耳は元気ですか?
「もー! レヴィストにやられたかと心配して、探してたんだからぁ!」
リザリィが近づいてくると、地面の中に溶け込んでいた魔方陣が光り出し、俺達のまわりに透明な膜のようなドームを作る。
「あら防御壁なんて、小賢しいわぁ」
とリザリィは言うと、片手で軽くその膜を振り払って消してしまった。
「け、結構、強めの防御結界だったのに……闇の令嬢って名前だけじゃないんだ……」
硯ちゃんが驚いてリザリィの顔を見ると、リザリィは大きく頷いてみせた。
「魔法使いごときが、本場の悪魔に勝てると思って~? でも戦う気も無いから気にしなくてもいいけど~」
「でも骸骨は怖いんだよね」
「あれはびっくりしたからなの。怖い訳じゃないのよ。その違いは分かって? それよりザコ悪魔に襲われたんでしょ? 里詩亜に見守らせておいて良かったわぁ」
「うん、ありがとね、リザリィちゃん」
「ちょっとは好きになった?」
「うん。ちょこっと好きになった」
「うふふ! いいわ! いいわねぇ、真結ちゃんはいつも可愛くて」
「本当にありがとう。里詩亜さんが居なかったら、マジでやばかった」
「あら、ダーリンもそんな事言ってくれるの? 今夜はベッドインかしら?」
「いや……ベッドは……勘弁してください。ただでさえ、シングルベッドで狭いんです」
「身も心も一つになっちゃえば、狭くないわよ」
「リザリィ、子供の前でそういう発言はどうかと思うぞ」
里詩亜さんがリザリィの横に姿を現してそう言うと、リザリィは口に手を当ててあら失礼、という様な仕草をしていた。
「で、ニート野郎のレヴィから身を守る妙案は浮かんだのかしら?」
「リザリィは相手が誰か知ってたんだね」
「まー、兄上を敵視しているデビルだから、知らないわけはないわねぇ」
「それは、リザリィのお兄さんの失脚をレヴィスト男爵が狙ってるって事?」
「違うわよ。兄上はデーモンの君主でレヴィストはデビルバロン。はっきり言って格が違うし、兄上の敵では無いわ。でもね、レヴィストはキレる奴なのよ。憎らしいけど頭の良さでは私も兄上も負けているわ。頭が良いからこそ、男爵という地位を保っていられるし、無用な戦いはしないの」
「だから、レヴィが何を考えてるかなんて、リザリィにはさっぱり分からないけど、確かなのは、真結ちゃん、そして縫香、どちらもちょっかいを出されたって事。そのうち硯ちゃんも襲われるかもしれないわよ? 襟亜は放っといてもいいと思うけどぉ」
「そこでリザリィから提案があるの。この里詩亜を専属で真結ちゃんとダーリンの護衛につけるのはどうかしら?」
「でも、それじゃリザリィが危なくない?」
「ダーリンの心配は嬉しいけど、レヴィ自身や爵位の相手が出てくるならともかく、下級悪魔に怯えるほど弱い女じゃないの、わかって?」
「それなら、いいけど……」
「私としても、グラーツ殿から命じられたのは頬白殿とリザリィの護衛ゆえ、リザリィが代わりに弓塚殿を守れと言うなら異論はない」
「里詩亜さんが居てくれるなら、とても心強いです」
「そうだね、里詩亜さんなら何が来ても大丈夫そうな気がする」
「あ、あまり、過剰に期待されても、困るが……微力は尽くそう」
俺と真結が本心から里詩亜さんの事を褒めると、里詩亜さんは顔を赤らめていた。
「じゃあダーリンの事は任せるわね、リザリィは、テラヴィスちゃんを追いかけたいの。縫香だけじゃ力不足みたいだし、レヴィの本命はテラヴィスだと思うし、先を越されたくないから」
あのリザリィが、俺と真結の事よりもテラヴィスという魔女を優先した事に、内心驚いた。そして、里詩亜さんに俺達の護衛をさせる理由も、テラヴィスを追いたいからだと言う。レヴィストがどのような悪魔なのか、それは町田からの情報でしか理解できてないが、リザリィの口からも、頭の良さでは敵わないと相手の強さを認めている。それが故に縫香さんだけでは力不足だというのだろう。
再び、脳裏に縫香さんの言葉がよぎる――何か分からないが、何か大変な事が起ころうとしている。
リザリィの悪魔としての強さを俺は知らず、憎めない愛らしい面しか見た事が無いが、頬白家で見た悪魔の笑みと言い、硯ちゃんの結界を軽くあしらった事と言い、実力はあるのだろう。
「それじゃ、ぜっっっったいに、ダーリンと真結ちゃんは護ってね、里詩亜」
「うむ。フィアル家の名にかけて」
リザリィは片手でばいばい、と手を降りながら姿を消していた。
「ね、リザリィちゃんって強いの?」
真結が里詩亜さんに率直に尋ねると、里詩亜さんは頷いた。
「リザリィの闇魔法は防ぐ手段がない。唯一対抗出来るのは天使の光魔法だけだ」
「真結は光の魔法は全然使えないなぁ……ウサ子先輩なら使えるんだろうな」
「ウサ子先輩とは、誰の事だ?」
「ラビエルさんの事です」
「ぷっ……ウサ子……ああ、いや、ラビエルは本来私達などの前に姿を現す事など無い、上級天使だ。あのテラヴィス=アイスクロウが動かなければ、人間界に来る事も無かっただろう」
「……これから、いったい、どうなるんでしょうか……」
「何があっても、二人は私が護る。勿論、硯殿も」
「私も、できるだけの事はするつもりだけど、やっぱりまだ、強い人達にはかなわないから……お願いします」
「あっ……ウサ子先輩から呼び出しだ!」
突然、真結はそう言うと、ポケットに手を突っ込んで七色に光る曲玉を取り出し、耳にあてた。
「もしもし真結です。ウサ子先輩ですか? 耳は元気ですか?」
(耳って……何の話だ……?)
「わかりました、すぐに向かいます。頑張れウサ子先輩!」
「それ、携帯っぽい何か?」
「うん。これね、ウサ子先輩とお話が出来るの。今、テラヴィスが居る所をつきとめたから応援に来いって呼ばれたの。すぐ行かなきゃ」
「真結、俺も行くよ」
「真結お姉ちゃん、私も」
里詩亜さんは何も言わずとも、俺達の後を追ってきた。真結は先頭を小走りで走り、ラビエルさんの所へと向かっていた。




