0688:皆からの餞別
「うん。こんなものかな」
シータの装備が集まるまでそう時間はかからなかった。
予め用意していたものを含め、彼女の装備は普段使っている装備以上のものに整えられていた。
「こ、こんなに、いただいてよろしいのでしょうか……?」
「ミーザ嬢、目録はこちらになります。出立までの間に、これらの装備に慣れるための訓練を行ったほうがよろしいかと愚考いたします」
ノイルーガによって渡された紙には今回の装備一覧が記載されていた。食糧や日常的な必需品までそろえられた一覧を見てシータは眩暈を覚える。
女性用の兜と鎧。これらは防御力よりも動きやすさを優先した形になっており、ところどころに女性らしさを出すためか装飾が取り付けられている。
彼女の持つ武器は剣と槍。剣の方は細身で、メイレインが使っていたものとよく似ている。槍は馬上からの攻撃を容易にするために、斬る、突くの両方ができるように刃そのものが大きく形成されている。槍というより矛に近い。
そしてそれ以外の装備。外套、各種装備。それらも彼女が使い慣れているものをベースにして改良が施されているものだ。
「それと、こいつをお連れ下さい。こいつも喜びます」
「この子は……本当によろしいのですか?」
連れてこられたのはシータが普段乗っている軍馬だった。
城内の直属の兵に与えられる、特殊な訓練を受けている馬だ。そこいらの軍馬とは比べ物にならないほどによく走る駿馬である。
普段シータはこの馬の世話もよくしている。そのため馬自身もシータによく懐いていた。
「これで、シータが旅立つための準備はできたかな。あとは、これね」
「こちらは?」
「ジュニラック卿への僕からの手紙。シータをエカンダ皇国側に送り届けてもらうようにお願いしてある。一緒にノイルーガの手紙も入れてあるから、渡してあげて」
「お手数ですが、よろしくお願いいたします」
「……こんな……こんな……」
「それと、はいこれ。ジスカルからね」
シータの首に巻く形で取り付けられたスカーフのような布。鮮やかな色合いも相まって、彼女によく似合っている。
「魔道具。使い方と効果はここに書いてあるから、必ず一度は試すこと。乗馬中にも効果があるだろうから、あの子にも慣れさせてあげて」
それらを受け取って、シータはその場でうつむいて震えだす。これほどのものを与えられるということがどれほど恵まれていることか、彼女にだってわかっている。
アルヴィストたちに施しのつもりなどはないだろう。共に過ごした仲間として、友として見送るための行為だ。
だからこそ、シータは嬉しく、同時に申し訳なかった。
「ありがとう、ございます。殿下……皆さま……!」
「普段殿下が使ってる装備よりも豪華なんじゃないか?」
「確かに。こう、煌びやかさが違うぜ」
「そりゃそうだよ。僕が普段使ってるやつは皆の奴とほとんど同じなんだから。もうちょっと体の大きさがしっかりと固まったら作ってもらうよ。けどあんまり煌びやかなのは趣味じゃないんだよね……」
「殿下はこう、実直っていうか、地味な感じが好みですよね。けど、王太子殿下ていう肩書がありますから、そういうわけにもいかんでしょう」
「そうそう。俺らの王太子殿下が俺らと似たような装備ってんじゃ箔がつかない。ミーザ嬢のこれより煌びやかに、豪華にしなきゃな」
「宝石とかつけるか?あとは金とか」
「やめてやめて!そんなのつけられたら恥ずかしくてつけられないよ!」
普段からして平凡な装備を身に着けている側からすれば、いきなりそんな装備を作られても使うことなく埃をかぶるだけだ。
兵士たちと騒ぎながら話すこの空気が、シータは好きだった。
不思議と落ち着く。自分もここにいていいのだという気持ちになる。ここにいたいと、心の底からそう思える。
だが、それはダメだと、シータは自分自身に言い聞かせる。
それをしてしまえば、シータは今までしてきたことの意味を見失ってしまう。
このまま、受けた恩を返すためにアルヴィストに仕えることを考えたことがないわけではない。
正式に従者とすることを認めてもらえるだけの信頼関係を築くことができているという自覚は自他共にある。
家名を捨てることになるかもしれないが、それを踏まえても余りある厚遇といっていいだけの環境がここにはある。
受けた恩の大きさは計り知れない。ヴィルクリフ王にも、そしてアルヴィストにも、シータは多大なる恩を受けた。
それを返すために、残りの人生を捧げても問題ないとさえ思えた。
しかし、それはできないと彼女の中の誇りが囁くのだ。
あとは覚悟と、それを通すための意志。
「殿下の晴れ姿、見てみたかったですね、きっと輝いて見えたことでしょう」
本心からの言葉だった。この空間からの決別。
シータはようやく、その覚悟と意思を固めることができていた。




