表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/50

檻からの脱出

──シイラはネモフィラの庭を歩いていた。

青い花が風に揺れ、波のように広がる。太陽の光が柔らかく花弁を照らしていた。

そしてシイラが振り向いた先に居たのは──青い髪の少女だった。


(あなたは……?)

どこかで見たことがある少女だ。どこか寂しげに微笑んでいる。

手を振る彼女に、呼びかけようとした瞬間──白い靄がかかり、視界が途切れた。



そしてシイラは、ベッドで目が覚めた。

辺りを見回し、ここが侯爵家の別荘であることを思い出す。

そして隣にはアルヴィスが寝ていた。

布団の隙間からわずかに覗く腕には、無駄のない筋肉な浮かび上がっていた。その美しさに、思わず目を奪われる。

この腕に昨日抱かれた。そのことを思い出すと気恥ずかしい。


(綺麗だな)

プラチナブロンドの髪が、朝日に透けて美しい。

思わず前髪に触れて観察していると、不意に寝ているはずの彼が手を取った。


「おはよう、あなたから触れてくれるなんて嬉しいな」


そして抱き寄せて、ちゅっと軽いキスをした。


「ああ、この腕にずっと閉じこめておきたい」

(……!)


恥ずかしい。

だけど彼の腕枕が妙に居心地がいい。

素直に抱き締められることにして、何も纏わない胸部に頭を密着させた。

彼の体温がより鮮明に伝わってくる。


「さすがに今から二回戦は……」

「ち、違います」


慌てて飛び起きたシイラに、アルヴィスはクスリと笑った。


「半分は冗談だよ」

(半分……?)

「無理はさせたくないしね」


そしてアルヴィスも立ち上がると、「湯浴みの準備をさせよう」と言って身を整え始めた。



(あっ)

窓の外を見ると、ネモフィラが咲いていた。

どこまでも続くこの青は、夢で見た光景に近い気がした。



「聖女……?」


ふとレーヴライン侯爵家に伝わる聖女の話を思い出した。

あれは、いつかの、その聖女だったのだろうか。



「どうしたんだ?」


シャツのボタンを留めながらアルヴィスが聞いた。


「夢を見たんです」

「夢?」

「青い髪の女の子が、そこの庭に立っている夢……」


アルヴィスの眉が、わずかに動いた。


「それで?」

「いえ、特に何も……その子が立っているだけ……」


何かを聞きだけなアルヴィスだったが、シイラはそれ以上話せることはなかった。



「あれはいつかの、聖女だったのでしょうか」

「かも……ね」


アルヴィスは素っ気ない態度だったけれど──明らかに動揺しているのがわかった。 


(聖女に何かある?)


アルヴィスと聖女に、何か関係があるのだろうか。

しかし今現在、その聖女が現れていない時点で、彼がその血を引いている以外に何かがあるとは考えられなかった。




そして湯浴みを終え、朝食を食べ終えたところで──「準備ができました」と、侯爵家の者が声をかけてきた。

そして勝手に荷物をまとめられると、アルヴィスに抱えられて、馬車の中に押し込まれてしまった。



「あの、アルヴィス様……?」

「何だい?」

「どちらに向かっているのでしょうか?」

「皇都に戻るんだよ」


侯爵家の馬車に乗せられてる時点で、予想はしていたのだが。


「あの、領地に行かなければ……」

「男爵家には手紙を書いたし、領地にはエマルウェルに行ってもらうよ。他に人も派遣させた。問題はないよ」

「でも、その……」

「ファンデーションの売れ行きが好調らしいんじゃなかったっけ?だからギルド申請の書類を仕上げなければいけないんじゃない?」


確かにそうであるが、妙に嬉しそうなアルヴィスの声が耳に障る。

それに、だ。

(これはどうすればいいの……)


ずっとアルヴィスは膝にシイラを乗せている。

移動もずっとお姫様抱っこで……「無理させるわけにはいかない」とぼさいているが、もはやこれは軟禁ではないだろうか。




そして結局一日足らずで、来た道を戻ってきてしまった。


(何で戻ってきてるんだろう……)


日が沈む前に馬車は皇都の街に入っていき、侯爵邸の門を通過。

到着して降りると、「おかえりなさい」の声が出迎えた。



そして『下ろして欲しい』というシイラの願いは聞かれることはなく、抱えられたまま部屋まで連れて来られた。

その部屋は勿論、研究室の隣の寝室だ。



「一応、男爵家から荷物は持ってきたよ」の通り、シイラの愛用品がちらちら見える。

クローゼットを開けると、いつもの服の他にも、沢山のドレスや宝石が並ぶ。

しかもシイラの好みであるデザインなものだから、突き返すのも気が引ける。



「とりあえず今日は私も疲れたし、のんびりしてくれ」

(いや、家に帰るわ!)

