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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0708:良き友

「では行ってまいります」


「うむ。気をつけてな」


 アルヴィストたちを乗せた馬車は王立学院を目指して王都を出発した。


 これから新しい生活が始まる。とはいえ、馬車に乗るのも地味に久しぶりだった。最近はずっと直接馬に乗ってばかりだったために、どうにも感覚が鈍る。


 自分で馬を操作していた時の方が揺れを感じないように思うのは気のせいだろうか。そんなことを考えながら同じ馬車に乗るジスカル老とセレネイアの方をちらりと見る。


 二人は落ち着いたものだ。そもそもどこにいても二人の生活はあまり変わらないというのもあるのだろう。


 片や魔法の研究と訓練に。片やアルヴィストの世話や手伝いに。


 生活内容が変わるのがアルヴィストだけというのは少し肩身が狭い。そんなことを考えていると王都を出たあたりで唐突に馬車の扉がノックされる。


「なんだ?誰だ?」


 魔力感知を行えば、外に誰かがいるのはわかる。馬に乗っているようだが、御者が全く騒いでいないところを見ると知り合いだろうか。


 そんなことを考えているとノックの返事をするよりも早く馬車の扉が開いた。


「よ!アル!それとお二人さん」


「テルン!どうして?商会の仕事は?」


「なぁに、見送りだよ。しばらく会えなくなるからな。商会の仕事は腹が痛いっていってちょっと抜け出してきた」


 テルンは既にオーロックス商会の一員として働いていた。徐々にではあるがその仕事に慣れつつある。


 いくらアルヴィストの紹介とは言え、いきなり気球に接触させるのはあまりにも性急すぎる。それはオーロックス商会の面々とも相談した結果だ。


 少しずつ商会で働いていたという実績を作り、それから気球に関わらせるという話だった。


「仕事さぼってこんなところまで来て……ボーギンに怒られるよ?」


「好きに怒らせときゃいいんだよ。仕事なんていつだってできる。でもお前らを見送るのは今しかできない。そうだろ?」


 テルンは笑って手を差し出してアルヴィストと、そしてセレネイアと、ジスカル老と握手をしていく。


 快活な笑みを浮かべる彼の声音はいつだって明るくて頼もしい。無遠慮にやってきてくれる季節の変わり目を告げる突風のような彼の存在は、アルヴィストにとって何よりも得難いものだった。


「学院に行ったらリカルドさんに礼言っておいてくれ。あの人のおかげでいろいろと助かったしな」


「伝えておくよ。リカルドもきっと喜ぶ」


 アルヴィストとテルンは互いの目を見た後、互いに何も言わずに硬く、強く抱擁を交わしていた。


 これが今生の別れになるかもしれない。


 互いに口には出さない。だが、それを両者ともにわかっていた。わかっていたからこそ、それ以上何も言わなかった。


 そして互いにどちらが先というわけもなく、不思議と、ほぼ同時に二人は離れる。


「貴族のボンボン共が絡んできても蹴散らしてやれよ。お前はメイレの弟なんだ。腑抜けた態度とってたらあいつが残した伝説に傷がつくぜ!」


 テルンは馬車の隣を並走させていた馬に飛び乗る。


 別れは告げた。これで十分。涙も互いを称える言葉もいらない。


 ただ、テルンは笑って叫ぶ。


「またなアル!次会うときには彼女の一人でも紹介しろよな!」


「余計なお世話だよ!またね!テルン!」


 少しずつ離れていくテルンに向かってアルヴィストも叫ぶ。


 もう二度と会えないかもしれない。テルンはそういう道を選んだ。アルヴィストがそういう道を選ばせてしまった。


 姿が遠くなり、どんどんと小さくなっていき、やがて見えなくなるまで、アルヴィストは馬車の扉を開けたまま、その姿を目で追っていた。


「殿下」


「………………うん、ごめん。もう閉めるよ」


 アルヴィストは馬車の扉を閉めて、深く座り込む。


 決して、長く共に過ごしたわけではなかった。だが、アルヴィストはテルンに強く深い友情を感じていた。


 それはテルンもまた同じだ。


 立場も生まれも、考え方も何もかも違う。性格も好きなものも経験も異なる二人だが、互いが互いを無二の友人といえるほどに慕っていた。


 互いに涙を見せるつもりはなかった。男同士、相手に見くびられたくなかったというのもある。


 意地のようなものだ。だから、馬車に戻った時、アルヴィストの目からは自然に涙がこぼれ落ちていた。


「殿下は、本当に良い友を見つけられましたな」


「…………違うよ。テルンが僕を見つけたんだ」


 始まりからそうだった。アルヴィストがテルンを見つけたのではない。テルンがアルヴィストを見つけたのだ。


 あの時の出会いを今でも覚えている。あの街での出会いを今でも覚えている。


 ともに屋根の上を駆けたことを、ともに山を越えたことを、ともに聖都へ向かったことを。


 アルヴィストはテルンの無事をただ祈っていた。そしてまた、再びテルンと会えることを強く願っていた。


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