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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0691:思いついてしまった

「なるほど……そりゃまた難儀な……俺よりよっぽど大変なことしようとしてるじゃねえか……そうか、あの時、アルル大橋から合流して来た子か」


 テルンはシータのことを思い出してどこから来た人間であるのかを理解していた。


 テルンがシータを見た回数は決して多くない。


 ボロボロの装備を着てアルル大橋からやってきた姿、そして去年会った時の精悍な姿。その二つがどうにも重ならなかったのだが、ここでようやくテルンはこの長い月日の中で彼女が様々なことを鍛え上げたのだということを理解した。


「それで単身、ヒルデ協議国の方に?こう言っちゃなんだけど……正気とは思えねえけどな?」


「テルン、そんな言い方……」


「事実だろうが。いくらアル達の支援があるとはいえ、一人で一体何ができるってんだよ。それも国を立て直すなんて……それならメイレの部下にでもなってた方がよほど幸せだったんじゃねえの?」


 テルンの発言はあくまで客観的で、冷静な言葉だった。想いだの覚悟だのそういったことはさておいて、現実的にできることとできないことをはっきりと理解したうえで考察している。


 シータの行動が無茶で無謀であるということをテルンはわかっているのだ。いや、この場の誰しもがわかっている。


 だが、それでもシータを止めるだけの言葉が見当たらなかったのも事実だ。


「シータがそれを決めたんだ。それを変えることはできないよ。テルン、君と同じように、自分で決めたんだ」


「…………あー……そうだった。俺も人のことを言えた義理じゃなかったな」


 テルンは自分の今後のことを思い出して笑う。


 だがしかし、テルンはその笑いを止めて真剣な顔をする。


「けど俺はどこの誰とも知らない誰かのために行動するんじゃねえぞ?俺がそうしたいと思ったからしてるんだ。そのシータってのがどうしてそんなことをしたいのかまでは知らねえけど、同列にはされたくないな」


 似たようなものだと思うけどとアルヴィストは思いながらも、テルンとシータはどこか似ているところがあるのかもしれない。


 同族嫌悪という奴だろうか。もし二人が会っていたら案外いい友人関係になれていたのかもしれない。


「西……か……」


「ポロンはメイレに雇ってもらうのが一番確実じゃねえか?この城で鍛えてもらえば、お前もこの国の中では一級品の兵士になれるだろ」


「……んー……」


 ポロナルグはテルンの提案にもピンときていないようだった。


 西の方に視線を向けて、何やら考えを巡らせている。


 一体何を考えているのか、テルンにはわからない。否、ポロナルグ自身にも理解できていなかったことだろう。


 しかし、不思議とその結論に至っていた。


「アルヴィスト殿下、一つお願いしてもいいですか?」


「なんです?」


「おらも、西に行こうと思います」


「……へぁ?」


 まさかの申し出に、アルヴィストは間の抜けた声を出してしまう。驚愕しているのはアルヴィストだけではなく、隣で聞いているテルンも同じだった。


「お前……何言ってんだ?なんでそうなった?」


「えっと、西にってことは……あれだよね?シータを追うって、そういう事、で、いいんですか?」


「んだ。だからお願いがあるんだ。シータさんに追いつけるように、馬が欲しいんだ。装備も。お願いできねえだろうか?」


「聞けや!なんでそうなった!?なんでわざわざ国外に行こうなんて思った!?お前バカか!?」


 テルンの叫びとは対照的にポロナルグは大きな反応は示さなかった。大きな体を持ちながら、落ち着いた表情と思考で彼はぽつりぽつりと、呟き始める。


「テルン、君は、何かをやろうとしているんだろ?」


「……っ!」


 テルンは自分の今後のことを一切話してはいなかった。


 自分がやろうとしていること。自分がどうなるのかという事。自分が、やらかそうとしていること。


 何一つとして口にしていないし、文字にもしていない。それを知っているのはあの夜、話を聞いていた三人。アルヴィスト、メイレイン、リザベラの三人だけだ。


 だというのに、ポロナルグはそれを察した。


「なにをしようとしてるのかはわからね。けど、それがなんかすごいことだってのはわかる。取り返しのつかないことをやろうとしてる。そのくらいはわかる」


 友として、そして同僚として、メイレインと共に競って守ってきた関係だからこその気づきだろうか。普通ならば気づけないようなことに、彼は気づいていた。


「おらは、頭は良くねえから、力を使うしかできね。テルンのことを手伝いたいけど、たぶんおらは足手纏いになる。ならおらは、別の場所の力になろうと思う。そうなろうって、今、思ったんだ」


