だろうか。
「ちょっと! 私の部屋で何をなさっているんですの!? こんな所に階段なんか作らないで下さる?! 絶対許しませんわよ!」
「きゃーっ、階段が斬られたわーっ! なーにするのよー!?」
「それはこっちの台詞ですわ! 勝手に他人の家の上に建て増しした上に勝手に人の部屋に階段を作るなんて、非常識を通り越えてますわ。さっさと天井の穴をふさいで下さいませんこと? 代わりにあなたの身体で穴を塞いでさしあげましょうか!?」
襟亜さんのすごい剣幕に、さすがのリザリィも負けたらしく、左の窓から出てくると、真結の部屋の窓の前を通り過ぎ、そして俺の部屋の窓を開けて入っていった。
「ちょ、ちょっと、どうして俺の部屋に……」
そしてそれから数秒の後、また三階の窓から顔を出して、俺達に中指を立てて威嚇してきていた。
(という事は……俺の部屋に繋がってるって事!?)
俺も襟亜さんほどではないが、すぐに家の中に駆け込んで二階の自分の部屋へと駆け込んだ。すると、部屋の端に無理矢理階段が作られていて、狭いし不便だし、迷惑もいい所だった。
「ダーリンなら許してくれるわよね?」
「駄目だよ、すっごい邪魔だよこの階段! 俺の部屋、現代間の6畳なんだから狭すぎるよ!」
「確かに、襟亜の部屋は8畳あったから良かったけど、ダーリンの部屋にはちょっと階段は無理かもねぇ」
「無理無理、はやくどけて」
「真結ちゃんの部屋も6畳なのよねぇ。襟亜の部屋が8畳ってのが、なんだかずるくない?」
「それは襟亜さん達の都合だから、俺に言われてもどうしようもないよ」
「……仕方無い。階段はやめておくわぁ」
リザリィが呪文を唱えると、階段は消え、天井の穴も無くなり、俺は心の底から安堵のため息をついた。
「その代わり、これは許してね、ダーリン」
と、窓からリザリィが部屋に入って来たので、窓の外を見ると、三階の窓と俺の部屋の窓をつなぐピンクの滑り台が出来ていた。
(うわぁ、ピンクの滑り台で繋がってる建物なんて、見た事無いなぁ……)
「……お兄ちゃん、それでいいの? それでいいなら、そういう事だったってことにするけど?」
玄関先に立っている硯ちゃんが、腕を組んで怖い顔をしながらそう言った。
「俺に怒られても……とりあえず、これで……」
「じゃ、また、この一帯に魔法をかけとくね」
「すいません、お願いします」
(どうして俺が頼まなければならないんだろう……)
「あー……もうなんか、どうでもいいかなぁ……改装したって事にしちゃおうかなぁ……」
がっくりと肩を落とした硯ちゃんが、珍しく愚痴を吐いていた。
元々そんな建物だった、という記憶にするよりも、改装したという事にした方が魔法としては楽らしい。分かる気もするが、こんな隣の家に滑り台を繋げる改装をした家なんて、この世には無いだろう。そんな記憶の改ざんをして、意味があるのだろうか。
「弓塚殿、私が寝るのはここで良いのか?」
そんな言葉を聞いて振り向くと、里詩亜さんが天井に張り付くような形でハンモックのようなものを繋いでいた。
「どうしてそんな所で寝ようとしているんですか!」
「勿論、警護するためだ」
「24時間臨戦態勢で警護しなくてもいいですよ……そこまで危険な敵なんですか?」
「いや、そもそもダーリンは人間だから、優先して狙われる事は無いわねぇ」
「ああ、そうか。この場合、護らねばならないのは頬白殿か」
里詩亜さんはそう言うと、さっさとハンモックをとりはずし、窓から二階を伝って真結の部屋に入っていった。
「真結の部屋は狭いから無理ー!」
そういう声が聞こえてきて、渋々、里詩亜さんが真結の部屋から出てきて、なんと屋根の上にハンモックをつろうとしていた。
「里詩亜さんの部屋はないんですか」
「ないね、作ってないわ」
「リザリィ、作ってあげてよ」
「それはだめよ。だってリザリィの部屋は地獄界と通じているから、里詩亜が寝泊まりするなんて、危険きわまりないわよ」
「えええ……あの部屋ってそんな危険な部屋なの……」
しかし、屋根の上に寝泊まりする用意をしている里詩亜さんを見ていると、なんだか可哀想で放っておけなかった。
「あの、里詩亜さん。俺の隣の部屋が空いていて、衣装部屋になってるんです。硯ちゃんに頼んで、そこに居候をしているという感じにしてもらうのはどうですか?」
「えっ……良いのか? そこまでしてもらって」
「そこ、雨が降ったら大変でしょうし……」
「どうしてリザリィにはその部屋を紹介してくれないのよー?」
「リザリィは自分で自分の部屋を作ってるじゃないか。しかも地獄に通じる部屋なんて俺の家の中に作らないでくれよ」
「んむー、悪魔の部屋は地獄界と通じていないと、とても面倒なのよね……魔女達が龍穴の側に住むのと同じで、人間界と行き来するのが大変なのよねぇ」
「滑り台で繋げただけで我慢してもらえないかな……」
「そりゃあ、ダーリンがお願いっていうなら、それで我慢するけどぉ」
「お願いします」
「……しょーがないわねぇ……」




