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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0690:コネの大事さ

 時は戻り、アルヴィストはシータのことをメイレインに説明し終えていた。


 可能ならば自分が帰ってくるまで待ってほしいというのが正直なところだったが、西部の状況を聞く限り早い方がいいというのはわかる話。


 既に別れを告げたシータが足早にこの城を出ていったというのも仕方がないというものだった。


「せっかくだから、直接最後の別れを告げたかったのだけれど……難しいわね」


「仕方がないかと。代わりに、手紙を預かっています。城の中の、全員分に当てて」


 シータは城の者たちに向けて手紙を残していた。この数年で世話になった全員に。兵士一人一人に向けても。


 もちろんメイレインにも手紙を残していた。彼女が残した手紙は既に多くの者が目を通した。残っているのは、恐らくメイレインの手紙くらいだ。


「変なところで律儀なのね。わかったわ。あとで読んでおきます。それと……」


 メイレインは一緒に乗ってきていたテルンとポロナルグの方に視線を向けていた。


「よぉ。久しぶり」


「お久しぶりです。アルヴィスト殿下」


 相変わらず気安いテルンと、訛っているものの礼儀正しくあろうとするポロナルグ。二人も護衛としてここまでメイレインを送り届けてくれたのだろう。


 その後ろではリザベラがメイレインの荷物を下ろしたりと忙しく動き回っていた。


 彼女も学院にいる間ずっとメイレインと行動を共にしてきていたのだ。苦労もあっただろう。それこそ山ほど。


「あの二人のことをお願いできるかしら?私との護衛契約は、一先ずこれで終わりになりますから」


「承知しました。姉上も一先ずはお休みください。お疲れでしょうから」


「……そうね。そうさせてもらうわ。陛下にご挨拶をしたら、部屋で休ませてもらいます」


 メイレインは静かにその場から立ち去っていく。優雅に歩く姿に何人かはその成長を喜んでいる。

 複雑な顔をしているものもまだ何人かいるのだが。


「随分とまぁ、お淑やかにするのも慣れたもんだろ?」


「うん。一年前はまだちょっとぎこちなさが残ってたけど、今はもうすごく堂に入ってるよ。やっぱり姉上はすごいや」


「学院だとちょくちょく今までの素が出てたりしたんですよ。メイレさん……メイレイン殿下も頑張ってたから」


 メイレインの学院での様子を見ていた二人からすれば、あの姿が定着するまでの間を見ていたことと変わらない。


 そう言う意味では彼らも苦労したことだろう。


「お二人もありがとうございました。大変な苦労をされたかと思います」


「本当にな。その言葉リザベラさんにも言ってやってくれ。あの人本当に、本っっっっっっっっ当に苦労してたから」


「う、うん。言っておくよ。特別手当とかも出しておくから」


 あのメイレインに年単位で専属の従者という形でついていたというだけで表彰ものの活躍といえるだろう。


 彼女の体に傷一つ付けることなくこの城に戻ってきたその功績は、国王陛下が直接恩賞を与えるだけの価値があると感じるほどの苦労だったのだろう。二人の顔は今だけは真剣そのものだった。


 彼女が報われないなどという事はあってはならないと、本気で思っている顔だった。


「ところでよ、俺らの世話するっていってもどうするんだ?なんかやってくれんのか?恩賞ならいくらでも貰うぜ」


「おらとしてはそういうのは別にもういいんだけどなぁ……しっかりお給金ももらってたしよ」


「簡単に言えばこれからの二人の就職先関係だよね。学院を卒業したってこともあって、二人にはいくつか選択肢が出せるよって話」


 就職。


 この国の王立学院を卒業することができた二人にはそれ相応の役職を与えることができるようになる。


 それこそ一般職ではなく、その先の管理職クラスになれるだけの斡旋が可能になるだろう。


 特に二人はメイレインの護衛を直々に引き受けていたという実績がある。それを周知すればそれこそ各所から引く手あまたとなるだろう。


「二人の希望にもよるけど、この城の直属の兵として勤めることも可能だし、どこかの領主に仕えるってこともできると思うよ。そのあたりは僕と姉上の連名で紹介状を書かせてもらうから」


「王太子と王女の連名の紹介状って、もはやこいつを雇えよっていう命令に近いよな?権力を活用するとそういうこともできるわけだ」


「ふふふ。国内で二人に適性のある内容だったらどこにだって就職させてみせるよ。もし断ったら僕が直談判する」


「おぉ怖。王族は敵に回すもんじゃねえな本当に。ポロンはどうするんだ?お前特に何も考えてないって言ってたけど」


「あー……村に戻って農作業とかしようとは思ってたんだけど……そもそもおらは力仕事しか縁がなくて、剣の技術とかは上がったけども、それ以外は特にできるとは思えねぇんだよなぁ」


