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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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25/50

どうすれば一番になれる?

夜会の喧騒が遠ざかり、馬車は石畳を静かに進んでいく。


シイラはそのままアルヴィスと共に、馬車に乗せられた。

揺れの中で、シイラの頭は次第に冴えてくる。

最初は重くぼんやりしていた頭が、少しずつはっきりとしてきた。



「アルヴィス様?」

ふと彼を見ると、怒ったような──悲しい顔で見下ろしている。



「そろそろ、下ろしてください……」

彼はお姫様抱っこをしたまま、シイラを膝に乗せたまま馬車に座っている。



「ダメだ」

アルヴィスはぴしゃりとそう返す。


「アルヴィス様、この体勢は恥ずかし……」

「これ以上何か言うなら、その口を唇で塞ごうか?」

「……」


いつもの不意に出る戯言が、今日は怖い。



「どうしてあれを飲んだ」

「あんなにきつい酒だって、知らなくて……」


それ以上、彼は何も言わなかった。

またあんな戯言を言ってくれれば、まだ気持ちは紛れただろう。だけど馬車には、沈黙だけが流れた。



そして連れて来られたのは、レーヴライン侯爵家だった。

彼はそのまま抱き上げて、シイラを中に連れて行く。

そして連れて来られた場所は──研究室の隣。


回帰前、アルヴィスと夫婦だった頃に使っていた寝室だった。



中は何も変わっていない。

窓の位置も、ベッドも、机も。

あの頃と同じ、最低限の何もない部屋で──まるで時間が止まっているようだった。



「……どうしてここに」

アルヴィスは答えない。

そのままシイラを、部屋のベッドに下ろした。



「どうしてあんな酒を飲んだ」

彼はベッドの淵に腰掛け、身を乗り出すと、もう一度同じ質問をした。



「あんなに強いお酒だとは思ってなかったの」

「あれは別名“レディ・キラー”と呼ばれる酒だ。酔わした女性を持ち帰る為に飲ませる酒だ」


アルヴィスははぁ、と大きく息を吐く。


「随分盛り上がっていたな」

「だって、ノクティースに留学していたって聞いたんだもの」


ノクティースという言葉が出ると、アルヴィスの目がわずかに動く。


「私はノクティースの文献を読んで薬を勉強したの。今でもノクティースは、私の憧れの場所なの」

「行きたいのか?」


アルヴィスは静かに問いかけた。


「でも男爵家にはそんな留学するお金は無かった……」


シイラは言葉に詰まる。

そして気が付けば、涙を流していた。


「できれば……行きたかった」



それは紛れもない事実だ。

回帰前、ノクティースでの楽しかった日々を忘れたわけではない。

仲間と日々研究に没頭した日々は、何物にも代えがたい、大切な日々だ。


「じゃあ金があれば、行くのか?」

アルヴィスはすかさず問いかける。

シイラは首を振った。


「行かないわ」

そう即答する。


「私は男爵家を守らなきゃいけない。私は男爵家の事業を守らなければいけないの。領民の生活が、私にかかっている」


もうシイラは、ただの貧乏貴族の令嬢ではない。

事業を引っ張っていく“男爵家の顔”とも言えるのだ。


だから今更、ノクティースへ行くなんて考えられない。




するとアルヴィスは、突然顔を伏せた。

肩も小さく震えている。


「……アルヴィス様?」


彼が顔を上げると、驚いた。

紫の澄んだ瞳から──一筋の涙が頬を伝っていたのだ。



「どうして泣くの?」


シイラは戸惑い慌てるが、アルヴィスは答えない。


そしてようやく、口を開く。

「どうすれば」


息を吐くような、小さな声は震えていた。



「どうすれば、あなたが手に入る?」


涙を拭い、アルヴィスは続ける。


「どうすれば、あなたの一番になれる?」



まさかの問いに、シイラは困惑する。


「だから、何でそんなに必死なの?」


彼は全てを手に入れることができるはずだ。

権力も、お金も、全てのものが彼の中にある。


必死に愛を乞うよりも、逃げ道を塞いで──それこそ『しない』と言った囲い込みをすればいいだけだ。



「いつも何かに追われているみたい」

そう呟くと、アルヴィスの瞳が一瞬泳いだのを見逃さなかった。



「だってそうでなければ、あの子が……」


アルヴィスは何かを言いかけて、はっと口を噤む。


(あの子?)

シイラは眉を寄せるが、アルヴィスはすぐに顔を逸らした。


「いや、何でもない……」


首を振ると、額に手を当て、何かを考えている。



「すまない……」

彼はそれだけ言うと、立ち上がった。

そして背を向けて、部屋のドアに向かい歩いていく。



「酔いが冷めたら帰りなさい」

たったそれだけ言うと、部屋を出て行った。

扉が静かに閉まり、シイラだけが部屋に残された。

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