領主館の強制復元
「ジャン、周囲の安全を確認。次に、この破損した屋敷の修復を開始します」
エルザは瓦礫の山となったロビーの中央に立ち、一周見渡した。
(領主館構造スキャン…。主要構造材である柱・梁の劣化率を算出。…最適解。腐朽した表層を削り落とし、残存した芯材を物理的に補強することで、強度は150%まで回復可能です)
エルザは即座に指示を出す。
「ジャン、指示した座標の梁を持ち上げ、垂直に固定してください。あなたのSランクの筋力なら、ジャッキ等の重機は不要です。アナ、リーネ、あなたたちは瓦礫の中から“再利用可能オブジェクト”を選別し、材質ごとに分類してください」
「はい!」
「よし、きた。お嬢さん、この柱を…ここだな!」
ジャンがかつて戦場で発揮していたかのような集中力と衰えさせることなく磨き上げた筋肉で巨木を軽々と持ち上げる。
エルザの指定するミリ単位の座標へと吸い込まれるように梁が嵌まっていく。
その光景は建設現場というよりは、巨大な精密機械を組み立てる工場のようだった。
「アナ、リーネ。洗浄した石材に私が調合した“速乾性定着剤(セメント代わりの泥と石灰の混合物)”を塗布。接着面は水平から誤差1度以内でお願いします」
「は、はいっ!洗浄して塗布ですね!」
「不思議…!エルザ様の計算通りに積むとあんなに重い石が磁石みたいに安定します…!」
エルザは“修復進捗率”を確認しながら、自らも持参した羽ペンを走らせ、腐食した配管のバイパス経路を設計していく。
(……非効率な装飾を排除。導線を最短距離に再構築。断熱効率を高めるため、壁内に空気層を設けます。…よし、一括処理を開始します)
数時間後。
かつての廃墟だったそこは少なくとも“機能を維持し、生活を保証する”ための強固な拠点へと変貌を遂げていた。
決して豪華な装飾はないが、垂直と水平が完璧に保たれたその造形は見る者に圧倒的な美的センスと安心感を与える仕上がりだった。
「…未だに信じられないな。三日はかかると思っていた作業が日没前に終わるとは…。お嬢さんの頭の中はどうなってるんだ?」
ジャンが汗を拭いながら、歪み一つない天井を見上げる。
アナとリーネはエルザの指示をやり切ったと言った具合に微笑んで手を握り合って喜んでいた。
エルザは澄ましたまま答えた。
「当然です。無駄な試行錯誤を排除し、並列処理を最適化した結果です」
エルザは埃一つない執務机に座り、領地全体の地図を見た。
「シェルターの確保は完了。…次は、この領地に棲みつく“腐敗した制度と飢餓”をデバッグします。ジャン、現存する農具のスペックを確認。アナ、リーネ、周辺住民の人口統計調査の準備を」
「…休憩なしか?」
「「はい、エルザ様!」」
さすがの力仕事で疲れた様子のジャンと主からの命令が生きがいのように喜ぶアナとリーネを横目にエルザは廃墟から“司令部”へとアップデートされた館の中で、次のコマンドを入力するように机をトントンと指先で叩いた。