 学院を卒業している以上、最低限の学力は有しているのだが比較対象が王族だったということもあって、彼の自己評価はそこまで高くないのが残念なところだ。


 もっと自己評価を高めたほうがいいとは思うが、なかなかそのあたりは本人の性格もあってうまくいかないのだろう。


「ポロナルグさんは結構強いんですよね?それならさっきも言ったようにこの城、あるいは各領地で兵士として活躍するっていうのも手ですし……各ギルドに話を通せばそれなりの待遇で迎え入れてもらえると思いますよ?」


「言葉の端々から、迎え入れさせますよって言ってるように聞こえるのは気のせいか?」


「同じようなものだからね。それで、どうします?」


 どうするかと言われても、いきなり将来を決めろと言われているようなものだ。自分に自信のない者にそのようなことをいきなり決めろと言われても無理の一言だろう。


 故郷に戻って泥臭い農夫になろうと思っていた人間に、輝かしい未来を選べと言われても想像すらできないだろう。


 もっとも、ポロナルグは輝きの中心にいるであろうメイレインを見てきた。その姿とその在り方を見てきた。


 彼は想像できるはずだと、アルヴィストは確信していた。


「あ、アルヴィスト殿下、すこし、少し考えさせてはもらえないでしょうか?自分に何ができるのか、もう少し、考えてみようと思います」


「わかりました。お返事は早めにいただければ、こちらも最大限協力しますので。テルンは?どうするの?」


「んー……いくつか選択肢があって迷ってるんだけどな」


 元々ハンターギルドで働いていたテルンだ。ハンターギルドの将来の重役として所属するのも悪くはないだろう。


 ただ、テルンはもうその答えを決めているようだった。


「んじゃ、例の気球の……なんたらって商会に頼むぜ」


「……テルン……それは……」


 約一年前。アルヴィストとメイレインと交わした約束をテルンは覚えていたのだ。


 気球の開発に携わるオーロックス商会に入って、気球を強奪して帝国へ向かう。


 それを自分のせいにして王族側からすれば被害者を装う。アルヴィストからすれば最悪な方法だ。


 ばれたとしても王族として実害を被ることもなく帝国の調査を行える策。それをテルンが実施しようというのだから、アルヴィストからすれば止めずにはいられない。


「まぁ待て待て。言いたいことはわかる。俺もいきなりやろうとは思ってねえよ。そもそもその気球ってやつの状態もわかってねえんだ。どういう風に動くのかとか、そもそもちゃんと行けるのかとか、そのあたりちゃんと把握する時間が必要だ」


「けど……テルンが行くことは……」


「いいんだよ。都合よく王族に取り入った最悪な狩人ってことで。その方がお前らとしては楽だろ?」


「……嬉しくないよ、そんなことされても」


「……わかってる。わかってるよそんなこと」


 テルンだってアルヴィストの性格はよくわかっている。あのメイレインの弟なのだ。


 他の貴族のように立場を使っての嫌味な圧力など一切かけようとしない。ただの人として、友として接する彼らがこのようなことをすればどのような反応をするのか、わからないほどテルンもバカではない。


「それでも、俺はそこに行く。お前の紹介状がもらえなくても行くつもりだぜ?お前との繋がりを示唆すれば行けるだろ?」


「……彼らには僕の素性が王族だって伝えてないけどね」


「そうなのか?ならなおのことだ。俺がそこに入ってても問題ねえだろ?」


 テルンは本気だ。本気でそれをしようとしている。アルヴィストがここで働いてくれと言っても、恐らく彼は聞かないだろう。


「わかった、わかったよ。あとでオーロックス商会とつなぎをつける。その時は僕と同席してね。直接紹介するから」


「あいよ。いやぁ就職先がこう簡単に決まるってのは楽でいいな。こういう時にコネの重要性を理解できるぜ」


 自分から大犯罪者への道を駆け上がろうとしているというのにテルンは暢気なままだ。


 対してポロナルグは自分のやるべきことを真剣に考えているようである。


 自分には何ができるのか、自分が一体何をするべきなのか。


 いろいろと考えているうちに、徐々に馬車から離れ仕事に戻っていく城の面々を見てふと気づく。


「そういえばアルヴィスト殿下、前に会った……あの子は……?」


「ん?あぁティフのこと?」


「い、いえティヘリエラ殿下ではなく……その……アルヴィスト殿下と同い年くらいの、兵士のような恰好をした……」


「あぁ、シータのことね。さっき姉上にも伝えたんだけど、西に旅立ったよ」


「西に……?」


「そういえばそのあたりの事情、二人には説明してなかったっけ。あんまり言いふらすような内容でもなかったからなぁ」


 シータの事情はあの時点でもかなりグレーゾーンな部分が多かったために、城内の人間しか多くを知る者はいない。


 城外の人間はおそらくシータの事情はほとんど知らないはずだ。


 城下の街においても、いつの間にかいた王太子の部下の一人程度にしか思われていないだろう。


 丁度いい機会でもあるため、アルヴィストは二人にもシータのことを簡単にではあるが説明することにした。


 シータ・ガン・ミーザという少女のこれまでと、彼女がこれから望むことを。


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