メインサーバーの確保
荒れ果てた領主館。
そこはもはや廃墟に等しく、吹き抜ける風が建物の軋み音を運んでくる。
ジャンですら、その惨状に絶望の色を隠せず、苦々しく吐き捨てた。
「…呪われた土地とは聞いていたが…お嬢さん、ここを本拠地にするのは難しいんじゃないか?」
しかし、エルザは一切動じず、崩れかけた館の入り口に立った。
その瞳の奥では淡い光と共に膨大なデータが流動している。
(領主館スキャン完了…構造的欠陥を多数検知。修復コストを計算中。…まずは執務室の確保を優先。続いて居住エリアのデフラグをーーー)
「エルザ様っ!!」
突如、背後から響いたのは聞き覚えのある声と馬の鳴き声だった。
振り返ると、そこには泥まみれでボロボロになりながらもエルザに駆け寄ってくるアナとリーネがいた。
「アナ、リーネ?…なぜここに?王都で生活を確保するよう命じたはずです。私の命令に背くのは重大なエラーです…」
二人の様子に何故だか胸が締め付けられる想いになりながら、エルザは言った。
「…エルザ様…!私たちを突き放そうなんて、そうはいきませんから!」
「そうです!エルザ様のいない王都の暮らしなんて願い下げです」
二人は震える手でエルザの手をとった。
二人の瞳からは宝石のような涙が次から次へと溢れてくる。
「エルザ様のいない世界で生きるより、エルザ様の隣で苦労するほうが…私たちにとって幸せなんです」
「私たちの居場所はエルザ様のお側です。私たちにもエルザ様の背負っているものを分けてくれませんか?」
エルザの演算が一瞬だけ停止した。
なんだか二人の言葉にぐっと何かが込み上げてくる。
(…理解不能。私の計算では彼女たちがここに来るメリットは0.1%以下。生存確率は王都に留まる方が遥かに高い。…ですが、彼女たちの表情データから極めて強力な“情熱”を検出。論理を超えたエネルギーを観測しました)
エルザは一瞬だけ沈黙し、それから二人と傍らで不敵に剣を握り直したジャンを見た。
ジャンは微笑んで頷く。
そこで、エルザは観念した。
「…計算外の事態ですが、リソースが増える分には問題ありません。棄却する理由を削除します」
エルザは口角が上がるのが自分でもわかった。
それが何故なのかは分からないけれど。
「アナ、リーネ。あなたたちを“内政補佐”として再登録します。そしてジャンは“物理デバッグ”の準備を」
「……ああ。お嬢さんがそう言うなら、ここが俺の戦場だ。掃除なら任せておけ」
ジャンはウィンクする。
それにエルザは頷き、そして領主として指示をした。
「ジャン、周囲の不純物を排除してください。アナ、リーネ、館内のクリーンアップを開始します」




