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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0695:交渉ゆえに言葉を選ぶ

「お久しぶりです、ミーザ嬢」


 後日、シータの元に現れたのはバタル王子の側近の一人だった。


「お久しぶりです。その節はお世話になりました。バタル王子は……?」


「申し訳ありません。国内の諸問題を解決するべく、方々へ足を運んでいる状態です。せっかくお戻りになったミーザ嬢にお会いしたいとのことだったのですが、残念ながら難しいとのことで」


 どうやらバタル王子自身は方々を駆け回っているために来ることができないらしい。それはそれでシータとしてもかまわなかった。


 シータの目的はエカンダ皇国内で行う活動についてバタル王子に了承してもらう事だ。


 全権を担っているわけではないとはいえ、バタル王子はこの国の王子。二人の王子のうち一人の了承を得られればそれでよい。


 予め手紙として送る形でシータの目的と取りたい行動については伝えてある。それを間接的にでも認めてもらえればよいのだ。


「それで、私の今後の行動を、バタル王子は認めていただけますか?」


「……国内の行動に関しては、おおよそは認められると。しかし数点、難色を示されています」


「と、申しますと?」


「まず、難民を連れてヒルデ協議国へ向かう事。こちらに関しては異論はないと。難民を元の鞘に戻していただけるのであれば、それが一番良いことだというのは両殿下共に認めるところではあります。しかし武力を持つことに関しては少々問題があります」


 武力。それはつまり難民を軍隊としてしまうことに対する懸念だ。


 予め想定していたことではある。難民たちを守るためにもある程度の武力は必要だが、問題はそれをエカンダ皇国は認めないだろうという部分だ。


 難民は国に所属するものではない。その者たちが戦えるようになった時、エカンダ皇国は内部に超巨大な武装勢力を抱えることになってしまう。


 それこそ他国の軍隊を内部に引き入れるのと同義だ。いや、むしろそれよりもたちが悪い。何せ難民は今のところどこにも所属していないという立場になるのだから。


 他国の人間であれば、まだその国を介しての調整などができる。だが無所属の軍隊となるとその軍隊そのものを対処するしか方法がなくなる。


 万単位。それも正確な数もわからないような者たちが武装するとなれば、最悪国を切り取られる可能性だってある。


 現時点ですでにエカンダ皇国の西側、ヒルデ協議国側との国境の領地は崩壊しているのだ。これ以上頭痛の種を内部に作りたくないのはシータとしてもよく理解できる話だった。


「武力、というのは、具体的には?」


「……申し上げなくともお察しいただけると思いましたが」


「私自身、既にある程度の力を有しています。それを武力とおっしゃられるなら、私自身の行動も抑制されます」


「個人の武勇を止めることなどは出来かねますが……」


「難民たちを守るためにも、最低限の武力は必要不可欠となります。その武力をエカンダ皇国側が提供してくれるというのならばよいですが、恐らくその余裕はないでしょう。私共、ヒルデ協議国の人間が招いている事態である以上、自分たちの力で解決する必要がございます。具体的にどの程度の武力を持つことを禁じられているのか、それをお教え願います」


 シータとしても必要以上の武力を持つ必要はないと考えている。しかし自衛のための力は必要不可欠だ。

 祖国に連れていく何万、何十万という難民たちを守るために、最低限の自警団のようなものは作らなければならない。


 問題は、その規模。


 エカンダ皇国が許容できるギリギリを攻めなければならない。少なくとも万単位の人間を守る時点で、人手はいくらあっても足りない。


 特に魔物などから身を守るためには武力は必要不可欠だ。何の守りもなく難民たちが生き残れるはずもない。


 実際、多くの難民が魔物たちなどの被害に遭っているはずだ。


 毅然とした態度で対応してきたシータに対して、バタル王子の側近は驚きを隠すことができなかった。


 数年前に行動を共にした時とはまるで違う。別人になってしまったのではと思えるほどに強く、芯のある人物になっていた。


 イルス王国でよほど良い経験ができたのだろうと、少し感慨深くなりながらも、譲ってはいけない部分があることを彼は理解していた。


「具体的な規模を申し上げることはできません。しかし、それが各領地の脅威となると判断されれば、この国を挙げて対処しなければならなくなります」


 現状、難民たちだって既に各領地の脅威となっているだろう。しかしそこに国として軍を挙げることができないのは相手が難民であるが故だ。


 しかしこれが難民で結成された軍隊となれば話は別。難民が元になった武装勢力となれば、エカンダ皇国としては大手を振って軍を派遣し処理が可能になる。


 規模から言って、万単位の人間を守るとなれば数千以上の規模の軍隊を作らなければいけなくなるだろう。


 しかしそれは既に一領地で持つことが可能な軍隊の規模と同等かそれ以上のものだ。


 難民を守るという体裁を持っていたとしても、そこに存在する武力は確実にエカンダ皇国における脅威となりえる。


 具体的な数字ではなく、脅威となるか否か。それを指針にあげられたことで、シータは今まさに自分が外交の場に立っていることを再認識する。


 ここからは言葉の勝負。どこまで情報と譲歩を引き出せるかの勝負になってくるのだ。


 バタル王子は決してシータの邪魔をしたいわけではない。そのことは直接側近をこの場に送り出してくれたことからも理解できる。


 しかしエカンダ皇国の人間としてあまりシータに好き勝手されても困る。難民全員がもし兵士となった時、今の皇国の状況からそれを止めることは難しい。


 だからこそ各領地の脅威と判断されれば、という非常に曖昧な言い方をしたのだ。


 もちろんそれは軍隊を作ってもよいという事ではない。いくら難民たちを連れて行ってくれるからといって、ヒルデ協議国の貴族の諸子に国内で軍隊を作ることを許可できるはずもない。