 どういう思考回路の先にその考えに至ったのか。この場の誰も理解はできない。しかしポロナルグの目には、決意と覚悟が満ちていた。


「アルヴィスト殿下、シータさんが行ったのは、エカンダ皇国のさらに先だべ?」


「そ、そうです。三カ月も前に出立しているので……もう既に、エカンダ皇国内に入っているかと思いますが……」


「三か月か。大丈夫。追いつける。おらは体力だけはあるから」


 力こぶを作って朗らかに笑ってみせるポロナルグには、どこか頼りになる空気が感じられる。


 しかし、そこに至るまでの思考が理解できないせいで、どうにもアルヴィストとしては簡単には承服しかねることだった。


 何せ彼はメイレインの、実の姉の信頼する人物だ。可能なら、姉の従者として守ってほしいとさえ思っていた。


 それが、まさかこの国から出ていく選択肢を選ぶなど想像できるはずもない。


「そういうことを言ってるんじゃなくて……わかってるんですか?シータは……シータはヒルデ協議国を再興させるために、この国に来て、そして、発ちました。それを追いかけるってことは」


「うん。たぶん、戻ってこられないかもしれない。けんども、それをした方がいいって、そう思ったんだ」


「なんでだよ。お前、どういう意味か分かってんのか?他人の国だぞ!俺らの国じゃねえんだぞ!なんで助ける!」


 他人の国。そう、テルンからしてもポロナルグからしても、シータの国は、ヒルデ協議国は全く関りのない国だった。


 シータがこの国に来なければ、まともに知ろうともしなかった国だろう。悪評だけを聞いて、滅んでよかったんじゃないのか、なんてことを口走っていたかもしれない。


 しかし、そういうものだ。この国のものからすれば、ヒルデ協議国はあまりにも遠すぎる。無関係すぎる。


「この国に、影響があると思ったんだ」


「影響……?」


「前にメイレさんが言ってたんだ。難民がすごい押し寄せてきてて、それが、悪い方に進んだら、この国も危ないって」


 それはアルヴィストも想定する、最悪の事態の一つだ。


 難民たちがエカンダ皇国を食い尽くし、崩壊させたその後でいったい何をするのか。どこに向かうのか。


 ジスカル老とアルヴィストが行きついた結論に、メイレインもまた辿り着いていた。彼女の卓越した才能か、あるいは王族としての直感か。


 自らの国が危機に瀕しているという事実とその感覚が、彼女にその可能性を見出させていた。


「難民云々の問題は、おらにはよくわからねえけど、シータさんはそれを解決するために、西に向かったんだべ?なら、おらがそれを手伝う」


「なんでお前が。お前がやる必要ねえだろ。お前はメイレの役に立つことだってできるんだぞ」


「うん。そうだとも思う。メイレさんの近くで戦うことだって大事なことだって思う。けど……けど、メイレさんたちが信じられる人が動く必要があるって、思ったんだ。テルンも、そうじゃないの?」


「っ……!」


 テルンは返す言葉がなかった。


 信頼されている。テルンにもその自覚はあった。


 他ならぬ王族であるアルヴィストとメイレインに、心の底から信頼されているという自覚があった。


 だからこそ、やろうと思ったのだ。


 国の為だとか、王族の為だとか、自己犠牲の精神だとか、そんなことのために動くつもりはテルンには毛頭なかった。


 たとえ後の世で大悪党の名を冠することになろうと、自らが悪名を背負おうと、テルンはあの二人の役に立つことをしようと。


 まるで自分の心の内を言い当てられたような気がして、テルンは何も言い返せなかった。言い返すことなどできなかった。


 誰でもない、心の底から信頼する友人のために、役に立とうとしている。


 ポロナルグも同じだ。メイレインのために、何かできることをしようとしている。


「……本気なんだな?思い付きとか、適当言ってるわけでもねえんだな?」


「そんなつもりはないよ。けど、うん。思い付きではあったかも。なんていうか……思いついちまっただ。あぁ、そうすればいいって」


 なんと短絡的というか、直感的というか。理屈ではなく本能でポロナルグはそうすることを選んだ。


 それが正しい選択なのかどうか、それは、誰にもわかるはずもない。


 ただ少なくとも、テルンにはポロナルグを止める理由は、もうなくなっていた。


 なにせ、テルンもまた、同じだったから。


「そうかよ……なら、そうか……もう二度と、会えなくなるな」


「ははは。そうでもないよ?国を立て直したら、会いに来てよ。テルンが来てくれたら、百人力さ」


「……そう、だな。あぁ、わかったよ」


 テルンが二度と表の世界を歩かない覚悟を固めている中、ポロナルグはもう二度とこの国に戻らない覚悟を固めていた。


 何が二人をそうさせるのか、アルヴィストには理解できなかった。


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