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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

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0669:なくさないように

「ワカ、戻ったか。そいつらは?」


 村に戻ってきた和平を迎えてくれたのはいくつもの動物を狩っていたトゥーだった。


 今は血抜きをして革を剥ぎ取っている最中のようだった。


 和平が連れてきた男たちを見て怪訝な表情をしている。長い付き合いをしている和平たちだからこそ、その表情の微妙な違いに気づくことができた。


「村の労働力に丁度いいと思って連れてきた。これだけいればしばらくは村も安定するだろ」


「……妙な匂いがするが……そいつらは信用できるのか?」


「川で洗わせたんだけどな。流石に染みついた匂いは簡単には落ちないか。こいつら元々浮浪者だったんだよ」


「…………浮浪者……仕事も碌にしないろくでなしどもか。そんな連中が村の運営の役に立つのか?」


「役に立たせるんだよ。農作業は根気のいる作業だけど単純作業だ。どんな馬鹿にでもできるんだから。半分はしっかり俺の言う事を聞くようにしてるから何とかなるって」


 何とかなると和平は言うが、浮浪者という存在を何度も街で見てきたトゥーからすればあまりいい印象はない。


 しかし村人たちが少なくなりすぎた状況を考えるとどんな人員も必要と言わざるを得ない。


 人手を確保できないトゥーからすれば渋々ながら了承する他ないのだ。


「我の集落から人を呼んでもいいのだがな」


「そういうわけにもいかないだろ。ただでさえ鳥人族って珍しいんだ。簡単に受け入れられるとも思えないしな」


「ままならんものだな……だが、もう少し匂いだけはどうにかしたほうがいいと思うぞ?あの匂いはどうにも鼻につく」


「…………お前の鼻ってどこにあるんだ?」


「嘴の先だ。我をなんだと思っているんだ。匂いには敏感だぞ?」


「へぇ。意外。目が良いのは知ってたけど、鼻もいいのか」


「そんなことは良い。ともかく、近くの水場で洗わせろ。このままでは他の者の生活にまで支障が出るぞ」


「そんなに臭いか……」


 和平は完全に慣れてしまったからかそこまで気にしなかったが、どうやらかなり臭いらしい。


 村の人たちも和平の後ろの元浮浪者たちを見て怪訝な表情をしている。臭いのか怪しんでいるのかのどちらかだろう。


「あぁそうだ。ついでにちょっとやりたいことがあったんだ。ここでちょっと試すか」


「試す?何を?」


「ちょっと待っててくれ……一応作ってあったんだ。えっと……あった。これこれ」


 和平は懐から特徴的な形をした金属を取り出す。


 棒状の先にエンブレムのようなものを取り付けたものだ。そのエンブレムはこの世界に存在している宗教、ルルアラナ教のシンボルを模しているものである。


「これは?」


「ちょっと試してみたくてな。これをやるとどうなるのか」


「……?鉄の棒のようだが……」


「ちょい待ち。おい、班長三人!こっちこい!」


 班長に任命されている三人は一体何をされるのかわからずにとりあえず和平の下にやってくる。


「えっと……なんでしょうか?」


「今からこれで印をつける。焼き鏝だ」


 焼き鏝と言われて三人は用意されている棒を見て渋い顔をしてしまう。


 これからこの鉄を熱して、体にシンボルの焼き印をつけるというのだ。


 やろうとしていることは理解できても何故そのようなことをしようとするのかが理解できない。


「あの……どうしてそんなことを?」


「宗教を流行らせようと思っててさ。それを手助けするために使えると思ってな。まずは体に焼き印をつけていこうと思うのよ」


「なんで、焼き印なんて……」


「だってお前らどうせ聖印とか渡したってなくすだろ?体に刻んでおけば絶対になくさないからな」


 皮膚に刻み込んでしまえばそう簡単にはなくさない。


 肉体に大きな欠損でもない限りはその聖印が消えることはない。


 聖印を与えるうえでこのように刻み込めば宗教を広める結果になるのではないかと考えたのだ。


「ワカ、人間にもこのように焼き付ける文化があるのか」


「鳥人族にもあるのか?」


「戦士たちはこうして爪などに焼き跡をつける。印をつけることで自らの爪を清め高めるるのだ」


「ほほう。いいじゃないか。宗教的な焼き印はどこにつけようかな?腕か胸か。あとは額か……どこがいい?」


「ど、どこって……そんな……」


「……う、腕でお願いします」


 胸や額に焼き鏝をされるくらいなら腕の方がましだと、班長として役割を与えられた三人は焼き鏝をされることになる。


 悲鳴と一緒に和平への恐怖が強く刻まれることになった。


「ワカ、宗教を流行らせるといったがどうしてそんなことを?何か我々に対して利があるのか?」


