エピローグ 誕生! 中二病探偵!
◇
その後、俺たちは『犯人』である子犬を、交番へ連れていった。
捨て犬や迷い犬を保護した時には、警察に届けるのがルールなんだ、と彩さんがスマホで調べてくれたからだ。
「子犬が母親を求める声は、人間のすすり泣く声に似ていることもあるって言うからね。きっと昼間は食べ物を探しに公園をうろうろして、夜になると安全な寝床で過ごしていたのではないかな」
やたら犬の生態に詳しいおまわりさんがそう教えてくれた。
そして明日は交番で保護して、飼い主が見つからなければ保健所に移されるそうだ。
「子犬は引き取り手が見つかりやすいから、きっと優しい飼い主さんと巡りあえるよ。さあ、今日はもう遅い。ご両親も心配しているだろうから、早く帰りなさい」
そう促されて、俺たちは交番を出た。
最後まで子犬が物悲しそうに俺を見つめていたので後ろ髪を引かれる思いだ。
でも、できることはやったんだから、あとはおまわりさんに任せよう。
心を鬼にして、俺はその場を後にしたのだった。
◇
帰り道の途中で、彩さんとシメジさんの二人とは別れることになった。
「じゃあ、私たちはここで! 気をつけて帰るのよ!」
「君たちは素質がある。特にクリストファー・ユウキ。俺は君に感動した。是非、このまま生物部に……」
――スッコーン!
「あんたはまだ言うか! さあ、行くよ!」
「おい、待て! 粘菌の伝道師として伝えねばならぬことは山ほど……。いててっ! 耳を引っ張るな!」
最後の最後まで二人は仲良しなのか、仲が悪いのか、よく分からないまま行ってしまった。
でも、なんだかうらやましい。
俺もいつか佳鈴と、ああやって近い距離で会話することができるのだろうか。
いや、それはなさそうだ。
なぜなら俺の『中二病』を目の当たりにして、ドン引きしちゃっただろうから……。
その証に彼女は何もしゃべりかけてこない。
はあ……。もう嫌われちゃったのかな……。
そんなことを考えながら、佳鈴と並んで歩いていった。
「あ、私の家、すぐそこだから。ここでバイバイだね」
「え、あ、うん」
佳鈴が立ち止まって手を振る。
俺は小さく手を振った後、先を行こうと佳鈴から視線をそらした。
……と、次の瞬間だった。
信じられないことが起こったのである。
――タタタッ!
軽い駆け足の音が聞こえたかと思うと、頬に柔らかくて熱い感触が襲ってきたのだ。
――チュッ!
「え……?」
ちらりと視線を向けると、目をつむった佳鈴の顔で視界がうまる。
それは考えるまでもなく、佳鈴が俺のほっぺにキスをして瞬間だった――。
ほんの一瞬のことかもしれないが、俺には永遠に感じられた。
ふわふわとした幸せな気持ちに包まれたところで、ゆっくりと俺から離れた佳鈴は、顔を真っ赤に染めた。
「……かっこよかったよ。裕輝くん」
それだけ言い残して、彼女は自宅の方へ一目散に走り去ってしまった。
放心状態の俺は、彼女の背中が見えなくなってからも、しばらく立ちつくしていた。
そうして時間とともに腹の底から興奮がわきあがってくるのを抑えきれなくなっていったんだ。
「ひゃっほう!!」
高々と右手をあげながらジャンプをした俺は、固く決意した。
佳鈴のためにこれからも『ヒーロー』でいよう、と。
今思えば、ここからだったと思う。
俺が『中二病探偵』としてスタートを切ったのは……。
夜空に綺麗な三日月が輝く下で、俺は風となって帰路を急いだのだった――。
(了)
最後までお付き合いいただき、まことにありがとうございました!
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