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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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戦場での日々──回想2

※身体欠損が苦手な方はここから5話以上は飛ばしてください

──戦場での日々は、想像していたものよりも遥かに過酷だった。


毎日誰かが死ぬ。敵も味方も関係なく。

昨日の友が裏切るなんてことも日常茶飯事。


常に遠くで叫び声が聞こえ、血の匂いが漂う。

精神は日々消耗していく。それでも戦いは止まらない。



アルヴィスが最初に合流したのは、皇太子オズヴァルトの部隊だった。年齢と支持している家門の出ということもあり、ある程度の配慮は受けていた。

最前線に立たされることはなく、後方での支援が中心。それでも地獄には違いなかったけれど。



死線に立たされている訳ではないが、毎日仲間の誰かの血が流れ、心は毎日削られていく。

そんな日々の中で唯一の救いが──シイラからの手紙だ。



数週間に一度届く()()は、戦場と別の世界のことが書かれてある。


父のリハビリの様子や、母の様子が事細かに綴られた手紙は、まるで自分がその場にいるかのよう。

侯爵家の何気ない日々のことが綴られている文は、自分がかつていた場所と、守るべきものが明確になった。だからこそ、かろうじて自分を保つことができていた。


それに最後にいつも綴られている『無事をお祈りします』という言葉──それが唯一の励みになっていた。




──だがそんな日々は、突然終焉を迎えた。


(うそ、だろ……?)

