産業革命 1.0
あの黒鉄銀の採掘開始から数ヶ月ーーードロテア領は目を瞠る速さで発展を遂げた。
もはや静かな辺境の村の面影はそこにない。
エルザの脳内から出力された高効率高炉の設計図に基づき、領地の一角には巨大な煙突がそびえ立ち、規則正しい金属音が大地を揺らす。
そして、今日ーーー。
「エルザ様!第一バッチの精錬完了しました!不純物混入率0.001%以下…計算通りです!」
アナが煤にまみれながら、輝く黒鉄銀のインゴットをエルザに掲げた。
エルザはそれを見て微笑む。
「当然です。温度管理を0.1度単位で手動制御させた成果ですから」
エルザは頷き、次に隣で巨大なハンマーを振るう領民の若い男達に視線を向ける。
彼らはエルザが設計した動力アシスト付き鍛造機のテストを行っている最中だ。
その指示を行っているのはジャン。
その腰にはいつもの彼の愛剣ではなく、見慣れない剣を携えていた。
エルザはそれに気付き、声をかける。
「…新しい剣はどうです?」
「ああ、お嬢さん。…信じられねえよ。この黒鉄銀の剣、前の愛剣よりも軽いのに岩を叩き切っても刃こぼれ一つしない。それどころか柄の装飾、握り心地や感覚に何一つ違和感さえない…」
ジャンがその刀身を抜けば、その黒鉄銀の剣は陽光を吸い込むような深い闇の色をしていた。
エルザは微笑む。
「当たり前です。あなたのためだけに計算したのですから」
「…俺のためだけにって…。ここまで俺のことを理解して頂いてるなんて夢にも思わなかったよ」
エルザの言葉にジャンは少し照れくさそうに頬をかいた。
エルザはそんなジャンの様子には目もくれず、ジャンをスキャンする。
[ステータス:ジャン(物理デバッガー)。装備アップデート完了]
[攻撃力:255%上昇。物理演算による『無双モード』への移行を許可します]
エルザは満足したように頷いた。
「実は武器はあくまで副産物で、本命はこちらです」
エルザが指さしたのは新設された工場の中心に鎮座する蒸気を吐き出す巨大な機械群“自動化旋盤”と“高圧ポンプ”だ。
「リーネ。これらを領内の水路に接続し起動してください。人力による水汲みという無駄なプロセスをすべてバックグラウンド処理に移行させます」
「はい!これで領民の皆さんはもっと他の仕事に集中できますね」
…ドロテア領の景色が変わったのはここだけではない。
かつての石ころだらけの痩せた土地には蒸気機関で動く黒鉄銀製のトラクターが走り回り、金色の海が風に吹かれてさざ波のように作物を揺らす。
夜には黒鉄銀の街灯が街を白日のように照らし始める。
領民が嬉々として話す。
「見ろ…!こんなに太った穂は見たことがない!本当にエルザ様の計算通りだ!」
「なんでもエルザ様は土の味で土が何を欲しているか分かったらしい…まさに大地の女神の化身ではないか!?」
収穫にわく領民たちはもはやエルザを単なる領主として見ている者はいない。
彼女が通りかかるたびに人々は農具を置き、まるで神を拝むかのように深く頭を垂れる。
[住民ステータス:熱狂的な崇拝に固定]
[ログ:エルザが“土を舐めた”という事実が“大地の声を聞く儀式”として伝説化しています]
そんな中、エルザは聞こえてきた声に溜め息をつく。
「…土を舐めたのはそれが最も高速な入力デバイスだったからに過ぎません…」
エルザの言葉に控えるジャンは吹き出す。
「ははっ!あの状態からすれば、この光景は奇跡だろうからな」
エルザはジャンの言葉に不服そうな表情である。
エルザは収穫量が前年比450%増になるだろうことを確認しながら、領民を“解析不能なエラー”として処理し続ける。
[領地ステータス:文明レベルが100年分スキップされました]
[生産効率:600%向上…これより、外部からの『不正アクセス』に対する警戒レベルを最大に引き上げます]




