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霊・長・類


 硯ちゃんは学校の近場にある、小さな龍穴のある公園まで来ると、そこでヒトという生き物について簡単に説明してくれた。


 公園の端、茂みの中には、ひっそりと小さな石碑がたっていた。高さは15センチほどで、何かの標識らしき記号が書かれている面と、漢字が掘られている面があった。人間界に来た魔法使いが、表向きは地形の計測や高度の標識を兼ねて、このような小さなパワースポットを制御する封印を施しているとの事だった。


 硯ちゃんはその道標の側の地面の上に、ポケットから取り出した短い棒で円を描き、その円の中に魔方陣を描くと、小声で呪文を唱える。すると魔方陣は微かに光り、そして地面の中に溶け込むように消えていった。


「この龍穴の近くに悪魔が来たらすぐに分かる様にしたよ。あと他の人には私達の姿は意識しにくくなってると思う。お兄ちゃんを除いて」


「魔法防御って、諸刃の剣だな」


「そうだね。誰でも大なり小なり魔法に対する耐性はあるんだけど、お兄ちゃんほど強い人は滅多にいないから」


「この魔法に対する耐性も、元は魔法使いだから、そういう力があるの?」


「どうなんだろう? えっと、順を追って説明すると、遙か昔、デビル達は自分達の僕としてデビルより弱い魔物を作り出したの。それがヒトという生き物で、呪文や道具を使う事で魔法を使う事は出来るけど、デビルとしての特別な能力の無い生き物だったの」


「長い間、ヒトはデビルの使い魔や実験体として虐げられていたけど、一部の魔法使いは地獄から逃げ出して、あちこちの平行世界に隠れ住んだの。そしてそこで仲間を増やし、知識を蓄え、デビル達に反旗を翻したの」


「魔法使い達は、地獄界の隣に魔界という十二番目の世界を作り、周りの平行世界も巻き込んで大戦争を起こしたんだけど、平行世界そのものを破壊しそうになったから、十三番目の平行世界を作り、そこの中で決着をつける事にしたの」


「それがこの人間界の元となった世界で、元々は闘争界と呼ばれていたんだけど、ここで産まれた人間達のうち、一部の人達は不思議な力を持って生まれて、平行十二世界の全ての世界と繋がる事が出来たの」


「一部は次元の旅人プレーン・ウォーカーと呼ばれる人達で、縫香お姉ちゃんのご先祖様達。その他が『ヒト』と呼ばれる人間達」


「ヒトは何故か、呪文を唱えても道具を使っても全く魔法が使えなかったの、でも、魔法を使えない代わりに、幸せを感じると魔力を産み出すって不思議な力を持っていたの」


「最初はその、魔力を産み出すヒトの取り合いが行われていたのだけど、魔法使いと次元の旅人達が協力して、闘争界を完全に隔離して、争いのない世界にしようとしたの。そしたらこの人間界から周りの平行世界に魔力が溢れ出すようになって、どの世界にとっても利のある世界になったわけ」


「それで、神々はこの世界は平行世界全体の貴重な場所として保護する事に決め、魔力を産み出す人間達も保護する事にしたわけ」


「ヒトってサルから進化したんじゃないの?」


 硯ちゃんの説明に対し、素朴な疑問を感じてそう尋ねた。俺達、ごく普通のヒトは進化論という物を教えられ、あるゆる動植物は進化してきたと信じていた。


「それでいいんじゃないかな。本当の事を知る必要なんて、今の人間界には無いんだし」


「……あ、そう……でも、魔法に対する耐性は残っちゃったんだね」


「魔法耐性だけじゃなく、一定の平行世界と繋がりのある人も居れば、他の世界にシフトしてしまう人もいるよ」


「見える! とかいう人とか、神隠しとかだね。そういう、人間が考えたオカルトって面白いよね」


 それまでふらふらと身体を揺らせながら硯ちゃんの話を聞いていた真結が、のほほんと笑いながらそう言った。彼女がオカルトやホラーが好きなのは、滑稽に見えるからで、だから本当に目の前で人が死ぬのは嫌だと言っていた。

 もしかしたら、ヒトは自分が悪魔だった頃の事を記憶のどこかで覚えているのかもしれない。その非現実な現実を作品にした時に現れた滑稽さを、真結は楽しんでいる様な気がした。


「俺さ、今までずっと普通の人間として生きてきて、これからもそうだろうと思ってて、でも、そうじゃないもっと刺激的な世界に生きてみたいなとか思ったりしてた」


「だいたいの人は、みんなそうだよね。ひろくんだけじゃないよ。町田君だって、刺激的な世界を求めて、毎日本を読んでるんだと思う」


「でも、本当の事を知ったら、普通の人が毎日平穏に生きられるのは、神様のおかげなんだなって思う様になった。宗教的な意味じゃなくてね」


「ヒトが考える事って面白いし楽しい。人間はいつも、いろんな事を頭の中で産み出してるんだと思う。それが魔力を産み出す元になっているのかも」


「魔法使い達は、いろんな事を考えたりしないの?」


「するけど……魔法という力を持つと、もっと面白く無い真面目なものになっちゃうんだよ」


「魔法が使えないからこそ、人間は人間らしいと思うの。だから神様も守ろうとしているんじゃないかな」


 真結の考える事は、きっと俺が考えている事よりも遙かに遠大で、サイズの違う視点から見ているに思えた。


「硯もそう思う。でも、人間達を守ろうとはせず、遙か昔のように奴隷として手に入れようとする者達も居る。もしかしたら、テラヴィスも禁を破ろうとしているのかもしれない」


「単純に力を求めるなら、魔界でも地獄界でも天界でもいいと思うの。それなのにどうして人間界に来たのかが分からない」


「逃げて来たとか、ないのかな? もう争いは嫌だって」


「それで今も、デビル達に追われながら逃げてるのかなぁ」


「んー、でもさ、そしたらどうして真結お姉ちゃんが襲われたんだろう。まぁ、お姉ちゃんが最強の魔女からほんのり天使になった事を知る人は殆ど居ないから、最強の魔女を捕まえようとしたのかもしれないけど……」


「ひろくんが無事なら、真結はそれでもいいよ」


「よくないよ!」


 思わず硯ちゃんと俺が同時にそう言ったので、真結はびっくりして目を丸くしていた。そしてその後、いつにもまして優しい笑顔になり、俺達に頭を下げた。


「心配してくれてありがとね、ひろくん、硯ちゃん」


「硯ちゃん、里詩亜さんにも言われたんだけど、次に同じ様な事が起こった時、どうしたらいいか考えた方がいいと思うんだ。今回は里詩亜さんが側に居てくれたから良かったけど……」


「んー……真結お姉ちゃんは、攻撃とか防御とか、そういう魔法は使えないんだよね」


「硯ちゃんだけだよね、攻撃や防御の魔法が使えるのって。縫香お姉ちゃんはシフトしたりさせたりするだけだし、襟亜お姉ちゃんは魔剣を使う為に魔力を使ったりするけど」


「うん。だから、今までもずっと、出来るだけ真結お姉ちゃんの側に居て護ってきたんだけど……今回は今までとは違って、もっと危ない話になりかけてるから……」


「ちょっと待って、今、近くに悪魔が!」


「ダーリーン! 三人でひそひそ話なんて、ずーるーいー」


「ああ……悪魔が来たね……」



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