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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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皇室の“人質

シイラが侯爵家に通い続けてしばらくした頃、ようやく納得のいくものが出来上がった。


「……出来た」

サンプルのコンパクトの中に詰め込んだのは、淡い肌色の硬いクリーム。指の温度で簡単に溶けて柔らかくなるように、何度も試行錯誤したものだ。


私はそれを両手で包み込むように持ち、深く息を吐いた。


──長かった。

うまく粘度が調整できず、何度も作り直した。けれど今度こそ成功だ。



この成功を誰かに伝えたいが、残念ながらアルヴィスは不在にしている。しばらく遠方の視察に行くらしい。

特に最近は収穫の時期が始まったので、忙しくしているのだ。


とりあえずシイラは、ぱっと思い浮かんだあの人に会いに行くことにした。



(うーん、やっぱりすごいわ)


その場所は、宮殿の中にある。

その白い石造りの建物は、皇宮から伸びる廊下と繋がっており、幾何学模様のように同じ窓が並んでいた。



つい先程ウルフラに使いを頼んで、訪問の許可は貰っているが……本当に自分はここに居てもいいのだろうか。そう思うほど気持ちが気後れしてしまう。


指定された入り口の、看守の人に名前を告げると、その建物の扉が開く。

案内された先の部屋に居たのは──アルヴィスの母、ドロテア元侯爵夫人だ。



「いらっしゃい、よく来られましたね」

ドロテアは微笑んで迎えてくれた。

ここは執務官の寄宿舎の一室だ。思ったよりも広く、部屋は二人なら充分生活できる程の広さだろう。


『久しぶりの来客で嬉しい』と、先程の手紙の返事の通りの言葉が返ってきた。



「うちの人がフィリー港の方に行っている間、私はここを離れられないので、色々申し訳ないわ」

変な規則だわよね。なんて呟くドロテアの後ろで、侍女がお茶の準備を始めた。



いつかウルフラが言っていたことがある。

帝国騎士団に従事する実際の理由は、“人質”として管理下に置き監視するために過ぎないのだと──。


(……確かに、人質だな)


皇室はレーヴライン侯爵家が更なる権力を持たぬよう、今は元侯爵夫婦を監視下に置いているだろう。


規則により、パルドリックが皇都を離れる間、ドロテアは執務官の寄宿舎にとどまらなければいけない。侍女も自分の家の者ではなく、皇室からの派遣の者が宛てがわれ、外出も届出が必要だ。

皇室はそうやって有力な貴族を監視し、権力を添いできた。その中でも特に、レーヴライン侯爵家は恐れられている存在なのだろう。



「早速で悪いけれど、これが例のものかしら?」


ドロテアは、シイラが取り出したコンパクトを興味深そうに覗き込む。


「はい。試作品ですが……」


ドロテアは手にすると、パカっとコンパクトを開けた。そして指先に少量を取って、手の甲にのせる。

軽く伸ばすと、肌の色が整い、質感がよりなめらかに見えた。


ドロテアはしばらく手元を見つめていたが──顔を上げると微笑んだ。


「……いいわね」


シイラも思わず胸を撫で下ろした。


「それで名前はどうするの?」

「名前は……」


少し考えてから、シイラは呟く。

「ファンデーション、はどうでしょうか?」


土台や基礎という意味の言葉だ。

肌を整えるというのは、美しさの土台になるもの。そう思ったのでこの名前が浮かんだ。


ドロテアも「悪くないわね」と微笑んだ。




「それで相談なんですか……」

「そうね。まずはどこかに売り込むことができれば、でしょ?」


シイラが言い出しづらかったことを、ドロテアはあっさりと言った。

まずギルドを作るにあたり、ある程度商品が売れたという実績が必要なのだ。帝国側が『保護するにあたる』と判断できなければいけない。



だからまず、ドロテアの伝を辿って社交界で試してくれる人がいれば──そう思って彼女の元を訪れたのだ。



「それなら、ちょうどいい機会があるわ」

「何でしょう?」

「近いうちにエイステミ国の使節団が来るのよ。歓迎の夜会が開かれるわ。私達夫婦も招かれているの」


そしてドロテアは、目の前の紅茶を一口含んだ。


「クニューベル男爵家を招待しますので、一緒に行きましょう」

「いいんですか?」

「ええ。あなた一人だと不安でしょうから、ご両親も招待させて貰うわ。“ロイド薬”は、ちらほら海外でも噂になってますもの」



ドロテアは更にこう続けた。


「まずは、夜会に出席予定の方に、商品を売り込みましょう。いくつか伝を辿って、声をかけてみますね」



それはシイラにとって、思いもよらない素晴らしい提案だった。


「……ありがとうございます!」


高鳴る鼓動が抑えきれない。

満面の笑みを浮かべるシイラを、ドロテアは優しい眼差しで見ていた。




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