幕間 システム崩壊の予兆
王宮のきらびやかな夜会でエルザを一方的に糾弾し、追放を言い渡した直後のバルコニーでアルベルトとリアナは寄り添っていた。
「見て、アルベルト。夜風がこんなに心地良いなんて…」
リアナが甘ったるい声で囁くが、アルベルトはエルザの言っていたことが気がかりなのか表情が暗いままだ。
彼女の手元では聖女の証とされる“光”が頼りなく明滅している。
そんなアルベルトに内心うんざりしながら、リアナは優しく声をかける。
「…あんな場所に行くんだもの。いなくなったも同然だわ。こんな清々しい日はないわよ」
「…そうか。そうだよな。ああ、全くだ。あいつはいつも私のやることに口を出してきた。あんなにうるさい女、王妃にふさわしくない…君の方が相応しい」
アルベルトは自分に言い聞かせるようにそう言えば、リアナに微笑んだ。
…いつもの調子に戻ったようだ。
この国は絶対王政。
しかし、長きに渡る利権による婚約や商談、そして、内政といったところの様々な交渉において王族や貴族の社会は腐り切り、あらゆるものが彼らの私腹を肥やすためだけのものとなっていた。
国民は貧しさに反乱を起こす気力や体力さえ奪われ、その日の生活を考えることだけで精一杯。
また、反発する者を厳しく罰することで見せしめとしている。
外交の一環として他の国への見映えが良いために貴族たちが慈善活動を行うこともあったため、それが逆に国民の不満を落ち着かせるガス抜きのような役割を果たしてしまったのも皮肉な話である。
そして、現在の王はアルベルトを溺愛していた。
…彼の提案を何でも受け入れてしまうほどに。
彼を手に入れることは国を好きにできることと同義。
リアナはアルベルトの言葉に満足気に微笑んだ。
「これからは私の直感と君の聖なる力でこの国を導くんだ。まずは、あいつが却下し続けた私の肖像を刻んだ巨大な黄金像を広場に建てよう!」
「まあ、素敵! 私も聖女の祈りを捧げるための新しい神殿が欲しいわ。エルザ様が維持費がかかると言って壊してしまったあのダイヤモンドを散りばめた噴水も復活させましょう?」
意気揚々と言うアルベルトにリアナはうっとりとしながら、自分のおねだりまで加えた。
後に、この黄金像の建設コストによる増税により民衆の不満度が大幅に上昇することになる。
また、噴水の維持費により騎士団の給与が30%カットされたことで誇り高い騎士達の間でも反発が置き、更に国への不信は強まったことは言うまでもない。
そうなるなんて知らない二人はそれだけでは飽き足らず、さらなる提案をする。
「リアナ、君が提案してくれた“聖女印の開運パン”。あれを全領地に高く売りつければ、国庫の金なんてすぐに倍になるんじゃないか?」
「名案だわ!聖女の光をちょっと当てるだけで…ただのパンが“奇跡のパン”に早変わりだものね」
彼らにとって、自分たちの私腹を肥やすことを優先するのはこの腐った貴族社会では当たり前のようだ。
「ああ、清々した!これでようやく私の思い通りの自由な政治ができるぞ!」
アルベルトは高笑いをした。
夜空の月だけがただ静かにその様子を見ていた。




