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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0694:苦肉の策

 エカンダ皇国の現状はかなり面倒なことになっている


 二人の王子による後継者争いを発端として、すべての領地で勢力争いが行われている。


 それがまさか同じ領地の中の父と子の間でも行われているというのはあまりにも異常事態だ。


 しかし、目の前のヤンセック卿はそこまで焦っていないように見える。むしろこの状況でも問題ないと言わんばかりの表情だ。


「ヤンセック卿は、バタル王子を支援されているのですか?」


「はい。我が領はバタル殿下の提言によって大きな利益を得ました。今後とも、バタル王子にこそ皇帝になっていただければと」


 父と息子で担ぎ上げる王子が異なる。それは状況によっては大きく混乱を呼ぶだろう。今回のような選挙の状況ではまさにそうだ。


 しかしそれを逆手に取っているのではないかと考えたのだ。


「……ひょっとして、どちらが皇帝になった場合でも、ヤンセックの家系を守ることができるように、あえてそれぞれ支持する王子殿下を分けたのですか?」


 シータの言葉にヤンセック卿は少し目を丸くしていた。


 以前面倒を見ていた時の彼女は本当の意味でただの子供のように見えた。


 圧倒的な力によってすべてを奪われた哀れな少女。それが自分たちの考えた策を見抜くとは思っていなかったのだ。


「なかなかどうして……この数年間は濃密な時間を過ごしたようですな。御推察の通り。苦肉の策ではありますが」


 王族二人のどちらかしか支援することができないというのであれば、貴族として、一つの家は片方しか支援することができない。


 そのためもし負けたほうを応援していた場合、選挙後のその家は冷遇される立場になってしまうかもしれない。


 しかしどちらが勝つか確定していない状態でその家の現当主と次期当主が別々の王子を支援していた場合、どちらも支持したという事実が残ることでどちらの王子が勝利しても家の存続を容易にすることができる。


「家の存続を優先するという意味ではよい手だとは思います。ですが、それをした場合、どちらかの方は当主としての地位を追われることになってしまいますが」


「それ故に苦肉の策なのです。可能ならば、息子が家督を継ぐのが最も良いのですが……そうなるかどうかはまた別の話」


 本来であれば息子がこの家の当主として活動していってくれることの方がありがたいのだろう。


 しかしそれを表に出すわけにはいかないのだろう。どちらが勝っても家督を維持できるような策を講じる場合、どちらかは責任を取らなければいけなくなる。


 その結果がどのようなものになろうと、一貴族がそのような手段をとったというのはあまり良いこととは言えない。


「バタル王子へのつなぎをしていただくこと自体、避けたほうがよかったでしょうか?」


「いや、むしろちょうどよかった。私がバタル王子と懇意にしているという部分を強調することができる。この状況では、ありがたい」


 貴族として王族との繋がりを強調できる機会というのは多いようで少ない。


 バタル王子はシータと会いたいと考えているはずだ。そのために接触を取ろうとすればきっと応えてくれる。


 この混乱が続く状況でヤンセック卿がシータを迎え入れてくれたのはそういった事情もあった。


 バタル王子をこの領地に呼び寄せる。あるいはバタル王子の関係者でも構わない。そういった人物との繋がりがあれば多くの領地や関係者にそのつながりをアピールできるというものだ。


「私は体よく利用された、という事ですね?」


「君もまた私を利用している。貴族とはそういうものだ。まさか、君とこのような会話をするようになるとは……いや、こういう会話ができるようになるとは……」


 あの時の娘とこのような会話ができるようになるとは思っていなかったため、ヤンセック卿は少々感慨深くなっていた。


 時間が経つのは早いものだ。若者ほど時間は濃密で、年寄り程緩慢になっていくというのはその通りだとしみじみと感じていた。


「君はこの後西に向かうのだろう?祖国のために」


「はい。祖国の復興と、民たちに居場所を与えるために」


「……苦労は多かろう。ここはまだそこまでの被害は受けていないが、首都の近くまで難民たちは広がっていると聞く。ゆっくりしていけるのはこの街が最後だろう。しばらくは、ゆっくりしていくとよい」


「ありがとうございます。何か領内でお手伝いできることがあるとよいのですが」


「それには及ばない。もしあるとすれば、魔物の被害くらいのものだろうが……生憎とそれらはまだ我らが領地の兵でどうにでもなっている。まずはここまでの旅の疲れを癒しなさい」


 ヤンセック卿からすればシータは孫に近い年代なのだろう。余計な気をまわすことなくこの領内で健やかに過ごしてほしいと考えているようだった。


 領主として問題を他国の人間に押し付けるつもりはないという矜持もあるのだろう。


 シータからすれば少しでも力になりたいという純粋な善意からだった。


 とはいえ彼女としても慣れ親しんたイルス王国と違い、エカンダ皇国の勝手は理解できていないために大人しくするほかなかった。


 支援してくれるものを探すという意味でも、今は大人しくしておいたほうが良いと判断したのである。


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