サーバー維持費の確保
「そろそろ国家予算の恒久的確保。そして、ドロテア領というハードウェアの性能を根本から書き換えるための“素材”を回収します」
いきなりそう告げたエルザは領地の中心にある枯れ果てた巨大な廃坑へとジャンとアナとリーネを連れて向かった。
かつては銀が採掘されていたというこの場所は今やコウモリの巣窟と化し、入り口には“立ち入り禁止”の看板が腐り落ちている。
「…領民の話によれば、ここは何百年前に掘り尽くされた“死んだ山”だとさ…お嬢さんはこんなところで今更、何をする?」
ジャンはにやりとしてエルザにそう尋ねた。
それは素朴な疑問というよりはエルザが今度は何をするのか期待しているかのようだった。
そんなジャンを横目にエルザは地面に膝をついて右手の指先で地面に触れた。
「…ジャン、先人の探索アルゴリズムはあまりに低性能でした。彼らは表面の銀をさらっただけで満足し、その深層に眠る“高密度の工業資源”に気づかなかったのです」
「…高密度の工業資源?」
エルザは立ち上がり、廃坑の奥にある鈍い色をした分厚い岩壁を指差した。
そして、ジャンに静かに告げる。
「ジャン。座標(X:702, Y:115)の一点に物理的な衝撃を加えてください。一点に全エネルギーを集中させ、岩盤の脆弱性を突くのです」
「…あそこか。相当硬そうだが…お嬢さんの計算通りにやりますとも」
ジャンが外套を脱ぎ捨て、愛剣を鞘ごと構える。
元騎士団副団長としての精密な筋力制御。
彼はエルザの指定した座標を寸分違わず撃ち抜いた。
ドォォォォン!!
空気が震えるほどの衝撃音。
砕け散った岩石の向こうから光り輝く宝石ーーーではなく、鈍い銀灰色をした“未知の金属鉱脈”が姿を現した。
アナとリーネが息を呑む。
「…っ!宝石ではなさそうですね…でも、なんだかすごく重厚な感じがします…」
「銀にしては色が濃いわ…これは?」
皆が“それ”を見つめる中、エルザはしっかりとその名を告げた。
「黒鉄銀」
その鉱物の名前を聞いてもぴんとこなさそうなアナとリーネ。
エルザはそのまま博士のように説明を続けた。
「従来の鉄の10倍の強度と既存の触媒を凌駕する反応速度を両立させる高硬度の超工業素材。…宝石のような“見せかけの資産”は不要です。これはこの領地の生産性を底上げするための“最強の部品”になります」
エルザは鈍く光る黒鉄銀を見つめる。
そして、次の作業に取り掛かる時間が惜しいとでも言うように淡々と次のコマンドを発行した。
「アナ、リーネ。直ちに領内の職人たちにこの素材を配布し、私の設計した“新型蒸気ポンプ”と“高強度農具”の製造ラインを構築してください。これでドロテア領の物理的な演算能力……つまり、インフラの処理速度を500%引き上げます」
「はいっ、エルザ様!」
「すぐに取り掛かります!」
エルザはジャンを向く。
エルザと不意に目が合う形になったジャンは少し目を丸くした。
「ジャン。あなたはこの戦略物資を狙う外部のウイルスどもをすべて物理的に削除してください。そうすれば、いずれ…この金属で作った“新型”の剣をあなたにインストールしましょう」
ジャンは先程の衝撃で足元に転がってきた黒鉄銀を拾い上げた。
その冷たい感触を確かめるように手の平で転がし、指先でなぞる。
そして、不敵に笑う。
「…さて、果たして俺の愛剣に敵う剣ができるか否か…楽しみにしていますよ」
「ええ、あなたの仕事ぶりは評価対象です。期待は裏切りませんよ」
エルザは静かに微笑んだ。
黒鉄銀の冷徹な輝きを背に、エルザは次なる産業革命の実行にうつることにした。