 トゥーは宗教的なことに疎い。宗教を広めるといったいどのような良いことがあるのか想像できないのだ。


「宗教を流行らせると治安が良くなる傾向がある。今後難民たちをこっちに受け入れるにあたって潤沢な状況を用意しておきたいと思ってな」


 宗教には確かに治安維持に一定の効果はある。


 しかし和平の目的は別だ。


 その内の一つは宗教的な対立を誘発する点にある。


 ヒルデ協議国から流れてきている難民からすればルルアラナ教は異教徒でしかない。


 ただでさえ荒んでいる難民が異教徒と遭遇した時にどのような行動をとるのか、それが楽しみで仕方がなかった。


「治安維持に関しては理解した。しかし、宗教を流行らせたからといってそんな効果があるものか?」


「まぁそういう要素があるって言うべきだな。治安が良くなるかもしれないって感じだ。実際に治安が良くなるためにはほかにもたくさん要素が必要だ。飯がたくさんあるとか、仕事がたくさんあるとか、住む場所が十分いきわたってるとか」


 衣食住が揃っていれば大抵の人間は安定した生活を送れるものだ。衣食足りて礼節を知るという言葉もある通り、食べるものと着るものがあれば大抵何とかなるのだ。


 逆に言えば、それらがなくなれば人は獣に戻ってしまうという事でもある。


「難民の治安が悪いのはそういうところが原因か。住む場所もなく、食うものにも着るものにも困り、満足に仕事もない」


「そうそう。仕事がないっていうとさ、将来の不安とかそういうので押しつぶされそうになって精神的に不安定になるんだよな。そういう精神的に不安定な人間がたくさん集まると妙なことになるわけだ」


 仕事がしたくとも仕事がないというのは人間の精神に多大な影響を与えるものだ。


 自分はこれからどうなるのだろうか、一生このままなのだろうか。将来を思い描くことができるものであればあるほど、どんどん精神的に追い詰められていく。


 そんな精神的に追い詰められている者ほど宗教にのめりこむ。耳触りのいい言葉に引き寄せられ、宗教活動をしている間だけ、自分が何かをしているという実感と、自分が必要とされているという安心感から抜け出せなくなるのだ。


 そんなところに異教徒が現れたら一体どうなるのか。和平としては楽しみで早いところ難民たちを呼び寄せたいところだった。


「おいワカ、一ついいか」


「ん?どうした?」


 トゥーとの報告以外に何か伝えることがあるのか、サナトラがトゥーの頭から和平の肩へ飛び移ってくる。


「かなりデカい魔物がいた。俺らでとりあえず追っ払ったけど、ここから離れた時にこの村の方に来るかもしれないぞ?」


「ほほう?どういう魔物だ?」


「デカい人型の魔物だ。あんなの見たことない」


 人型の魔物と聞いて和平は巨人を思い浮かべるが、そもそもサナトラが小さいために大きな人型と言われてもどれくらい大きいのか想像ができない。


「ちなみにデカいってどれくらい?俺と同じくらいか?}


「お前よりずっとデカい。周りの木よりもでかいんじゃないかって思ったくらいだ」


「それはだいぶデカいな。本当にそんなにデカいのか?お前が小さいからデカく見えたとかそういうわけではないか?」


「違えよ。おいトゥー、言ってやってくれよ。デカかったよなあれ?」


「あぁ。確かに大きかった。ワカの身長の……三倍近くあったな」


「おぉそりゃデカい。そんなにデカい魔物がいたのか……そりゃちょっと対策しないといけないわな」


 和平の三倍ということは身長にすると四メートルから五メートル程度だろうか。


 巨人というにはやや小さいように感じるが、しかし人型の魔物にしてはかなり大きい方だろう。


 小猩猩などとは比べ物にならない大きさだ。今まで和平が遭遇したことのある魔物の中では随一の大きさというべきだろう。


「そいつの居場所はわかるか?」


「わかるぞ。追い込んだ後で住処らしき場所を割り出しておいた。あとで地図に場所を書いておいてやる」


「助かった。流石トゥー、気が利いてるぜ」


「おいおい、俺が言わなかったらあのデカい奴のこと忘れてただろ。ワカのこととなると夢中になりやがって」


「何を言うか。我は別にそんなことは」


「なんだなんだトゥー、俺が帰って来てくれて嬉しいのか?そう言ってくれればいいものを。愛い奴め」


「よせ、やめろ馬鹿者!」


 トゥーの頭や顎を撫でようとすると彼女は憤慨して距離を取ろうとしていた。


 デリカシーがなかっただろうかと和平は少し反省しながらも、少し真面目な話をすることにした。


 それだけ大きな魔物がいるというのは気になる。今後村を発展させるうえで障害となるのであれば対応しておきたいところではあった。


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― 新着の感想 ―
そういえば聖印を彫って村を巡っている神父の話がありましたね・・・。
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