その報せが入ると、部隊全員が息を呑み、言葉を噤んだ。


皇太子オズヴァルトが死んだ。


別部隊との会談からの帰路、暴走した馬から落馬したのだという。あまりにも呆気ない最期に、騎士たちは言葉を失った。



そして指揮は、第二皇子ジェイコブへと移った。

それが更なる地獄の始まりだった。


ジェイコブは容赦なく、アルヴィスを最前線に送った。


「レーヴライン侯爵家の次期当主たるもの、覚悟を見せろ」

アルヴィスにはそんな冷たい言葉が投げられた。

しかし実際の配置は、“覚悟”というには生温く……明らかに、生き残ることを想定されていない配置だ。



殺すか、死ぬか。

アルヴィスはその世界を彷徨うことになった。

それをジェイコブは、いつも愉快そうに眺めていた。



さらに厄介だったのは、敵だけではなかった。

味方の中に潜む敵──レーヴライン侯爵家の失脚を狙う者が、命を狙ってくる。そんな背後にまで神経を張り詰めなければならない日々で、心が消耗していく。


そんな中で出会ったのが、彼だった。



「うちのエミリー姐さんとシイラがお世話になってるな。感謝してる」


彼の名前は、エマルウェル・デンゼル=クニューベル。

入団した時から最前線で戦う、最強の騎士だった。

彼はかつてクニューベル男爵家の騎士団に所属していた、亡くなったクニューベル男爵の従兄弟だ──。



彼は帝国騎士団の中でも名の知れた存在だった。

帝国騎士団は全員平等を謳いながらも、貴族を中心として結成されている。平民が成り上がるには、相当の実力がなければいけない。

だが彼は平民出身でありながら試験を軽々と突破し、瞬く間に曹長にまで上り詰めた。

面倒見もいい彼は、誰もが“兄貴”と呼ぶ存在になっていた。



ジェイコブは、エマルウェルをアルヴィスの教育係として付けた。

恐らくそれは、クニューベル元男爵家とレーヴライン侯爵家の関係を知りながら、意図的にそうしたのだろう。

アルヴィスを孤立させる為に──だが結果は逆だった。



「俺もその歳で戦っていたが、戦争の最前線に送られるのとはまた違うよな」


エマルウェルは彼の境遇に同情し、可愛がってくれた。

エマルウェルが良くしてくれたおかげで、アルヴィスは部隊でも孤立することはなかった。

それに暗殺紛いの出来事を食い止めるなど、アルヴィスの騎士団生活に欠かせない存在になっていた。



それも彼には、悔いがあったからだ。


「俺も後悔してんだよ。俺が躊躇せずダリオ兄貴の養子になっとけばってな」


若いころから男爵家の騎士団を率いていたエマルウェルは、昔からクニューベル男爵家の養子になる話があったらしい。

だがシイラが婿を取る可能性を考え、答えは先延ばしにしていた。その結果、ダリオが急逝しエミリーとシイラは領地を追い出される結果になった。

その事を悔いて、エマルウェルは男爵家の騎士団に留まらず領地を出たのだった。



「だからまぁ……レーヴライン侯爵家については恨んではいるけど、感謝しているのは本当なんだ」


その言葉に、アルヴィスは何も言えなかった。




「兄貴のこと、シイラに伝えてもいいか?」


シイラからの手紙は相変わらず届いていて、返信も欠かさず行っていた。シイラから聞く生活が、唯一の戦う意味を見出してくれていた。


シイラもエマルウェルの行く末については心配しているだろう。

何度も伝えたいと言ったが、エマルウェルは首を振らない。


「シイラに死線に居ることが知られたら心配かけちまうからな」と。

でもシイラからの手紙を見せると、優しく目を細めて読んでいた。その茶色い瞳は、どこかシイラと重なるところがあった。

シイラの手紙は、彼が戦う糧にもなっていったのだ。





──そうして六年が過ぎた。

勝利も敗北も、両方味わった。仲間は増え、そして消えていった。

それでも尚、皇帝とジェイコブは戦争を辞めなかった。



毎日殺すか殺されるか。綱渡りのような日々だった。

その中で頼りにしていたのは、やはりシイラからの手紙だった。

手紙を糧に頑張れる。

だがそんな日々は、一番不本意な形で幕を閉じた。



「向こうから敵の援軍だ!」

敵地へ進行中、予想だにしない援軍が来た。

それも大規模な──


明らかな劣勢を強いられ、ひたすら部隊は砦まで撤退する。

砦に続く道を走っていた。その一瞬だった──。



(えっ?)


何かに躓き、体が前へ投げ出される。

──違う。

躓いたんじゃない。

()()()()()のだ。



(あいつが……?)


味方の騎士がにやりとした笑みで走り去っていく。

謀られたのだ。


そして背後に影が迫り、剣が振り下ろされる。

死を覚悟して目を閉じた瞬間──出発前のシイラの姿が脳裏に浮かんだ。



「アルヴィス!」

エマルウェルの叫び声が遠くに聞こえ、大きな衝撃と共に意識が途切れた。




──目を覚ましたのは、そこから三日後だった。


「アルヴィス!気付いたか!」

目を空けたアルヴィスの目の前に、エマルウェルの姿があった。

回りを見ると、ここは砦ではなく……更に撤退した場所にある駐屯地であることがわかった。



「残念だが敵軍の数が多く、撤退した。うちの隊はほぼ壊滅だ」

「……そうか」

「恐らく仲間内で情報を漏らした者が居た……まぁ恐らくそいつも死んでるだろうがな」


エマルウェルは皮肉な笑みを浮かべていた。



「あに……?」

ふと身体を起こそうとした所で、違和感に気付いた。


(何だ、これ)


足に力が入らない。それどころか……無いのだ。

あるはずのものがない。

──右足が、無いのだ。



「……アルヴィス、よく聞け。お前は右足と、左手の指を二本、失った」


手の包帯を眺めた。確かに巻かれた包帯越しに、指があるはずの場所が欠けているのがはっきりとわかった。


「……お前はよくやった、よくやったよ」


その瞬間、エマルウェルが声を上げて泣いていた。

強い“兄貴”が見せた、初めての涙だった。


アルヴィスはただ呆然と、失った手足を眺めていた。




そしてアルヴィスの除隊が決まった。

ジェイコブからはっきりと役立たずの烙印を押され、追放されたというのが近い。



「兄貴、頼みがあるんだ」


除隊を告げられると、真っ先にエマルウェルの所に向かった。



「一緒にレーヴライン侯爵家に来ないか?」


もはや隊の殆どを失ったエマルウェルも、喪失感に支配されていた。

更にこれから先、内通者として疑われることにもなるだろう。

その中で帝国騎士団を続けるのは、彼にとって自殺行為だと思ったのだ。



「俺はこの場所で死にに来たんだよ」

「じゃあ俺の側で死んでくれ」


エマルウェルは「それは愛の告白か?」とぷっと吹き出した。



「兄貴が死ぬと、シイラが泣くだろう……シイラの為にも、生きてくれないか」


そう言うと、エマルウェルは切なげに目を細めた。

そして僅かに口元が微笑む。



「わかりましたよ。これからの我が主、アルヴィス様」


彼はアルヴィスに頭を下げ、誓いを述べた。

こうしてアルヴィスは、エマルウェルを連れて侯爵家に戻って来たのだ。

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