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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0707:残していく姉弟

「どうだった?」


 イルクリスの部屋から少し離れたところで、メイレインが待っていた。恐らくはこれからイルクリスのもとに向かうのだろう。


「久しぶりに、本当に久しぶりに、ちゃんと声を聞けました」


「本当に?」


「えぇ。ちょっと泣きそうです」


 女性であるメイレインは時折イルクリスと話すことができているし会うこともできている。しかしアルヴィストは本当に会う事すらもできていなかったのだ。


 久しぶりに聞くことのできた弟の声に、アルヴィストは目頭が熱くなるのを止めることができなかった。


「姉上。僕がいない間……イルを……頼みます」


「えぇ。私たちがイルクリスを支えるわ。少しずつだけど、本当に少しずつだけど、あの子は立ち直りつつある。もう少しよ。もう少しで、アルヴィストもあの子と話ができるようになるわ」


 メイレインが少し背伸びをしてアルヴィストの頭をやさしく撫でる。子ども扱いされているようで、少し複雑な気持ちではあったが、その手を払うことはしなかった。


「あの子とちゃんと話せるようになるのも、そう遠いことじゃないわ。だから、もう少し頑張りなさい」


「……はい。頑張ります」


 兄として不甲斐ない姿は見せられない。イルクリスが万全の状態になるまで、アルヴィストは誇れる兄でいなければならない。


 ここで泣くわけにはいかないと、アルヴィストは胸を張る。


「王立学園から戻ってくるとき、イルが話ができる程度になっていればいいんですけどね」


「気が逸るのは仕方がないけれど、焦ってはいけないわ。こういうのは時間がかかるものだっていうもの」


「そうですね。姉上、女中たちを多く回しても構いません。リザベラの力を借りるのもいいでしょう。少しでも、イルの心を癒してあげてください」


「女の子に囲まれている生活っていうのは、あまり良いものとは言えないのだけれどね……あなたも学院に行ったらそうなるのでしょう?兄弟そろって女性に囲まれる生活とは、随分と楽しそうじゃない?」


「楽しさが一切感じられないんですがね……しばらくは情報整理とかでいろいろと困惑しそうです」


「そうでしょうね。しばらくは生活に慣れることを優先にしなさい。私も少し時間がかかったわ」


 メイレインの場合は学院に入って早々にテルンと出会えた。そのおかげでいろいろと助かる部分があったが、アルヴィストにはそれがない。なかなかつらいスタートになるだろうことは想像に難くなかった。


「あぁ、そうだ。一ついいことを教えておくわ」


「なんです?」


「王立学院のある街の一角。少し裏通りに行ったところに腕のいい武器屋があるわ。そこで自分の武器を作ってもらいなさい」


「武器ですか……一応剣はもってますけど?」


「きっとアルヴィストに似合いの武器を作ってくれるわ。私の剣もそこで作ってもらったの。腕は保証するわ」


 メイレインの剣。アルヴィストもあの剣はちゃんと見た。装飾もそうだが刀身も見事なものだった。武器としての強さというより美しさを感じさせるものだった。


 しかしそれでいて切れ味は抜群。メイレインのためにあつらえたと思えるほどに良く手に馴染んでいたのを覚えている。


 あれを彼女が振るったのを見たのは本当に数える程度だ。あれを最後に、アルヴィストはメイレインが剣を振るっているのを見たことはない。


 あの剣を造った鍛冶屋がそこにいる。その事実を聞いて興味を持つなというのは無理な話だった。


「私の弟っていえば、たぶんちゃんと請け負ってくれるわ。もしかしたら何も言わなくても気づくかもしれないけど」


「それはなかなか……あとで地図を教えてください」


「わかったわ。なかなか癖の強い、所謂職人気質の人だから、失礼のないようにね」


「姉上に言われるまでもありませんよ」


 自由奔放を地でいっていたメイレインに比べてアルヴィストはまともな方だ。あくまで比較的、という前置きがつくが。


「それと支払いはちょっと多いくらいにしてあげなさい。あんな腕のいい人はなかなかいないから」


「大絶賛ですね。でもどうして割り増しを?」


「その人商売があんまり得意じゃないというか、商売のために剣を作ってないというか……まぁそんな感じなの。だからちゃんと多めに支払ってあげなさい。そうしないとあの店、いつか潰れるわ」


「あぁ、そういう」


 きっとメイレインは足繁くその店に通って金を落としていたのだろう。


 逆に言えばこのメイレインがそれだけ気に入る職人がいるという事でもある。可能ならば王都に来て自分の部隊の武器も作ってもらいたいくらいである。


 遠征している時に無理にでも王立学院のある街によるべきだっただろうかと、今更ながらに少し後悔していた。


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