そう何度か言いかけたけれど、豪勢な食事に、疲れを癒すマッサージ、寝心地がいいベッド……気が付けば、シイラは侯爵邸で眠ってしまっていた。



そして翌朝。

起きると隣には、安定のアルヴィスの姿がある。

(だから何でだ……)


確かに一夜を過ごした仲であるが、だからと言って毎日同衾を許したわけではない。服を着ていようとも、だ。


シイラが揺すって起こすと「早いね」と言いながら大きな欠伸をした。



「今日のうちにギルドの申請書類を書こうか。そうすれば来月にはコスメティックギルドの結成と、ファンデーションの技術が登録されるはずだ」

「あ、はい……」

「申し訳ないが、それで明後日には文官との面談も設けたい。面談は恐らく複数日しなければならないはずだ」

「……はい」


もはや怒る間もなく、仕事の話が矢継ぎ早に飛んでくる。

思ったより忙しくなるな……そう思っていたのだけれど。



(なんで、侯爵邸から出れないの?!)


侯爵邸に来て何日も経過した。

事務処理に追われているのは間違いないが、なぜか侯爵邸から一歩も出れない日々を過ごしている。


確かに申請書類に面談など、侯爵邸の方が都合が良い。

申請書類は実験のデータも必要だし、面談は侯爵邸だからこその()()()()が通用する。悲しい事実ではあるが。 



だけどそれを終わらせようとも、また次から次へと用事がやってくる。向こうからやってくるのだ。



「こちらのデザインはいかがでしょうか?腰のリボンが素敵ですよ」


今シイラが受けているのは、ドレスの採寸とデザインの打ち合わせだ。

一昨日は婚約指輪選び、昨日は式の場所の選定など、なぜかアルヴィスとの結婚について進んでいく。



(だから、まだ結婚は決まってないし、そもそも婚約もしていない!!)


そう叫びたかったけれど、隣に座るアルヴィスはさもそのように振る舞っており、こういう公の場で水を差すのは怖くてできなかった。

そして二人の時に反論しようにも……彼は全く話を聞かない。


「だって婚約については“ギルドの結成についてまとまったら”進めるんじゃなかったのか?」

「『急ぎすぎる』って?だから準備は私が主体で進めているんじゃないか」

「安心してくれ、誓いの言葉は長すぎないものにする」

「式の入場は君の歩幅に合わせて調整するよ」


こんな感じで話にならないのだ。



(夜、寝ている間に逃げ出す……も無理だ)


深夜に抜け出そうかと思ったことはある。だが隣で寝ている彼を起こさずに行くのは相当困難だ。

あれから手は出されていないが、彼はいつも起きるとシイラに抱きついて寝ている。それに起きるとすぐに反応するのは、あの厳しい帝国騎士団での名残りなのだろう。



(誰が囲い込みしないって言ったのよ!)

これを囲い込みと言わずに何と言うのか。そんな怒りが頂点に達そうとしていた。



「シイラ」

「……エマルウェル?」

「戻ったぞ!」


寝入った深夜にも関わらず、エマルウェルが戻ってきた。

エマルウェルはこの光景の異様さ──侯爵邸なのにシイラの部屋のものがあり、なぜかアルヴィスもベッドにいる に一瞬顔を歪めたが、アルヴィスの睨みにより敢えてスルーすることにした。



シイラは飛び起きて支度をする。

「早速報告を聞くわ、いいでしょう?」

そう言うとアルヴィスは「まぁ、いいだろう」と許可を出した。



そして隣の研究室で、二人は話すことになった。

夜の暗い研究室に、二人きり、だ。



「い、今すぐ……」

「今すぐ?」

「今すぐ帰るわよ!!」

「はい?!」



そしてエマルウェルを連れて、ダッシュで侯爵邸の廊下を駆け抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