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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0697:面倒くささは類を見ない

「貴国の西方、国境が崩壊したというのが事実であるなら……もし私が帝国の立場なら、それを理由に介入すると思います。その動きはありますか?」


「私も同様の考えです。しかしそれらしい動きは一切ありません。西方にとどまらず、東方の鏡砦付近でも、大きな変化は確認できないのが現状です」


 乱れた他国の治安維持を理由に軍を派遣。そしてそのまま実効支配というのが最も合理的な領地拡張の手段だと考えていただけに、それが目的ではないのが違和感をさらに強くしていた。


 もっと言えば、領地拡張を目的とするのであればわざわざエカンダ皇国を目的としなくとも、ヒルデ協議国の領地を根こそぎ自分たちのものにしてしまえばいいのだ。


 それをしていない時点で、帝国の目的は本当の意味でヒルデ協議国を滅ぼすことだけだったのではと推察できる。


 東側の鏡砦の周辺を攻めて混乱を巻き起こすかとも考えたがそういうわけでもないのだという。


「現在我々は帝国の情報を仕入れるべく、鏡砦に赴任している将軍に協力を要請し、帝国の内情を伝えてもらうよう働きかけています。幸いにして、あの鏡砦の将軍同士は互いに交流をする程度の仲ではありますので」


「そうなのですか。睨み合いをしているものですから、てっきり完全な敵同士かと思っていたのですが……」


「そのあたりはいろいろと事情があったのでしょう。私も詳しくは存じ上げませんが……しかし帝国の大きな動きとして、我が国を害する目的を感じ取れないのが実情です。今のところは」


 今のところは。


 それはつまり、今後はどうなるかわからないという事でもある。


 難民の混乱がどこまで広がるかわからない。もしこの混乱がエカンダ皇国全土にまで亘った時、帝国がどのように動くのかは予想できないのだ。


「やはり帝国への調査は必要不可欠でしょうか……?」


 帝国の内情を知らないと、現状では対帝国のことを考えるにはあまりにも情報が欠落しすぎている。


 多少強引な手段を講じてでも情報を収集しようとしていたアルヴィストの考えも理解できるところだった。


「ミーザ嬢は、帝国の方へ足を延ばすおつもりがあるのですか?」


「可能ならばやりたいところですが……残念ながら私にはその方法がありません。伝手も何も……帝国へ向かう方法すら」


 帝国へのルートは二つ。鏡砦を越えるか、ヒルデ協議国を越えるか。


 現状ではどちらも物理的に不可能な状態になってしまっている。


「我が国としても頭の痛い問題です。帝国の情報を知りたいのに、その糸口しかない状態なのですから」


 糸口というのは先ほど言っていた鏡砦の件なのだろう。互いに国境で睨み合う仲とはいえ、その砦を護っている互いの将軍がそこまで険悪な仲ではないというのは外交的には素晴らしいことといえる。


「しかし帝国ではないと考えたとして……貴国の中にそのようなことをする者がいるとも考えられません。となると、私の祖国か……あるいはイルス王国か……」


 この二つはシータにとって祖国であり大恩のある国。そのどちらかがエカンダ皇国を混乱に陥れているとは考えたくない。


 もっとも、協議国は存在していた時から迷惑をかけていたために今更という部分はあるのだが。


「……これも、私個人の考えと思っていただきたいのですが、私は、我が国の中の何者かがこの状況を引き起こしているのでは……と考えています」


「え……?そ、そんなことあるはずが……」


「ミーザ嬢もご存じの通り、我が国は今まさに次代の皇帝を決めるための選挙の真っ最中です。擁立する王子殿下が異なる貴族同士が反目し合い、互いに策謀を巡らせているのが現状です」


「……それは知っていますが……まさか、それが原因であると?」


「結果的にそうなったのか、あるいはもっと大きな視野で何かをしようとしているのか……どちらなのかはわかりませんが……この選挙では、あまりにも妨害や失態が多すぎる気がするのです。ただどちらを支持するかを記載してそれを集計するだけなのですよ?だというのに、ただそれだけのことにもう何度年を越したでしょう?」


