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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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20/50

さいごのまほう2

そして棚に戻そうとした時、ふとなつかしい本が目に入った。


(うわー、これ読んだことある!)



それは古い絵本。

『王さまのさいごのまほう』という絵本だ。


この本は帝国だけでなく、世界各国で親しまれている物語。世界中の子供達が一度は読むという、世界で一番有名な本だと言ってもいい。

様々な年代向けに手を替え品を替え、これをベースにした物語も数多く発行されている。


シイラはその場に座り、パラパラとページを捲った。



『王さまのさいごのまほう』


むかしむかし、まほうがあたりまえの世界がありました。

空には光のりゅうがとび、森の木はうたをうたい、人々は小さなまほうをつかってくらしていました。


その世界に、いちばんつよい王さまがいました。


王さまは、だれよりも大きなまほうの力をもっていました。


けれど王さまは、ほんとうは王さまになりたかったわけではありません。

ある日、とつぜん空からこえがしたのです。

「この世界をまもれるのは、あなたしかいない」

そうしてえらばれ、王さまになったのです。


王さまは、だれよりもつよくて、やさしいひとでした。

だから、人々のかなしいきもちや、いかり、うらみを、ぜんぶうけとってしまうのです。

王さまは、ひとりでがまんをして、わらっていました。

けれど、心のなかはどんどんくらく、おもたくなりました。


ある夜、王さまはおもいました。

「このままでは、わたしの心がこわれてしまう」

そこで王さまは、大きなまほうをつかいました。

自分の中にたまった、くらい気もちだけを、ぐっと引きはなしたのです。

黒いもやは、くるくると空へまいあがり、やがて大きなすがたになりました。


それが魔王まおうでした。

魔王はさけびました。

「わたしは、人々がうみだした、いかりとかなしい気もちだ!」

魔王は町をおそい、人々はおそれました。

そして人々は立ちあがり、魔王とたたかいました。

王さまも、たたかいました。

けれどそれは、人の心が生んだものとのたたかいでした。

たたかいはつづき、空はくらく、森はやけ、まほうも光も、だんだんときえていきました。

やがて──なにも、のこりませんでした。



なにもないせかいで、王さまはつぶやきました。

「わたしは、みんなを、幸せにしたかっただけ」


そして王さまは、さいごのまほうをつかいました。

それは──

『まほうのない世界をつくるまほう』でした。


目をあけると、そこは、まほうのない世界。

空は青く、風はやさしく、人々は自分の足で立ち、自分の手でたすけあっていました。

よろこびも、かなしみも、みんなでわけあう世界です。


もう、魔王はいません。

まほうもありません。

けれど──子どもたちのわらい声は、むかしのどんなまほうよりも、あたたかくひびいていました。


そしてそれをみまもる、ひとりのやさしい人が、そっと空のうえで、ほほえみました。

むかし王さまだったひとは、空のうえから、いつまでもわたしたちを、みまもっているのです



おわり


読み終わった時に、ふと思う。

(魔法……)


──この世界には、かつて魔法があったらしい。

この物語は、現実の出来事がベースとなっているのだと言われている。

だからこそ、長い時間、繰り返し伝えられているのだとも。



(ひょっとしたらこの回帰も、魔法なのかな?)


なぜ自分が戻ったのかはわからない。

それに普通は過去に戻った時点で混乱するだろう。


でも回帰直後から、自分は妙にこの状態を受け入れている。


(魔法なら、説明はつくな)


魔法とはなんて都合のいいものなんだろう。

そう思いながら大きく息を吐いた──その瞬間だった。



「そんな子供騙しな話」


背後から声がして、びくりと震える。

ゆっくりと振り向くと、居たのはアルヴィスだ。

いつの間にか棚にもたれ掛かって、こちらを見下ろしている。



「魔法なんて、くだらないとは思わないか?」


珍しく、ふんと馬鹿にしたように息を吐く。

シイラはなんだか、その様子に腹が立つ。


「夢がないですね」

「そんなのうちの子は怒るぞ」

(……?)

「『魔法なんてくだらない』って」

(……?)

「全てを超えてくるから、覚悟はしておいた方が良いと思うが」


会話が妙に噛み合わない。


(うちの子って何?)


「まあ容姿はあなたに似て可愛いだろうけど」

「……ちょっと待ってください!」


アルヴィスがそのさっきから言っている“子供”がわかり、シイラは頭を抱えた。



「何で私達の“子供”が確定してるんですか!!」

「何?子供ができるのは当たり前だろう?」


『まだ結婚すらしていない』と否定しようとしたが、「いずれ絶対、そうさせるから」と言ってしゃがみ込むと──顔を近づけて、おでこをゴチンと当てた。


その時、やっぱりそうだと確信する。


「アルヴィス様」

「何だ?」

「あの、ロマンス小説、好きですよね?」



絶対にこの変な台詞や仕草の根源は、あのロマンス小説だろう。しかもあの愛に生きる、エイステミ国発行の。


「まぁ様々な文化を学ぶのに最適ではあったな」

なぜかため息をつきながら、そう返す。


「あなたは嫌いか?」

「え……いやぁ、読んだことはないので、何とも」

「まぁ、知らなくて良いと思うがな」



いやぁどっぷりと浸かっているあなたがそれを言うのかと、少し呆れてしまう。



アルヴィスは微妙な顔をするシイラを見て、肩を竦めた。


「少しお茶に付き合ってくれくれないか?」

そして手が自然に差し出される。



「アルヴィス様の方が忙しそうですけど」

「あなたと話す時間ぐらいは、いくらでも作るよ」



彼は以前より、聞いているこっちがこっ恥ずかしくなるような、よくわからない戯言が少なくなった。

相変わらず言葉のチョイスに首を傾げることはあるが、以前よりも自然体の優しさが垣間見えてくるようになった気がするのだ。



アルヴィスが手を差し出すと、シイラは自然に手を取った。アルヴィスは自然に腰に手を回して、シイラをエスコートしていく。



彼のエスコートにも随分と慣れた。

むしろ彼の隣に居ることが自然に感じて──居心地は、悪くない。

そう思い始めていることを、自分でも感じていた。


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