無理に盛っても不自然だ
「じゃあ、襟亜、このヘンテコ機械、壊しちゃって」
縫香さんがそう言うと、襟亜さんが刀を一閃し、里詩亜さんがクナイを投げつけて、不可思議な機械群の動きを止めた。
途端に明かりが消えて辺りは真っ暗闇になり、俺は慌てて真結の手を強く握った。つもりだった。
「弓塚殿、そんなに強く握らなくても大丈夫だぞ」
「あれっ? 里詩亜さんの手だった……ま、真結はどこに!?」
「頬白殿はまだ絵の中を覗いておられる。さ、私達は上へ戻りましょう」
(うわぁ恥ずかしい。真結だと思って、思いっきり手を握っちゃったよ……)
しかもまだ両手とも握ったままで、更に向こうからも握り返して離そうとしないので、俺と里詩亜さんは両手を繋いだまま、仲良く上へと戻る事になってしまった。
「あっ!? ひろくん! どうして里詩亜さんとおてて繋いでるの!?」
日の光の差し込む所まで戻ってきた時、真結がそう言って駆け寄ってきた。
それで里詩亜さんは俺の手を離し、俺も里詩亜さんの手を離す事が出来た。
「私も一緒に繋ぐ!」
真結はそう言うと、俺の手と里詩亜さんの手をとり、そして両手をぶらんぶらんと振りながら、廃墟の外へと出た。
「弓塚殿、真結殿も、懐の広いお方だな……」
人気の無い通りへ出た時、里詩亜さんがそう言った。
「うん、真結は、俺なんか比べものにならないぐらい、懐の広い良い子です」
「こうして手を繋いでいるだけでも、何かじんわりとした優しさが伝わってくる」
「それは私の天使の力です! ささやかな幸せを分け与える事はできるんですよ」
「ささやかな幸せ……確かに、そんな気持ちになれるな」
俺には残念ながら、そのささやかな幸せパワーは伝わってきてなかったが、真結とこうして手を繋いでいるだけで、十分幸せだった。
「はぁ、それじゃ、結界を解くね」
「うむ。硯、お疲れさん」
皆が外に出た後、硯ちゃんが小さく呪文を唱えると、空間そのものにひびが入り、そしてぱりん、と砕け散った。すると人々が往来を歩く姿が現れ、目の前には古ぼけた町医者の廃墟があり、進入禁止のロープが入り口に揺れていた。
ここに入る時に無人だったのは、硯ちゃんが結界を張っていたからで、他の人々がその結界の中に入れないようにしていた為だった。
(今日は、硯ちゃんのすごい所も、色々見れたなぁ……)
などと感心している場合でもないのだが、今日は始めて具体的な敵と遭遇し、そして戦い、倒す、というこれまでには無い刺激的な場面を体験した。
元々はそうなのかもしれない。襟亜さんが、自分の仕事はお巡りさんだと言っていたけど、俺が見た事が無かっただけで、縫香さんも真結も硯ちゃんも、今までに何度も、敵と戦ってきたのかもしれない。
でなければ、あんな風に手慣れた形で戦う事なんて出来ないだろうし、あの廃墟に入る時も、彼女たちは皆、戦う事になるかもしれないという事を心得ていた。クルーシブルの時の様に、単なる探検気分でついてきたのは俺だけだった。
「これで、テラヴィスを追う追っ手の一人は排除した、か」
「ユゴルスの考える事ですから、自分達の利益ばかり考えていたんでしょうね、相変わらず、打算で薄情な連中だったわ」
「やはりテラヴィスを捕まえて、自分達の物にしようとしていたのか?」
「ユゴルスは人間も平気で誘拐するぐらいよ。襲われたのが弓塚君だったから良かったけど、他の人間だったらあの三角錐の牢獄に閉じ込められて、次元の狭間に吹き飛ばされていたでしょうね」
「あれって、そんな怖い物だったんですか!?」
「あやうく囚われて永遠に次元の狭間を彷徨う所だった。弓塚殿には本当に感謝している」
「俺は何もしてないですよ。身体が勝手に魔法を弾いてしまうだけです」
「でも、そんなひろくんのおかげで、私も助かったんだよ」
「頬白殿も助けられたのか?」
「うん。ひろくんが居なかったら、私、魔力の渦の中でズタズタのボロボロになっちゃってたと思う」
「弓塚君は良い子だよ。強くは無いけどな」
「あと、ちょっとえっちだけど、年頃の男の子ってみんなそうだから仕方無いわね。里詩亜の胸を揉んでる時とか、大興奮してたでしょ?」
「襟亜さん、見てたんですか……」
「胸? 胸が良いのか? やっぱり胸なのか……」
以前、温泉で見た時は、大きかった縫香さんの胸は、今はいつも通りの大きさになっていた。でも、身体の線の細さから考えると、今の方がとても綺麗に思える。あればいいって物でも無いと思う。
「胸ならありますよ、それなりに!」
真結は確かに四姉妹の中でも胸は大きかった。皆もその話はしていた。硯ちゃんはこれからという事で……。
「まぁ、あればいいって物でも無いんですけどね」
と真結は俺が先ほど心の中で思った事を、そのまま口に出していた。自分と全く同じ事を考える彼女に共感を感じ、そんな真結の事が好きだと心の中で強く思った。
「襟亜は昔から変わって無いな」
「里詩亜さん、ほっといてくださる!? かなり気にしてますのよ!?」
「気にしなくても良いと思うがな……私はすらりとした襟亜や縫香さんの体つきが羨ましくてたまらん」
「ふーん……ところで里詩亜、何カップ?」
「Dだな」
「くそっ……ラビエルなんかあいつEだぞ? 天使にEとか必要なのか?」
「天使ってみんな胸が大きいイメージがあるよね」
(みんな……胸の話で盛り上がってるけど……テラヴィスって魔女の事はどうでもいいのかな……)
どうにも緊張感に欠ける四姉妹に、里詩亜さんまでもが胸の話に参加してしまって、家に帰るまで、あーだこーだと胸の話をしていた。
そして自宅に帰った時に、我が家に三階が出来ているのを思い出し、縫香さんと襟亜さんは大きくため息をついていた。
「三階ってさぁ……ないよねぇ」




