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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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二度目の始まり──回想9

──いつまでこうしていただろうか。

アルヴィスの涙は止まることを知らない。

ただ真っ暗闇の中、一人佇んでいた。



(……あれ?)


気が付けば、掌に包まれていたはずの宝石が消えている。

はっとしてアルヴィスは顔を上げた。


するとそこには──一人の女性が佇んでいた。


「ラフィ……いや、違うな」



彼女は青い髪に、両腕に聖痕を持つ。

成長したラフィリアの姿のように思ったが、ラフィリアであるようで、ラフィリアでない。そんな雰囲気を感じた。



「お前は、誰だ?」

「あなたの下に産まれる子供ではあるわ、何度も」

「何度でも……?」

「ええ、そうよ。だってあなたが……いや、今のあなたに言っても仕方ないわね」


(何度も……?今のあなた……?)

言われた意味を考えていたが、彼女はそれを見透かしたように、クスリと笑った。



「この世界は全て、因果律を中心に廻っている。それは魂も同じなのよ」


「魂……とは?」


「魂とは心の核で、体と融合することで人格が形成されるもの。魂は因果律を中心に巡り、消滅し、また因果律により生み出される。魂だけでなく、この世のもの全ては因果律により造られ、消滅し、また因果律により生み出される。そうして世界は廻っている」



少し考えたアルヴィスは、一つの答えに辿り着いた。


「因果律とは……神なのか?」


「そうね、人々はそうとも呼ぶわ。元々因果律とはこの世の理を全て引き受けた人の成れの果て。元々あった世界の理を、全て消滅させ、自分の手で創り変えた──」


「……王なのだな?」

そう聞くと、見透かしたような微笑みを浮かべた。



ふと思い出したのだ。ラフィリアが嫌いだという“王さまのさいごのまほう”の絵本の一節


そして王さまは、さいごのまほうをつかいました。

それは──

『まほうのない世界をつくるまほう』でした。




──誰も知らない絵本の本当の結末は。

世界の(ことわり)を変えるため、彼が“因果律”という存在に昇華し、彼自身が()()()になった。


そうして創られたのが、今まさに生きている、この世界だったのだ。




「私はその、因果律から分裂させた魂の一部。だから特殊なの。入れる身体も限られるし、ここにある魂の時点で記憶が存在する」


彼女はふと顔を上げて、遠くを見つめた。


「身体が作られても、この会話も、かつての出来事も、遠い記憶のように感じるわ」



アルヴィスは、しばらく考える。


「君は、ラフィリアの“一部”だと考えた方がいいのか?」


「そうね。私のかつての記憶を持って、あなたの子供の人格は造られると考えればいい」


「それじゃぁ何のために、私達の下に産まれるんだ?」


「連れ戻す為よ」



彼女の表情が、最期に見たラフィリアの顔と重なる。


「私はいつの時代も、分裂した心の闇を止める為に遣わされる存在。あれは普段は厳重に閉じ込められている。だけど因果律の目を盗んでは、逃げ出して地上に降りる……だから私は、あれを連れ戻しに行くの」




その時眩しい光が、辺りを覆った。


「あなたの願いは叶えるわ。だから……また会いましょう」


──そして気が付けば、アルヴィスの意識も光の中に沈んで行った。



(今のは何だ!?)


意識が戻ったアルヴィスは、飛び起きた。

しかし視界に入るもの全てに混乱する。



(……何だ?どうなっている……?)

まず最初に。今居る部屋が、自分が子供の頃の部屋だ。

今は使っていないはずなのに、全く色褪せていない。


そして視線を落とすと──まさかのことに気付き、ガタガタと震えた。



(ゆ、指が、ある?)

あの戦争で失ったはずの指が、あるのだ。

そしてやけに小さい手に……身体も小さい。



「アルヴィス坊ちゃま、もうお目覚めですか?」


しかも部屋に入ってきた従者は、もう何年も前に辞めている。妻に先立たれ、故郷に帰ったはずだ。



「……今は何年、何月、何日だ?」


ようやく掠れた声が発せられた。

随分と高い子供の声で、発した本人アルヴィスが驚いた。

そして返ってきた言葉に、ごくりと息を呑む。


(日付から換算すると……今は十四歳)


そして──


「本日はお墓参りに出かける日です。旦那様は北へ視察に行っておりますので、奥様と二人でよろしいですよね?」



父が視察に行っていると言うことは、間違いないんだろう。

──今日はシイラの父、クニューベル男爵が死ぬ日だ。



「それで、……?」


いつものように起き上がると、ベッドの側にあるはずの杖を手に取ろうとした。

しかし杖が見当たらない。


「杖は?!」

「杖とは?」

「だからつ……」


ここまで言って、はっとした。

そして恐る恐る視線を、脚の方に向けた。



(……脚が、ある)


失ったはずの脚が、付いている。

その事に気付いた途端──とめどなく涙が溢れ出て、止まらない。



「ぼっ、坊ちゃん?」


従者は突然流した涙のわけがわからず、狼狽える。

アルヴィスはその従者を気にしてはいるが、涙を止めることはできない。ひたすら声を上げて、泣いていた。


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