 一定以上の脅威を感じることをすれば国として対処するという判断基準を告げただけだ。


 これは一種の政治の場と同じだ。許可できないからと言って、必要であることを理解しているからこそあのような言い方をした。


 脅威となる軍閥を作れば、それは対処しなければならない存在となる。


 逆に言えば、脅威とならない形の軍閥を作れば、ある種黙認されるという事でもある。


 だがこれはあくまで、すべての判断基準がエカンダ皇国側にあるという事でもある。この国にとって都合のいい存在であれば見逃してもらえるし、少しでも都合の悪い存在となれば処理される。


「脅威、というのは、各領地の方々に危害を加える、ということでよろしいですか?」


「もちろん。そのようなこととなれば危険分子として排除しなければなりません。もちろんミーザ嬢がそのようなことをするつもりはなく、ただ難民を守りたいがために力を欲しているのは理解するところです」


 力の使い方はわかっていても、それが直接的、あるいは間接的にでも危害を加えればそのときは。


 シータの頬にわずかに汗が伝う。自分がこれから動きやすくなるかどうかはここで決まるのだ。感情的にならずに相手の言いたいことを理解し、相手の思惑を察し、こちらの言い分を通さなければならない。


「ところで、その武力はどこから抽出されるおつもりですかな?我が国は現在……お恥ずかしい話ではありますが、少々混乱している状態です。そこから引き抜きをするというのは、許容できかねます」


 恐らくは懸念事項の一つ。シータがバタル王子の私兵などを引き抜くことを前提に事を考えているのではないかと考えているのだろう。


 本来であれば自らの国の事情を正直に話すことは、外交としては悪手にあたる。しかしバタル王子はそのあたりを無視して、シータに内情を話してもいいとしてくれたのだろう。


 シータ自身も事前に情報収集していたために隠されたところでそこまで意味はないが、言葉の節々に、伝えられる内容の一つ一つにシータに対しての信頼に近しいものが感じられる。


 外交として言葉を交わすとき、こういう形で互いの立場を理解させる方法もあるのだなと、シータは感心してしまっていた。


「エカンダ皇国の方々は今大変な状態でしょう。そのような状況で貴国の方々にこれ以上を求めるつもりはありません。私たちの力で、私たちが何とかしなければいけないことです。そこは、ご安心ください」


 私たち。つまりはヒルデ協議国の人間だけで武力を結成するという事だ。


 それは先ほどの武力の大きさの問題にもつながるものだ。他国の人間の、誰の意志にも従わない武力集団など危険すぎる。


 しかしシータはあえて言葉をつづけた。


「私はあくまで祖国の民たちを守りたいだけ。エカンダ皇国の皆さんにこれ以上ご迷惑をかけたいとは思いません」


 本心からの言葉だった。あくまで守るための力。何かを害するための力ではない。


 その言葉を聞いて、バタル王子の側近は目を細めてから小さくうなずいて笑みを作る。


「……その言葉を聞けて安心いたしました。ミーザ嬢であれば、正しく難民たちを守ることもできましょう。この件に関しては、バタル王子にお伝えさせていただきます」


 薄氷の上に成り立つ存在というのはこういうことを言うのだろう。場合によってはすぐに処理されるような、国内に生まれた危険分子という認識に違いはないのだ。しかし少なくとも暗黙の了解としてくれることは間違いない。


 シータが小さく息をつくのに合わせて、バタル王子の側近は目を細めた。


「時にミーザ嬢、ここから西へと向かうには、かなり厳しい道のりとなりましょう。どのようにして向かうおつもりか?」


「馬がありますのでそれを使って。方々へ周り我が国の民を見つけて少しずつ西の方へと共に向かえればと」


「あぁ、そうではなく……そう、それだけ物も必要になるでしょう。それらはどのように調達を?」


 そこまで聞いてシータはまだ外交の時間は終わっていないということを悟る。懸念事項はまだ残っているのだ。


 彼がこれから聞きたがっているのは、つまりは資金の問題だ。


 人を連れて歩くだけでも、軍閥を作るにせよとことん金を浪費してしまう。生産的な行動を何一つできないのだ。それも仕方がない問題だろう。


 いくらオーロックス商会のつながりを得て、多少資金援助を約束されているとはいえそれに頼りきりになるつもりはない。


 彼が聞きたいのは、バタル王子に何かしらの支援を求めるつもりなのかどうかというところだろう。


 支援を求められれば、恐らくバタル王子はそれに応えてしまう。これはバタル王子からの問いかけか、あるいはバタル王子を支持する者たちからの確認か。


 慎重に答えなければ、先ほどの回答もひっくり返される可能性がある。シータは再び唾を呑み、気を引き締めた。


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