真の敵と対峙2──回想15
そしてシイラは直接、外務担当の者と話す機会が設けられた。意外と彼らはシイラに協力的で──そもそもアルヴィスに一方的に手を付けられたと思われているせいで、憐れんだ目で見ているようだった。それは妊娠しているから余計にだろう。
それにノクティースと開戦したいのは、皇帝とジェイコブだけであり──実は殆どの者は、戦争に反対の立場であった。
その事をシイラとアルヴィスは初めて知ったのだ。
「さすがにねぇ、戦争で成果を上げた少尉殿には言えるわけありませんって〜」という言葉も投げられた。
どうやらアルヴィスは好きで戦場に行っていると思われていたらしい。
それは騎士団全般に言えることで、特にジェイコブ派に属する騎士は、戦争がしたくて仕方ないと思われていたようだ。
「私達も今、戦争を回避する為に動いています。一緒に協力しましょう!」
そうして協力者が現れたおかげで、ノクティースと連絡が取れることになった。そして独自のルートを通じて、ノクティースの学院から荷物も届いた。
そしてそれには、学友や恩師からの手紙も入っていた。内容はどれも『帝国との戦争を避けたい』という内容で、より戦争を止めたいという思いは強くなる。
そしてシイラは再び、ノクティースに手紙を書いた。
ここにコクノキに類似した『ネバの木』があり、もしこれがコクノキの亜種なら──ノクティースのみならず、他国との火種にもなりかねないとも。
研究の協力要請を出すと向こうは好意的で、こちらからネバの葉を送ることになり、逆にノクティースからもコクノキの葉を送ってもらえることになった。
しかし、さすがにやりすぎたのだろう。
この動きが、ジェイコブの目に止まってしまった。
「アルヴィス・レーヴライン少尉、ジェイコブ殿下より至急呼び出しです」
ある日アルヴィスが登城すると、急に呼び出されてしまう。
士官の最下級であるアルヴィスは、直接ジェイコブから指示を貰う立場ではない。なので──
(ついに、バレたか……)
執務室に行くと、早速ふてぶてしい態度のジェイコブが、身を乗り出して聞く。
「なぁ、お前結婚しているんだってな?シイラ・クニューベル元男爵令嬢と」
アルヴィスは一旦深呼吸し、覚悟を決めた。
「はい、結婚いたしました」
「報告貰ってないぞ」
「士官と言えど私は、直接殿下にお目にかかる機会もありませんし、報告できる立場ではございませんので」
「でもお前侯爵家の人間だろう」
「帝国騎士団に身を置く以上、平等でありたいと思っております」
あくまでそれが当然と言ったかのような、つれない態度を貫くアルヴィスだが、内心は心臓がバクバクと激しく波打つ。
「まあいい、そうは言ってられなくなった。今からその夫人に会わせて貰おうか」
そしてアルヴィスの周りを、彼の騎士が取り囲む。
「彼女には、ノクティースのスパイ容疑がかかっている」
そしてジェイコブは、レーヴライン侯爵家へと乗り込んだ。
アルヴィスも重要参考人として、ほぼ拘束に近い形で連れて行かされた。
「実はシイラ嬢に『ノクティースのスパイ』という疑惑が向けられている。少し話を聞こうではないか」
シイラは部屋に踏み込んだジェイコブに驚きはしたが──しっかりと覚悟を決めて、見据える。
「あなたの狙いは、ネバの木なのかしら」
「確かにあれは、馬が暴走するのにうってつけのものだったな。でもあんなもの、どうだっていい」
ジェイコブは剣を抜くと、シイラのお腹の方に剣先を突き立てる。
「私が興味あるのは、レーヴラインに産まれる子供だからな」
不気味な笑みで、シイラを見下ろす。
「……何故?」
「今は知らなくていい」
「だから何故なの?」
「知らなくていいと言っただろう?どうせ世界の理を変えると、レーヴラインの存在意味は失われる」
──世界の理?
そんな単語を知っていたのは、ただ一人だけだ。
あの子はこう言っていた。
『だから私は、あれを連れ戻しに行くの』
──まさか。
「殿下、この物語を知っていますか?『おうさまのさいごのまほう』」
アルヴィスはジェイコブの方に踏み出した。
ジェイコブの眉がピクリと動いたのを見逃さない。
「私がその物語の、本当の結末を知っているとしたら?」
次の瞬間、胸ぐらが掴まれる。
「会ったのか!!」
「やっぱりお前か……あの子の敵『魔王』は」
あの子は『分裂した心の闇を止める為に遣わされる存在』と言った。
心の闇とは──つまり、あの物語の“魔王”。
「……産まれる、ということだな」
ジェイコブの視線が、シイラのお腹の方に向く。
『聖女の輝き』とは願いを叶える宝石──。
「まだ、完成ではなさそうだ」
シイラはごくりと息を呑む。
彼は心臓にある、宝石の存在も知っている──いや、知っているではない。
彼の狙いはこれだったのだ。
幼いラフィリアを殺そうとしたのも、『聖女の輝き』を手に入れる為だとしたら──
「それならあなたは私を殺せないでしょう?あの子が無事に産まれるまで」
シイラが足を踏み出すと、アルヴィスの元へ近付く。
「でもね、もうこの人は既に願ったのよ。『三人で幸せになりたい』って」
シイラはクスリと微笑むと、アルヴィスの懐にある短剣を抜いた。
かつてラフィリアが自害した、あの短剣を──。
「だからね、もう一度やり直すわ。次こそ私は、あなたを殺しに行くから」
ジェイコブは刃を向けるシイラに身構える。
彼女の攻撃を躱そうとした、が、次の瞬間見たのは──彼女が自らの胸に、剣を突き刺す姿だった。
──もしあの願いが叶うのなら。
自分が死ねば、願いは叶わない。だから……もう一度時が戻り、やり直すことができるはずだ。
「シイラ、シイラ!!」
アルヴィスは崩れるシイラを抱き止める。
とめどなく涙を流すアルヴィスの頬に、最期の力を振り絞り、指で涙を拭った。
「ごめんなさい……次はちゃんと、最初からあなたを選ぶわ……」
そして彼女の意識が途切れ、手が床に落ちる。
アルヴィスは彼女を抱き締めながら──体温が徐々に下がり、冷たくなるのを感じていた。




