事後処理と初期設定
王都を去る夜。
夜風が頬を撫でた。
追放に家族との絶縁…普通なら絶望に打ちひしがれる場面だが、私の脳内メモリに“悲嘆”というデータは存在しないようだ。
[ステータス確認:婚約破棄により王宮内での権限が95%消失…問題ありません。不要なプロセスが終了し、メモリが軽量化されました]
私は身につけていたドレスや宝石を売り、軽装にして馬車を借りることにした。
(…手元に残すのは、私の個人資産である現金のみ。これこそが最も汎用性の高いインターフェースです)
馬車に揺られながら、今後のことを考える。
(最短ルートを計算…完了。移動中に今後の生存戦略を構築します)
[検索中……ヒット:[ドロシア領]。状態:最悪。負債:多大。治安:劣悪…ここを“サーバー拠点”に設定します]
すると、急に馬車が止まった。
私が小窓から確認すると、そこにいたのは泥だらけになりながら馬車を追ってきた私に長年仕えていた侍女のアナとリーネだった。
[判定:侍女のアナ及びリーネ。親密度レベル:最高]
先程、公爵邸では姿を見なかった。
外へ出ていたのか、屋敷について事情を聞いて急いで駆けつけたのだろう。
このままでも埒が明かないため、私は馬車の外に出た。
私の姿を見つけた二人は私へと駆け寄る。
「エ、エルザ様… どこへ行かれるのですか! 王子との婚約はどうなったのですか?」
「…エルザ様!私たちも連れて行ってください…!旦那様が何と言おうと私たちの主様はあなただけです…!」
心配そうなアナと泣きじゃくるリーネ。
転生前の私もまた彼女たちを特別に想っていたのだろう。
私は胸がきゅうっと苦しくなった。
しかし…。
[判定:侍女たちの混乱レベルが高い。同行させた場合、管理コストが利益を上回ると予測。単純行動を選択します]
私は拳を握りしめると、彼女たちを見つめ、私は感情を排した声で告げた。
「…アルベルト王子とは契約解除しました。これより私はドロシア領へと移動し、環境の再構築を開始します。…現在の私はあなたたちを雇用する法的権限も給与支払能力もありません」
「エルザ様…っ!?そんな、お一人で行かれるなんて…!」
「…泣くのは非効率です。水分が失われるだけです」
私は冷たく言い放ち、馬車の扉を閉めた。
(これで彼女たちの生存確率は85%まで上昇。私の管理コストも削減されました…ですが、胸部中央のプロセッサに微かなノイズ……無視します)
馬車を出してもらう。
彼女たちが私の名前を叫ぶ。
その声に後ろ髪を引かれる。
…それでも、ただ彼女たちの幸せを願う。
今の私にできることはこれで精一杯だった。




