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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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青いネモフィラの記憶

「事業の話をしたいのだけれど……まだアルヴィスは戻らないわね」


冷めた紅茶を口に運ぶと、ドロテアが口を歪めた。

恐らく淹れなおしを指示しようとしているのだろう。


「騎士団の演習を見に行っていいですか?」

「ええ、もちろんよ」


せっかくなのでアルヴィスの演習を見てみたい。

彼が本当に“永久凍土の騎士”なのか、気になるのだ。 


そしてドロテアに案内されて、シイラは邸宅の奥にある訓練場へと向かった。



「あら……ド派手にやってるわね」


遠くに砂煙が上がり、乾いた剣のぶつかる音が聞こえる。

近づくにつれ、ひれ伏す騎士が一人、また一人と増えていく。



(ああ……確かに“永久凍土の騎士様”だわ)


演習場の真ん中に立つアルヴィス。

隙のない構えで、辺りを睨む眼差しは、その“永久凍土”の凍てつく温度そのものだ。


そして襲いかかる騎士を、容赦なく正確に、淡々と打ち倒していく。


体幹が振れることはなく──表情筋の一つも動かさず。

圧倒的名強さを誇る、帝国最強の男の姿がそこにあった。



「ストップ!」

ドロテアの声が訓練場に響いた。

アルヴィスは剣を止め、ゆっくりと振り向く。


「アルヴィス。『演習』にしては少しやりすぎじゃないかしら?」

「これほど軟弱では帝国騎士団には到底かなわな……シイラ!」

目が合った瞬間、彼はまるで春の陽光のように輝いた。

そして一直線に、シイラへ向かい駆けてくる。


その跡は、雪道に刻まれる轍のよう。

そして、その跡から芽吹く若草の幻が見えた、ような気がした。



「ようこそお越しくださいました」


彼は片膝をつくと、うっとりとした表情でシイラの手を取った。


「こんな汗まみれの姿で、あなたの隣に立つことをお許しください」


そのまま、指先にそっと口づけする。

上目遣いで見上げる顔は、さっきの凍てつく温度が嘘のよう。



(引いてる……)

周囲の騎士たちが、明らかに引いているのがわかる。


(侯爵様が恋に落ちたって本当だったんだな……)

(恋に狂いすぎでは……?)


ひそひそ声が耳だけでなく、心にも刺さる。

アルヴィスは気にしていない様子なのが、更にシイラを焦らせる。



「アルヴィス。着替えていらっしゃい」


ドロテアがぴしゃりと言うと、アルヴィスは名残惜しそうにシイラの手を離した。


少し潤んだ瞳で(もう少し……)とドロテアを見るが、さすがに実の母には通用しない。

ドロテアは表情を崩さず、アルヴィスを睨みつける。


「すぐ戻ります」

そしてキュンと子犬が耳を垂らしたようながっかり顔で退場していった。




「ではその間、お庭をご案内しますね」

さっきとは変わり、ドロテアは眩しい笑顔だ。

そしてさっきも通った庭の方向へ案内された。



手入れの行き届いた庭園は、季節の花々が彩っている。

剪定された美しい低木は生命力に溢れ、若葉の小道が果てしなく続く。


庭師たちに気さくに声をかけるドロテアを見ると、本当にこの家を大切にしているのだと。そう感じざる得なかった。



「あ、向こうは何ですか?」

「向こうも素晴らしいんですよ」


少し気になった別館の裏手へ回ると──そこには青い花畑が広がっていた。

ネモフィラの花畑は、まるで海のようだ。


「ここはね、昔アルヴィスの遊び場だったの」


太陽が当たる場所には、木のブランコが風に揺れていた。

子ども用の小屋もあり、古さを感じさせるが、きちんと手入れはされているようだ。



「アルヴィスはこの花が好きなのよ。毎年、本人の希望で植えているの」

ここでネモフィラが見れるとは嬉しい。男爵領にも群生している、シイラも好きな花だ。

目を閉じると、どこか遠くで同じような光景を見たことがあるような気がした。



「あなたはきっと、この花が好きだろうと思っていました」


振り向くと、着替えを済ませたアルヴィスが立っていた。

さっきの騎士の姿ではなく、金の刺繍が入った黒のスーツ姿は、凛とした雰囲気で……やはり彼は威厳のある“侯爵”の位につく貴族なのだというのを感じた。



彼は花を一房摘むと、そっとシイラの髪に挿した。


「可憐で愛らしいあなたに、よく似合う」


やさしく垂れる瞳はアメジストのように綺麗で、吸い込まれそうになる。



(……あれ?)

瞳に映る青い花を見ると、何かが記憶を掠めた。

けれどそれはすぐ白い靄となり──その正体を掴めない。

それを見透かしたように、アルヴィスはクスリと笑う。


「さあ、ここで二人きりで愛を語……」

「仕事の話をしますよ」

ドロテアが即座に遮ると、アルヴィスは首根っこを掴まれて、引きずられていった。



(あの威厳のある空気はどこ行った……)

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