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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

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0671:戦闘型として

 普通の人間ならば間違いなく死ぬ一撃だ。原形をとどめていられるかどうかも怪しい威力を有している。

 しかし、クーランはその一撃を完全に受け止めていた。彼女の体を支える地面には亀裂が入り、亜巨人が繰り出した威力を物語っている。


 しかしその一撃を完全に受け切ったクーランは、傷一つついていない。込められた力全てを受け止めたうえで、拳と腕でできた影の中から亜巨人を睨みつける。


「良い一撃です。並の人間ならば一撃でしょう。危険です若様。もう少し……あと五歩ほどお下がりください」


「あいよ。助けはいるか?」


「不要です。ですが少々手間がかかるでしょう。なかなかの重さですから」


 大きいということはそれだけ重いという事。重いということはそれだけ強いという事。単純な質量の世界においてこれほど相手に押し付けやすい力の差はない。


 しかしそれを踏まえてもクーランは動じなかった。


 メイファンと性質こそ異なるものの、彼女もまた戦闘特化型のホムンクルスだ。ただの魔物程度にやられるほど弱くはない。


 叩きつけられた拳が持ち上がると同時にクーランは亜巨人の足元に踏み込むと、その足を強引に持ち上げてバランスを崩させる。


 だがそこは体格差のせいもあって、本当に僅かに体勢を崩すにとどまった。だがそれで十分だった。


 腰に巻かれている布のような体毛を掴んでその体の上に駆け上がると顔面目掛けて蹴りを叩きつけた。


 目元を狙って放たれた一撃に亜巨人も動揺したのか、自分の顔近くにいるクーランを掴もうとするが、彼女は既にそこにはいない。


 頭を跳び越えるようにして亜巨人の背面に回ると、その両足にも蹴りを放ち亜巨人の体勢をさらに崩す。


 大きな体を制御することに慣れていても、その大きさ故に勢いよく振り回された体を止めるのにもそれ相応の力が必要になる。


 体勢が大きく崩れ、亜巨人はその腕を振り回すようにしてバランスを取ろうとするが、そこにさらにクーランの一撃が襲い掛かる。


 膝カックンの要領で叩きつけられた蹴りは、亜巨人のバランスを崩し、その巨体を地面に転がすことに成功していた。


「ただ倒すだけでこの苦労ですか。しかも大して痛痒ではない様子。大きな魔物というのはそれだけで脅威ですね」


「だろ?だからこそ実験したいんだ。けどなかなかどうして、俺じゃこいつらを魔物化できないからな」


 亜巨人の子供などを都合よく見つけることができていれば別なのだが、生憎とその様なことはない。


 和平が今まで魔物にしているのはあくまで小動物系の魔物がほとんど。あとは子供を見つけられた少数の中型の魔物ばかりだ。


 大型の魔物に関しては実はこれが初の遭遇となる。


 人間の町をメインに活動をしていた弊害といえるだろう。ちゃんと町と町の間を歩いたりしていたら話は違ったのかもしれないが、普段からしてワクモで移動してしまっているから出会う機会に恵まれなかったのである。


「なるべく外傷を与えずに制圧。できるか?」


「やってみましょう。幸いにして、相当頑丈なようです」


 先ほどのクーランの攻撃でもほとんどダメージは受けていないようだった。


 全力ではなかったとはいえ、クーランの一撃を受けても何の問題もなく行動することができるようで、既に立ち上がろうと体をゆっくりと動かしている。


 大きな体であるが故の動きの遅さなのだろうが、しかし大きいが故に少しの動きだけでも周りに与える影響は多大だ。


「では、もう少し転がっていてもらいましょうか」


 クーランは立ち上がろうとしている亜巨人の腕を蹴り、強引に体勢を崩させる。


 大きなものが立ち上がろうとするならば支えが必要だ。最低でも三点の支えがなければ立てないだろう。その一点を蹴り崩せば立ち上がれなくなる道理だ。


 しかし亜巨人もクーランが邪魔をしてきていることを察知したのか、地面を転がりながら腕を振り回して攻撃しようとしていた。


 もちろんそんな攻撃にあたるクーランではない。しかし巨大なだけあって攻撃範囲が恐ろしく広い。


「若様申し訳ありません。もう十歩ほど下がっていただけますか。このままでは破片などが飛ぶかもしれませんので」


「オッケー。しかしこうして暴れ散らかしてるの見ると、やっぱでかいってのはすごいなって感じるわ。ジタバタしてるだけなのにすごい迫力」


 傍目から見れば地面を転がって手足を無造作に振り回しているだけの姿だ。大の大人がやっているのを見たらドン引きするであろう光景だというのに、巨人がそれをやっているというだけで恐ろしい光景に早変わりする。