 ただそれだけ。口で言うのは確かに簡単だが、それがどれだけ困難なことかこの側近はわかっていない。

 そして前世で所謂発展途上国で生まれたシータもその困難さを理解できていない。


 不正をなくし、偽証をなくし、なおかつ得票数は全国民。この困難さを全く理解できていない。


 王子の側近である彼は、不正防止の観点から投票の現状を確認することができない。そのために現場で何が起きているのかが分からないのだ。


 シータはもちろん選挙などというものに関わったことがないために何をするのかすらちゃんと理解していない。


 この二人の間での選挙というものの共通認識は『国民に誰かを選んでもらって集計したものを数えるだけ』というものなのだ。


 実際間違っていないだけに否定できないところではあるのだが、それがいかに困難で面倒くさいものなのかをこの二人は理解できないのだ。


 しかし二人の中でそこまで難しくないものであるという認識が共通になっている今、それが何年にもわたって続くということは異常事態であると捉えられても仕方がなかった。


「選挙そのものを妨害しているものがいて……この国を機能不全に陥らせようとしている……という事ですか?」


「それだけならばよいです。難民たちの動きを扇動し、この国の生産能力や領地としての機能すらも奪おうとしているものがいる可能性があるのです」


「それをこの国のものが行うと?それはさすがに……」


 まだ選挙の妨害をしているというのであればわかる。貴族というものは自分たちの権益を守ろうとするものだ。


 他の貴族の足を引っ張るだけならばまだ理解もできる。しかし国の動きそのものを機能不全に陥らせようとするのは度が過ぎている。


 シータとしてもそのようなものがいるとは考えにくかった。


「中にはいるのですよ。これは我が国の恥とも言うべきものなのでしょうが……例えば、皇帝陛下にとって代わろうとするような者も」


「そんな……!馬鹿なことが……!?」


 あるはずがない。あるはずがないとシータとしては言いたかったが、それを口に出すことはできなかった。


 確かに国の頂点として存在している王族というものは絶対的な存在ではある。しかしそれは国の中だけ。その国が亡んだり、形を変えてしまえば王という形ではなくなる可能性だって十分にあり得る。


 ヒルデ協議国の在り方がまさにそれだった。かつては多く存在していた小国は、一つの国となり、小国の王たちは貴族と名を変えて存在していた。



 そして貴族というものは決して一枚岩ではなく、全員が全員王族や皇族に忠誠を誓っているというわけではないのだ。


 中には虎視眈々とその玉座を狙っている者もいるだろう。それはかつてのヒルデ協議国でも同じようなことが言える。


 そしてイルス王国ですら同様だった。国の中の貴族はそれぞれ王族とは別の思惑を有し、好き勝手に、とまでは言わないが、自らの裁量権の中で領地を思うがままに運営していく。


 そしてそれが最終的に増長すれば、国家の頂点たる王族や皇族さえも打ち倒そうという考えへと変貌するだろう。


「そのようなものからすれば、今のような次代皇帝が決定していない状態というのは長いほど良いのです。何せその権威の失墜を表明できますからね」


「権威の失墜?それは……どういう?」


「言ってしまえば、いなくとも国は回るという事です。皇帝陛下がいなければ国が回らない。その在り方も歪ではありますが、皇帝陛下がいなくとも国が何も問題なく回るということになれば、どうでしょうか?」


「……皇帝がいなくとも構わない、そんな体制への変革を進める……?」


 皇帝がいなくとも国が問題なく運営できていれば、それはつまり存在意義そのものの疑義が生じることになる。


 皇帝の座を狙う者からすれば、皇帝の座が空席である期間が長ければ、皇帝という存在そのものの権威を下げることができ、現体制を打ち倒す切っ掛けにもなる。


 また、同様の考えを抱いたものたちをさらに集めることだってできるだろう。


 その者たちからすればこの状況はまさに願ったりかなったりといったところか。


「仰るように、皇帝陛下という存在を倒す必要はありません。皇帝陛下の権力を維持しながら、自らが国の中心となることが件の者たちの目的やもしれません。選挙が続く中、そんな絵図を描いている者たちが活躍すれば、自然とその様な考えは国の中に流布されていくでしょう」


「しかし、今の状況では……国が一丸となって行動しない限り問題は解決しません。ただ悪戯に時間と労力を消費するだけでは……?私には、酷い悪手のように感じられます」


 もしヒルデ協議国が今も健在で、難民問題などがない状態であればこの状態が続くことは玉座を狙う者からすればまさに好機といえるだろう。


 しかし、今の難民溢れる状況ではまるで悪手。自分たちの首を自分で絞めているような状況に他ならない。


 シータの考えに側近の男性はおおよそ同意見のようだった。


「ミーザ嬢はしっかりと大局を見ることができていらっしゃる。他国から押し寄せる問題が解決していない状況でそのようなことをするのはおっしゃる通り悪手です。少なくとも現状でとる手ではありません。しかし、彼らにとってはこれが最初で最後の機会かもしれないのもまた事実です」


「……次代皇帝を、選挙で決めるというのは、あくまで今回のみ……」


「そうです。そしてラファラ殿下も、バタル殿下も今回のこの選挙の欠点を十分にご理解していただけるはず。次はありません。どのような優秀な方々が生まれようと、必ず後継ぎとなる方を指名されることでしょう。そう考えれば、今は最初で最後の好機」


「自分たちが危険な目に遭おうとも、それをせずにはいられない……そういう事ですか」


 盤石な存在を崩すには理外の一手が必要になってくる。それこそ道理も何もかも吹き飛ばすような、考えすら及ばなかった一手。


 今の選挙がまさにそうだ。現皇帝が次代皇帝を指名する。ただそれだけのことができなかったが故に、選挙などという今まで存在すらしていなかったかもしれない概念が生まれてしまった。


 その結果国中が混乱している。もっとも、その混乱の原因の中には難民問題も含まれる。


 しかしこの混乱こそが、皇帝の存在意義を問うにはもっとも丁度良い場面でもあるのだ。


 公正を期すために王子たちは選挙には直接かかわることができない。だからこそ他の部分でなんとか国を立ち直らせようと奮闘しているだろう。


 しかしここで皇族の二人以上に国を平定するための一手を打つことができれば後の発言力は増大する。


 ピンチの中にチャンスありとはよく言ったものだが、確かにそのようなことを考える者がいたのであれば、この状況が長続きすることはリスクもあるがリターンも大きいように思われる。


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