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転生悪役令嬢もAIの時代です!  作者: 初摘みミント


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16/17

農業パッチ適用


次の日。

農地へと出向いたエルザ一向と久しぶりにまともな食事にありつけてエルザを少しは信用した領民たちの姿がそこにはあった。


「エルザ様…本当にこの指示通りに進めるのですか?」


アナが困惑した表情で、エルザが前の日に出力(筆写)した数百枚に及ぶ図面を見つめていた。

そこには複雑な歯車を組み合わせた謎の農具や幾何学的に配置された水路の設計図が並んでいる。


「ええ。現在の農法はあまりにも“無作為(ランダム)”すぎます。ただ種を蒔いて神に祈るのは乱数に頼るだけの非効率なプログラムです。我々は収穫という結果を確定(コンパイル)させます」


エルザは目の前の泥のぬかるむ耕作地へ向かう。

そこでは上半身の衣服を脱ぎ捨て、アナとリーネが目のやり場に困る程の逞しい肉体を晒したジャンが他の領民たちと巨大な岩を軽々と運び出していた。


「ジャン、その岩は北西の42.5度の位置へ。それが風除けの“物理的な壁(ファイヤーウォール)”となり、微気候を安定させます」

「…よく分からんが、お嬢さんの計算ならそうなんだろう。よし、皆!次はこっちに動かすぞ」


ジャンのリーダーシップにより領民たちは統率がとれていた。

食事がとれていたのも底力が出るきっかけになったのかもしれない。

本来ならもっと時間がかかるであろう開墾も的確な指示と統率のとれた行動のおかげで速やかに完了されそうだ。

その一方で老農夫が泥にまみれながら、おずおずと話しかける。


「エルザ様。そんなことをしても…この土地は呪われているのです。何を植えても芽吹かず、石ころばかりが目立つ死んだ土で…」


しかし、エルザはその言葉を根拠のないノイズとして処理し、話の途中で割り込んだ。

そもそもこの場所にはノウハウがないのだ。


「まずは、これより従来の種子に“遺伝子レベルの最適化(選別)”を施します」

「…?種はどれも同じですよ」

「いいえ。まず、見た目で形が整っていて、ふっくらと大きいものを選びます。そして、指先にのせてみて、スカスカしておらず、中身が詰まっている感覚があるものを…」


そう言いながら、エルザは山積みの種子を一瞥し、電磁石のように正確な手つきで一握りの“黄金の種”だけを選別した。


「これが最も適した“高効率モジュール”です。これを私の設計した“深層植栽ルート”で埋めてください」


水を使った選別方法もあるのだが、まだ水路の整備も水の浄化作業もできていない。

そこはそのうち教えていくことにしながら、エルザは無造作にしゃがみ込んだ。

そして。


「きゃあっ!?」

「エ、エルザ様っ!?」


周囲がどよめき、アナとリーネは悲鳴をあげて駆け寄ってきた。

それもそのはず。

エルザは一掴みの土を掬い上げると、躊躇なくその指先をぺろりと舐めたのだ。


「お嬢様、何てことを!?大丈夫ですか!?」

「そうです!毒素が含まれている可能性を計算に入れてください!」


アナとリーネが心配そうな視線でエルザを見つめるが、エルザは静かに手を挙げて制した。


[システム:土壌サンプルを直接解析(ダイレクトスキャン)中……]

[土壌スキャン:完了]

[成分特定:窒素 0.02%、リン酸 0.01%、カリウム 0.01%……著しい欠乏を確認]

[エラー検知:pH値が極端な酸性に偏っています。これでは根が腐敗します]

[解決策:領内から廃棄される有機物(生ゴミ・排泄物)の高速発酵による“肥料パッチ”の生成]


「……ひどい栄養バランス(スパゲッティコード)ですね。これでは作物が正常に実行(成長)されるはずがありません」


エルザは傍らで呆然としていたジャンを見上げた。


「ジャン、セキュリティ・タスクを一時中断してください。物理的な石灰岩の粉砕が必要です。近隣の山から採取した岩を粒子サイズ0.5ミリ以下にまでダウンサイジングしてください」

「…俺に拒否権はなさそうだ。任せろ。どうにかしてみよう」


ジャンが呆れながらもアナに残りの作業についての領民への指示を言伝していけば、エルザはリーネに奇妙な調合リストを言伝した。


「リーネ。排泄物と枯れ葉を私が指定する比率で混合(コンパイル)し、土壌に流し込んでください。これは“インストール・ベース”となる栄養素です。その後、雑草という名のマルウェアが繁殖する前に作物の成長速度をオーバークロックさせます」

「は、はいっ! 」


その数週間後。

エルザの目論見通りドロシア領農地は見違える程の景色が広がっていた。

芽が出るはずのないと言われた畑は鮮やかな緑に染まっている。

しかも、その成長速度は異常だった。

まるで時間が倍速再生(スキップ)されているかのように。

作物は茎も太く、逞しく育っている。


[ステータス:農作物の成長率 300% 達成]

[予測:収穫量による倉庫(ストレージ)不足を検知]


「エルザ様!見てください!水路が…水が透き通っています!」


アナが嬉しそうに叫んだ。

エルザが設置させた石と炭による“フィルタ”が泥水を清流へと変換し、驚くことに魚まで戻ってきていた。

まだまだ拡張途中だが、そのうち水路も今以上に整備されていく予定だ。


「…当然です。循環システム(エコサイクル)を正常化したまでです」


エルザは農作業をする領民たちに目を向けた。

少し前までの絶望しか知らない暗い表情とは違い、その表情は希望を感じているのか明るい。

新しい生命の誕生とそれを自らの手で育てることへの喜びに満ちている。

その数ヶ月後。

ドロテア領には奇跡の光景が広がる。

かつての石ころだらけだった荒れ地は風に揺れる金色の海へと変貌を遂げるのだが、これはまだあと少し先のお話。


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