 腕が地面にあたるだけで振動が辺りに響き、足が放り出されるだけで近くの木がなぎ倒され、体が転がるだけであたりに土煙が舞い上がる。


 あの中に飛び込むだけで人間はひき肉になるであろうことが容易に想像できるほどの力の差。単純な大きさという何よりも恐ろしい力を前に和平は笑っていた。


 怪獣と巨大なヒーローが戦うとき周りはこんな感じなのだろうかと想像してしまって、それを実現させたいという気持ちもわいてくるのが不思議だった。


 そんなことを考えている和平はさておき、クーランからすればどうしたものかと悩んでいる状況ではあった。


 何せ攻め手に欠ける。現在クーランが行えるのは単純な打撃のみ。大きな外傷を与えてはいけないという制限の中で相手を無力化しなければいけない。


 魔法が使えれば、この巨体でも拘束することができるのかもしれないがクーランにそれはできない。

 しかし、やりようはある。


 相手が人型ということもあって、クーランはとるべき手段を頭の中で組み立てていた。


「メイファンがいれば楽だったのですが……そうもいきませんね」


 彼女は上半身の鎧を外すと少しでも身軽になる。これほどの巨体を有する者を前に鎧などほぼ無意味だ。鎧ごと潰されるのであればつけていても意味のない鎧はただの重りでしかない。


 亜巨人は暴れながら転がり、機を見て立ち上がろうと近くの岩や木を掴んで杖の代わりのようにする。

 しかしそれを見逃すほどクーランは間抜けではない。


 岩を蹴り砕き、木をへし折り亜巨人が立ち上がるのを徹底して防いでいく。大きさにあかせた攻撃を何度も許してしまうとそれだけで和平を危険にさらしてしまう。


 この魔物は立ち上がらせてはいけない。彼女の護衛としての役割がこの巨体が立ち上がるのを許さなかった。


 この女がいる限り自分は満足に動けない。それを理解したからか、亜巨人は立ち上がるのを諦め、膝立ちの状態でクーランに向き合う。


 動きこそ制限されるが、両腕を使えるようになった状態であればクーランと相対することもできると考えたのだろう。


 やはり人型の魔物。獣などのそれと違い多少は知恵が回るようだった。


 その知恵も、高い知能を持っている者からすれば猿知恵レベルのものなのだが。


 亜巨人が両腕を使いクーランを捕まえようとするが、鈍重な亜巨人の動きでは彼女を捕まえることなどできはしない。彼女は軽々とその腕の攻撃を回避し背後に回ると再び亜巨人の肩のあたりまで跳びあがる。


 そしていつの間にか掴んでいた砂を亜巨人の目に直接叩きつけた。


 頑丈な肉体を持っている亜巨人でも、弱い部分は絶対に存在している。眼球などはその最たる例だろう。


 膝立ちの状態では背面の状態を確認するにも即座に対応できない。亜巨人の元々の動きの遅さもあり、完全にクーランの動きに翻弄されてしまっている。


 目つぶしをされ、彼女を完全に見失った亜巨人は腕を振り回してとにかくクーランを攻撃しようと暴れまわっていた。


 しかし彼女は既にその腕の射程内からは外れている。亜巨人の動きを観察しながら準備をしているのだ。


 用意しているのはロープ。といっても普通のロープであるために、亜巨人の体を拘束するには心もとない。


 しかし今はこれで十分すぎる。


 振り回している腕にロープを絡める様に投擲し、亜巨人が腕を振り回すたびに適度にロープを操ってその体に適度に搦めていく。


 そしてある程度ロープが亜巨人の体に絡まったところで、彼女は一気に間合いを詰めるとその体に駆け上がり、亜巨人の首部分にロープがかかるようににひっかけた。


 腕を一定以上の範囲に振り回すと首が絞まるような形になると、亜巨人は自らの体に起きている状態をおおよそ察する。


 しかし蔦か何かが絡まっているのとそう変わらない。強引に力を込めれば千切れるであろうことは想像に難くない。


 クーランもそのくらいは承知の上だ。


 暴れていた亜巨人が自分の体に絡まっているものを認識して、ロープを掴んで引きちぎろうとしている最中、クーランはロープを掴んで思いきり引っ張る。


 首にかかっているロープが締まり、呼吸を阻害するが、そこは亜巨人の屈強な首。ロープで締め上げた程度では多少阻害する程度にとどまり、完全に呼吸を止めさせることはできはしない。


 しかし目的は呼吸を阻害することではなかった。


 力がかかっている方向。亜巨人は目が見えない状態でそちらにクーランがいると気配をもとに感じ取ってその方向に意識を向けた。


 そしてその感覚は間違っていない。ロープを引くその先には間違いなくクーランがいる。


 ならば、腕が使えなくとも関係がない。確実にその先にいるという確信をもって、亜巨人は体を反転させながらその方向に跳びついた。


 腕も使わず、強引に跳躍するような形で、技術も何もあったものではない。文字通り質量にあかせた体当たりだ。


 亜巨人ほどの体躯をもってすれば、ただぶつかるだけでもおおよその魔物を倒すことができるだろう。それは間違っていない。亜巨人の今までの経験が、その行動が最適であると本能的に理解させていた。


 それこそがクーランの目的であるとも知らずに。


 大きく息を吐き、クーランは腰を落とす。全身に力を漲らせ、狙うのは一点のみ。


 舞い上がるロープを捨て、クーランは遠くに立っている和平の方に一瞬視線を向ける。


 仮にに亜巨人がどのような行動をとろうと和平が巻き込まれることはない。そういう位置取りを彼女は常に続けていた。


 相手の体当たりが届くギリギリの距離に立つ彼女は、亜巨人の体が射程範囲に入った瞬間、体当たりを紙一重で回避すると同時に踏み込み、全力の蹴りを放ち亜巨人の顎を打ち抜いた。


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